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てぃくる 521 不埒な花見客 [てぃくる]


 いよいよ桜が咲き始め、花見シーズンがやってまいりました。

 満開の桜を見上げながら、一献また一献と盃を重ねるのは大変結構なんですが、酒に絡んだトラブルが多いのもまた花見の特徴。酔いつぶれるくらいならかわいいもので、酒で気が大きくなった酔客同士の喧嘩になるとしゃれになりません。
 花見ぐらい、雅にゆったり楽しめよと言いたいところなんですけどね。

 ああ、ほらほら。
 あちらで、また騒動が始まったようです。



「どけよ! ここは俺たちのシマだ。なんでつらっとそこに居座ってんだよ!」

「……」

「どけってんだよ! 力尽くでぶっ飛ばしてやろうかっ?」

「……」

「なんだよ、その辛気臭えツラ! 文句あるってえのか?」

「……」

「表に出やがれ! 叩きのめしてやるっ!」

「……」



ydr.jpg




 桜がヤドリギに喧嘩を売ってますが。どけって言われても困ってしまいますよねえ。桜の枝の上に根を下ろしてしまってますから。(^^;;

 桜の木にとっては、居座られた上に栄養を横取りされるんじゃたまったものではありません。とんだ花見客です。でもヤドリギのサイズは小さいので、うっとうしいだけで実害はあまりないかと。

 威勢のいい桜花ですが、じきに散ります。そのあとは緑一色になるので、同じ緑同士、仲良くやってください。(^m^)





  酔人も薄紅色の花見かな






Cherry Blossom Girl by Air



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てぃくる 520 愛しあってるかあい? [てぃくる]



僕らは愛し合ってるよ

今は、ね



aok.jpg




 アオキの開芽。

 ハグして、チューしてはいいですけど。
 すぐにお別れしてそっぽ、になります。

 今はまだ子供だからしょうがないってか? (^^;;


 冬芽の間は、固く抱き合って寒さをしのいでいた葉っぱの仲間たち。
 それが解けて、これからそれぞれが自立して稼ぐことになります。

 別れを惜しむかのような抱擁に愛を感じるのは、わたしだけでしょうか。





  時を色に変え咲き競ふクロツカス






Hug All UR Friends by Cavetown



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てぃくる 519 吹き出す [てぃくる]


「何かがぱあっと吹き出す感じっていいじゃん」

「そらあそうだけど。おまえが吹き出すのはろくでもないものばっかだよ」

「ええー?」

「合コンで、向かいの女の子の顔見て吹き出しただろ」

「そのあと、みんなにふるぼっこにされたし」

「たりめえだ。バレンタインの時には、女の子がみんなにって持ってきてくれた義理チョコ、一人で全部食い尽くしたよな」

「にきびが吹き出して大変だったわ」

「卒コンの時には、大酒飲んでげろ吹き出しやがって!」

「もったいないことをした」

「先輩のゼミ発表の原稿に勝手に吹き出し書いたのも、おまえだろ?」

「なんか物足らんと思ったんだよ」

「教室のエアコン吹き出し口にカメムシ突っ込んだのも、おまえだよな?」

「あれはえれえ臭かった。てか、どんだけ俺に突っ込むんだ?」

「だあほっ! おまえに対する文句がいっぱい吹き出してんだよっ!」

「……」

「どっかでぶっすり刺されて、血ぃ吹き出しても知らんからな」

「俺、やっぱ吹き出しよりも炊き出しが好き」




tpp.jpg
(タンポポ)




(^^;;





  蒲公英の花輪天使の輪になりぬ






Dandelion by Nalba




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てぃくる 518 器 [てぃくる]


「人としての器が大きいとか小さいとか言われることがあるけどよ」

「ああ」

「器の質を問われることはないんだよな」

「確かに。でも」

「うん?」

「泥ででかい器を作れば、汚れるけどいっぱい入る。でも極小の金杯は、高貴であっても何も入れられない。そういうことちゃうか?」

「うーん、それはわかるけどよ」



hod.jpg



この器は俺たちに合わんよな




(^^;;






 融通が利かない器に生えてしまったヒメオドリコソウ。
 その器なりの育ち方をし、その器なりの生を全うします。
 彼らに器を選ぶ手段がない以上、そうするしかないんです。

 人間は動けるから、器を選べる? 本当にそうでしょうか?

 結局、自分という器なりに生きている人が圧倒的に多いように思うんですよ。
 他人の器の大小良否をいくら気にしたところで、人の器の中に入ることはできませんし、他人を自分の器にぴったり収めることもできませんから。





  豆腐脳 器ばかりが硬くなり






Japanese Bowl by Peter Mayer



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てぃくる 517 夜目遠目笠の内 [てぃくる]



hak.jpg
(ハクモクレン)




 遠目に美しい満開のハクモクレン。
 ですが、アップで見ると花弁のあちこちに染みがあります。すでに、盛りを少し過ぎていたようです。

 それでも遠目に眺めている時には、わずかに花弁を汚す染みには気が付きません。見ているわたしたちの意識が、一斉に開花して春の到来を祝うエネルギーに向くからでしょう。

 ◇ ◇ ◇

 よほどのひねくれ者でない限り、自他の評価はまず長所からしようとするんじゃないでしょうか。自分のいいところ、相手のいいところ、適用しうる最良の評価をまず当てはめ、そこから減点法で適正だと思う位置まで下げていく。多くの方が、無意識にそういう情報整理をしているように思います。
 ところが一旦その方法で大きな失敗をしでかすと、今度は長所に一切目を遣らず、ネガティブな部分だけを数え上げて評価しようとすることも多いんです。

 先ほどのハクモクレンを例にすれば、ぱっと見の艶やかさを「きれいねえ」とそのまま評価するのが普通じゃないかと。
 でも、「花なんざ、よく見りゃ染みだらけさ。すぐに汚く萎れて散るし」と斜に構え、アップで見た時に現れる褐色の染みを指摘して勝ち誇る人もいるわけです。ほら見たことか、しょせん真実なんかこの程度のものなんだよ、と。

 夜目遠目笠の内。見えない部分にはアラばかりさ。美化して期待する方がおかしい。
 まあね。実際にそういうことがたくさんあるでしょう。


 だけど、美醜や価値の判断を小さな枠に押し込めれば、自分の中にいつまでも残る感情が否定ばかりになってしまいます。
 何もかもネガに見て共感できず、敵意や嫌悪をむき出しにするから誰にも共感してもらえず、忌み嫌われることを他者の無理解のせいにする。わたしにとっては、そういう態度こそが花弁に最初からこびりついている汚い染みに見えてしまうんです。

 まあ。それを一々指摘しても始まりませんので、笑って蓋をすることにしています。

「汚い? ああ、確かにそうかもね」

 誰が(何が)とは、あえて申しません。それは野暮ってもんでしょうから。(^m^)






  盛りなどわからぬままに桜花咲く







At A Glance by Message To Bears




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てぃくる 516 旗を振る [てぃくる]


「白旗」
「降参だな」

「赤旗」
「共産党の機関紙」

「青旗」
「ジャム」

「黒旗」
「海賊旗のイメージかな」

「桃旗」
「えろい」

「緑旗」
「葉っぱに紛れて、よう見えん」

「紫旗」
「校旗とかにありそう」

「茶旗」
「どうにも……冴えんよなあ」




rg.jpg
(レンギョウ)




「黄旗」
「緑のおばさんが持ってるやつ」




(^^;;






 昭和の時代には、横断歩道の前後に黄色い旗を入れた筒を見かけたんですが、信号の普及とともに緑のおばさん共々絶滅したように思います。
 じゃあ、その分交通事故が減ったかというと、うーん……。


 新入生が、路上をうろうろするシーズンが近づいてまいりました。
 車を運転される方は、くれぐれも安全運転でお願いしますね。


 念のために、これでもかと黄色い旗を振っときます。(^m^)





  連翹のひと枝旗にならむとす






Wall Street Bongo by Yello

アルバム『Flag』から。
変なおじさん二人が、変な旗振ってますね。(^m^)



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てぃくる 515 雪のように白く [てぃくる]


 白という色を 何で言い表せば良いのだろう

 何かを失って 白くなるのではなく

 そのものが 白以外であってはいけないもの

 考えてみると 意外に思いつかない




anm.jpg
(アネモネ)





 白は 透明とは違う

 それは 間違いなく色そのものなのだ

 誰かが 白を雪にたとえた

 確かに とてもいい比喩だと思う

 雪が白を失うと もはや見えなくなるのだから





 存在が薄れる。存在を失う。
 白は、しばしばそのイメージで使われます。

 穢れがないと言えば聞こえがいいですが、実際には空虚であることの裏返しかもしれません。
 色を持てないことの悲哀を白で代弁させるのは、白にとって不本意じゃないのかなあと。

 あっさりとした咲き姿の白いアネモネを見下ろしながら。そう思ったりします。





  確かなり 春に抗い花白し







White As Snow by U2




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ちょっといっぷく その176 [付記]

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ながーいお弁当休暇をいただいていたんですが、ちっとも
本編の執筆が進みません。
ずるずると幕間繋ぎばかりお届けするのは本末転倒ですの
で、久しぶりにまとめて本編のお弁当を放出しました。

このあとも続けて……と行きたいところなのですが、とう
とうお弁当の在庫が尽きてしまいましたので、またしばら
くはてぃくるで繋ぎたいと思います。

その前に、今回お届けした五話を総括しておこうと思いま
す。


           −=*=−


第八十七話。

夏休み明けすぐに、いっきの進路決定に関して瞬ちゃんの
探りが入りましたね。
外見的にはこわもての先生ですが、ちゃんと生徒一人一人
をよく見ています。将来設計が不安定だったいっきを心配
していたんでしょう。

いっきは、親やしゃらには今後の方針を宣言していました
が、先生にはまだオープンにしていませんでした。
学校に公式宣言することで、全ての退路を自ら断ったこと
になります。

そのいっきの覚悟を瞬ちゃんが肯定し、ぴったり表現して
くれたことは、これから受験に挑むいっきにとって大きな
心の支えになるでしょう。

ただ。
そうした周囲の支えの手を取れなかった寝太郎の離脱は、
助力を活かして自分を立て直してきたいっきや北尾さんに
とって、ひどく辛かったんです。

「手を貸すなら、まず手を貸せる自分自身にしなければな
らない」

ジレンマではあるんですが、受験が目前のいっきや北尾さ
んはまず自分の前のハードルを先に飛ばないと何もできま
せん。

……切ないですね


第八十八話。

またいとこのさゆりちゃんに絡むごたごた。
親族とは言え他家のことですから、いっきだけでなく家族
の誰も関わりきれないんです。
いっきたちがいくら家族会議をしても、あまり意味がない
んですよね。

前話の寝太郎と同じで、いっきがなにかしてあげたくても
手伝える余地がありません。
そんなもやもやを抱えていたところに、りんから衝撃情報
が。

「両親が離婚して、姓が変わる」

りんがいくら陽気で大雑把に見えても、それはポーズ。
実際にはとても繊細だということを、いっきはちゃんと見
抜いています。
でも、りんはとことん未来志向なんですよ。

逆境の時に後ろを向くと、どこにも進めなくなるよ。
りんみたいに、前を向かなきゃ!
中学の時にずっと後ろ向きだったせいで、自分の立て直し
に苦労したいっきは、さゆりちゃんのひどいへたりように
強い危機感を抱くんですが……。

何もアプローチできないいっきは、すごくもやもやしてし
まいます。


第八十九話。

週末、勉強の息抜きで県博にふらっと出かけたいっきが、
学芸員の神村さんと会話を交わしました。

中沢先生の先輩である神村さんは、婚約者が飛行機事故で
亡くなっています。
自分が婚約者にとって寸足らずであることを知りながら、
アンバランスを是正する前に相手が逝去してしまったこと。
神村さんにとっては、それが大きなトラウマになっていた
んです。(→SSの『仮説の検証』をお読みいただければ
幸いです)

恋人の死後にリスタートしきれなかった神村さんは、自分
よりもっと立ち直りに時間がかかると思っていた中沢先生
の結婚話を聞いて、大ショック!
もちろん、自分を立て直す方法や速度には個人差があるの
で、比べても意味はないんですけどね。

逆境に強いとか弱いとかというのは絶対的性質じゃなく、
他者との化学反応によって変わりうる相対的なもの。
そういうことを、いっきがじわりと意識した話になってい
ます。


第九十話。

いっきがのんびりと夏休みを振り返っている間に、隣家が
戦争になっていましたね。

いっきが久々に大チョンボをやらかしました。
そう、自分のことで頭がいっぱいになっていて、会長の出
産予定をすっかり忘れていたんです。

予定日より早く破水して関係者全員右往左往している時に、
のんびり顔を出し、妹の実生にこっぴどくどやされました。
しゃらにもすぐに状況報告を流したんですが、全力でどや
されましたね。

いっき自身も振り返っていましたが、こういうところに微
妙に男女差が出るのかなあと思ったりします。(^m^)

ご主人が船員で、来年家政婦役の亜希ちゃんが家を出ます
から、会長一人で二人分の育児は辛いんじゃないか?
そう案じたいっきは、会長が大学在籍時にバイトしていた
スナックのママさんである津川さんが同居すると聞いて、
ほっとします。

同居で生じるであろう軋轢よりも、自分が孤立しないこと
の方が重要。
善意だけではない会長の現実的な判断を見て、いっきは自
分としゃらとの関係に重ね合わせた部分もあったでしょう。

そして。
『家庭』というものの形と意味を、改めて考える話にした
つもりです。


第九十一話。

会長が無事第三子になる男の子を出産し、ハイになるいっ
きとしゃら。
はしゃいでいたところをえびちゃんにがっつり怒られ、一
転して反省モードに。

まあ、二人揃ってかんばしくない話しか周りになかったの
で、うっぷんが溜まっていたんでしょう。(^^;;

仕方なく話をしゃらの新居のことに移しますが、そこで家
庭の中での自分の位置付けを思い返すことになります。

いっきもしゃらも親が揃って愛情深いですから、家という
居場所がもっとも心地いいんです。
でも居心地がいいからこそ、外で逆風にぶち当たった時に
自分の家にしか居場所がなくなってしまいます。
しかもそのスペースは、決して大きくも安全でもありませ
んでした。

転居続きで、自分の居場所がずっと貧弱だったいっき。
家族がトラブルに巻き込まれる度に、居場所が縮んでいっ
たしゃら。
どっちかがマシなんじゃなく、どっちも歪んでるんです。

これから家というシェルターを出る覚悟をしたいっきも。
自力でシェルターを築かなければならないしゃらも。
守られるだけでなく、誰かを守れる場所を作ろうと。

そう考えていくことになりますね。

最後にさゆりちゃんのケアをめぐる父親との会話がありま
したが、こういう柔らかいやり取りがいっきの家庭のカ
ラーなんでしょう。(^^)


           −=*=−


これから三年生編の九月入りになります。
九月には大きなイベントがなく地味めですが、喜ばしい出
来事と困ったトラブルがいっぺんに降ってきます。
いっきが、これまでの経験を活かしてそれらをどうさばく
か。いっきの成長が垣間見られる展開になるかと。

すぐそこへ突入したいところなんですが、十月に学園祭と
しゃらの実家である理髪店の新装オープンという大きなイ
ベントがありますので、そこが書き切れるまでてぃくるで
繋ぎます。ご容赦ください。(^^;;



ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽
にコメントしてくださいませ。

でわでわ。(^^)/



ug.jpg




昼に赤く光る星がある

夜には見えなってしまうんだ

だから昼に光るのさ





ウグイスカグラの花が賑やかになってきました。(^^)




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三年生編 第91話(9) [小説]

父さんには辛い時間だっただろうな。

心情的には抱え込みたい。
でも、そうするとさゆりちゃんが腐ってしまうのが最初から
見えてるんだ。

同年代の子とずれればずれるほど、復帰するのにエネルギー
が要るようになる。
引きこもってる間に、そのエネルギーが湧くわけないじゃん。
傷の痛みが軽くなるだけで、それ以外はなにも出てこないよ。

じゃあ、父さんがそれを言ってさゆりちゃんをどやせる?
無理だよ。信高おじちゃんの代わりに恨まれるだけ。
母さんのどやしだって、ひやひやだったんだから。

子供のトラブルに詳しい、僕らとは利害関係のない専門家に
適切なアドバイスをもらうこと。
今は、それしか突破口がないと思う。

「済まんな。余計な心配かけさせて」

「いや、健ちゃんさゆりちゃんには、僕らの辛い時にずいぶ
んサポートしてもらったからさ。僕に出来ることはするよ」

にこっと笑った父さんが、立ち上がって僕の肩をぽんと叩い
た。

「いつきは、俺の時より大人びるのが早いな」

「そう?」

「それでも、あまり生き急ぐなよ。のんびり行け」

「あはは」

うん。
父さんの言葉は……うれしいね。

いずれ、僕らはなんでも自力でこなさなければならなくな
る。黙っていてもそうなるんだ。
それなら、補助輪付きの期間はしっかり楽しめ。
そういうことだよね。

父さんが部屋を出て行ったあと。
僕はゆっくり肩を回して解した。

家庭の雰囲気っていうのも、一種の匂い。
そして、うちの匂いは淡くて緩い。
それが……うれしいなあって。


           −=*=−


「あ、森本先生ですか? 工藤です。ご無沙汰してますー」

「どうしたの? 御園さんを孕ました?」

ひりひりひり。

「せんせー。そのネタはもう止めましょうよー」

「何言ってんの。私はそれくらいしか楽しみがないんだから」

ひーん。

「いえ、ちょっと従妹のことでご相談が」

「は? 工藤くんの従妹?」

「正確にはまた従妹なんですけどね。実生とおない年。小さ
い頃から仲がよかったんで」

「その子がどうかしたの?」

森本先生に、これまでのことをざっと話した。

「ふうん。なるほどね。まあ、直接話してみるかな」

「すみません。僕らより、向こうがスタックしちゃったみた
いで」

「そんなに心配しなくていいわ。親がちゃんと子供に向き
合ってるなら、調整だけ。お茶の子さいさいよ」

さすが、プロ。場数を踏んでるだけある。
お茶の子さいさいと言い切ったよ。
思わず携帯を拝んでしまった。なむなむ。

「それより、弓削さんの方がずっと厄介」

「ですよね……」

「そっちは時間をかけるしかないね。でも、伯母さまが本当
にしっかり後見してくださってる。頭が下がります」

「いい方向に行って欲しいです」

「そうね。今のところ、妹尾さんのプログラムは順調にこな
せてる。あとはスタッフの確保と引き継ぎをどうするか、だ
ね。伯母さまとも相談して、プランを詰めます」

「お願いします!」

「御園さんにもよろしく言っといて。早く工藤くんを押し倒
しなさいって」

「せんせえええええっ!」

「うけけけけ」

ぷつ。

ったく。
相変わらずおちゃめなんだから。

でも、森本先生は行動が早い。
信高おじちゃんやさゆりちゃんが動けない状態を、さっと解
消しにかかるでしょ。

少しほっとして、そして気付いた。
ヘリオトロープの甘い匂いが、じわっと部屋を満たし始めた
ことを。

「うん。いい匂いだ。でも……これは僕の匂いじゃないね」




heliotrop.jpg
今日の花:ヘリオトロープHeliotropium arborescens


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三年生編 第91話(8) [小説]

「新学期始まっちゃったから、どっちにしてもリスタートの
タイミングは遅れる。そこをどう考えるか、だよなあ」

「どういう意味だ?」

「中途半端に復学してネガな気持ちを引きずるより、いっそ
留年して最初からやり直した方がいいケースもあるかなあっ
て。僕の知り合いを見回した感じでは」

「ほう。どういう子がいるんだ?」

「しゃらの中学の同級生は、高校入ってすぐに親との縁が切
れちゃった」

「!!」

父さんがのけぞって驚いてる。

「そんなこと……ありうるのか」

「いろいろあってね。結局入った高校からこぼれちゃって、
一年留年さ」

「その子は、今はどうしてるんだ?」

「働きながら、同じ高校に復学したよ。ワーキング高校生」

「定時制や通信制でなしに、か」

「そ。ちゃんと普通科の高校に通ってる」

「なるほど。それはすごいな」

「後見してる人がしっかりしてるからね」

「うーん」

「僕の先輩にもそういう人がいたし、基本やりたいことが決
まってる人はリスタートの後ふらつかないんだ」

「そこだよな」

「うん。僕もそこが鍵かなあと思うんだよね。だから、すっ
ぱり留年するんなら、復学するまでの間は外に出ないとダメ
だと思う」

「働けってことか?」

「そう」

「……」

「さゆりちゃんがそれ無理って思うなら、出来るだけ早く復
学して、留年回避に全力を注ぐしかないよ」

「ああ」

「僕が中学の時に必死に受験勉強がんばったのは、特別視さ
れたくなかったから。あいつは弱っちい。何も出来ない役立
たず。そういう見方をされちゃうのが、どうしてもいやだっ
たから」

「……」

「みんなと同じラインからスタート出来たから、ぽんいちに
入る時も入ってからも変なコンプレクスを感じなくて済んだ
かなーと思う。だから、早く立ち直れたんだよね」

「そうだよな。さゆりちゃんにもそう考えて欲しいんだが」

「たださ」

「ああ」

「さゆりちゃんの家族にすら出せない結論は、僕らが後押し
しても出せないよ。僕は、むしろプロに任せた方がいいかな
と思う」

「カウンセラーとか、か?」

「そう。僕らの知らない人だとちょっとアレだけど、実生へ
のつきまとい事件の時に動いてくれた森本先生とか、今伯母
さんちで弓削さんのケアで動いてる妹尾さんとか、頼れる人
がいるからね」

父さんが、ほっとした顔をした。

「確かにな。いつきの方で連絡を取ってくれるか?」

「いいよ。まず森本先生に打診する。直で話せば、さゆりちゃ
んも何かアドバイスをもらえるでしょ」

「助かる」



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