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三年生編 第60話(1) [小説]

7月7日(火曜日)

いよいよXデイ。
ぽんいちの中庭の特別審査の日が来た。

審査は学校のカリキュラムの邪魔にならないようにって、普
通は昼休みか放課後に設定されるらしいけど、安楽校長が四
時限を全学年全クラス自習にするっていう粋な計らいをして
くれた。

プロジェクトのメンバーだけが勝手にやってることじゃない。
学校側も生徒も、みんな中庭に関心を持ってるっていうこと。
それをきちんと見せたいっていう校長の説明だった。

安楽校長。
ありがとうございます!

審査員の方たちは11時に校長を表敬訪問して、校長と顧問
の中沢先生の案内で中庭に移動し、11時15分から審査を
始める。

プロジェクトメンバーはホスト役ということになるので、自
習の義務を解かれて11時から準備と対応、プレゼンに当た
るんだけど……。
準備と本番合わせても、実質二時間ない。
まさに短期決戦だ。

昼休みにはミニイベントも同時開催するから、頼むから雨降
らないでくれっていうのが僕らの心の底からの願いだった。
部員総出で何百個もてるてる坊主を作って、中庭に張ったロー
プにぶら下げた。

昨日は一日中雨降りでどうなることかと思ったけど、今日は
分厚い曇り空ながらなんとかこらえてる。
天気予報ではこれから回復傾向って言ってたから、本番はな
んとか雨の心配はなさそう。
てるてる坊主にずぶ濡れになってもらった効果はあったみた
いだ。

朝一で僕とみのんとでてるてる坊主を撤去して、イベ班にバ
トンタッチ。短時間でセッティングに取り掛からないとなら
ないイベ班は、これから大忙しだ。
しゃらもちっかも、大声で下級生に指令を出しながら忙しそ
うに走り回ってる。

んー。そこが僕的にはどうも……なあ。
牽引役が違うじゃんか。それは黒ちゃんの仕事だぞー?

「ふう……」

結局しゃらはこの前の僕の懸念をもっともだと考えてくれた
みたいで、茶華道部の板野さんにクレームをつけさせる作戦
をぎりぎりで回避した。
それで、一年生たちを直接どやすことにしたらしい。

あんた方、プロジェクトを潰すつもり?
わたしたちはもう卒業だからそれでも構わないけど、まじめ
な部員に恨まれるよって。

そういうネガな材料で引っ張るのは感心しないんだけど、本
番直前ならそれくらいやらないと効果がない。
今のイベ班の子が全員やる気ないっていうならともかく、一
人でも責任感のある子がいるなら、その子に旗を振らせるし
かないからね。

部員数だけぶくぶく膨らんで、中身が無責任なお客さんばか
りになってしまうんじゃ部活の意味がないもん。

実務の仕事はもう終わってる。あとはプレゼンだけなんだ。
だから今のイベ班の子だけでなく、手の空いてる人は全員ミ
ニイベントの補助に回ってもらう。
そして、今のイベ班の子にその作業を全部仕切らせることに
したって。
うん。それはすっごくいいアイデアだと思う。

仕切るっていうのは簡単に出来るように思うけど、結局自分
から率先してやらないと誰も動いてくれない。
そういうのは、自分がその立場にならないとなかなか分かん
ないんだよね。

しゃらとちっかがまとめた膨大な作業リストを見て、だらけ
てた子らはぎょっとしたらしい。
ちょっと、これ全部わたしたちがやるのって。
ばかたれが。少しはしゃらたちの苦労を思い知れって。

おもしろいなあと思ったんだけど、そこで真っ先に気持ちを
切り替えたのは、女の子じゃなくて男の子たちだった。

二年生の四天王と同じで、やっぱり男の子の方がプレッシャー
に強くて、いざという時に馬力が出る。
すぐに小さなグループに固まっちゃう女の子と違って、一人
でもがしがし動くんだよね。

新人歓迎会の時に、最初に僕のいるテーブルに来た高橋くん
て子。
その時は大人しくて引っ込み思案かなあと思ったんだけど、
そんなことはなかった。
一切文句を言わないで、他の男子部員を巻き込んでばりばり
仕事をこなし始めた。

女の子トップで仕切る、仕切られるの関係が出来ちゃうと、
それが微妙に感情に跳ねるんだけど、男の子が引っ張ると女
の子は逆に割り切るんだ。しゃあないかあって。
そこらへんがすっごい不思議。

僕は、男の子だから女の子だからって見方はあんまりしたく
ないんだけど、現実として自然に男女での役割分担が出来て
くる……というか出来てしまう。

まあ、それは流れに任せるしかないよね。

しゃらとちっかの全力サポートはあったけど、無事に他部と
の打ち合わせや準備を済ませて本番に臨めることになった。
やれやれだ。ほっとする。

そしていよいよ本番。
11時集合の全部員が持ち場をもう一度点検して、委員の先
生たちが中庭に来るのを待ち受ける。

やっぱ……緊張するよなあ。
不安と期待が入り混じった状態で、そわそわしながら中庭で
待機していた僕らのところに、校長と中沢先生が何人かの人
を引き連れてやってきた。

男性が二人と女性が二人。四人か。
でも男の人の一人はマスコミの人みたいで、ばしゃばしゃ写
真を撮りながら校長と話をしてる。
きっと、取材なんだろう。

ってことは、審査員の先生は三人か。
みんなそこそこの年齢だな。あらふぉくらいかな。

校長が鈴ちゃんを手招きした。
ぱっと走っていった鈴ちゃんの後ろに、ぴったり四方くんと
菅生くんが付いていく。

鈴ちゃんたちが、三人揃って先生たちにぺこっと頭を下げた。
僕らもそれに合わせて丁寧に一礼する。

最初に校長から、審査員の先生たちの紹介があった。

「本日、本校の庭の審査をしてくださるのは、ガーデンデザ
イナーの滝本早百合さん、株式会社アーバングリーン設計部
主事の大向(おおむかい)智治さん、そして株式会社緑水園
の企画開発課長の永江久美子さんです。くれぐれも失礼のな
いようにね」

「はい!」

鈴ちゃんが、元気な声を張り上げた。




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