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三年生編 第65話(2) [小説]

ファンシー系の小物。プリクラのびっしり貼られたパネル。
ぬいぐるみ、アイドル歌手のポスター。
どっちかといえば素っ気ないしゃらの部屋とは、全然カラー
が違う。

「ううー」

「いや、これが当たり前なんだろさ」

「そうなの?」

「自分色に染めたくなるもんでしょ」

「じゃあ。お兄ちゃんの部屋は?」

「変わらんなー」

今度は、実生が僕の部屋にちょこちょこっと入ってきた。

「うわ……」

ちょろっと見たことはあっても、しげしげと見回したことは
なかったんだろう。絶句してる。

「なあんもない。牢屋みたいー」

「ぎゃははははっ!」

思わず馬鹿笑いする。

「中沢先生には倉庫だって言われたなー」

「うん。そんな感じ」

でも、見回していた実生の視線が一点で止まった。
そこから……動かなくなった。

それは。
修学旅行の時に小野さんに撮ってもらった、僕としゃらのス
ナップ。
母さんには見せたけど、恥ずかしいから父さんや実生には見
せてなかったんだ。

「あれって……」

「ああ、修学旅行の時にアマチュアカメラマンの人に撮って
もらったの」

「頼んで?」

「いやあ、いつの間にか撮られてた。コンテストに出したい
からって、了承取りに来たんだ」

「うわあ」

「小さなコンテストだけど、銀賞受賞したって言ってたよ」

「うん……分かる」

じっと見上げていた実生は、その後目を伏せてはあっと溜息
をついた。

「どした?」

「うん? ……いや。やっぱ、お兄ちゃんて、お姉ちゃんの
ものになっちゃうんだなあと思ってさ」

どてっ。
思わずひっくり返る。

「しゃらのものって、なんじゃそりゃ」

「だあってさあ」

「まあ、ガキの頃はずっと実生とセットで動いてたからなあ」

「うん。何があってもお兄ちゃんは隣にいるもんだと思って
たから」

「んなわけねーよ」

はあ……。

「こういう感覚は、父さんも母さんも分からんだろなー」

「あ、そっか」

納得顔で実生が頷いた。

「父さんは一人っ子。母さんの兄弟だって、母さんにとって
はいなかったと同じ。ずっと一人」

「うん」

「だから、兄弟がいなくて一人じゃ寂しいでしょって、考え
たんだと思う」

「そうだよね」

「でも、結局最後は家を離れて、一人になるんだよ」

「ん」

「そうしないと、他の誰かとは暮らせない。新しい世界を作
れない」

「お兄ちゃんは」

「うん?」

「わたしたちを……捨てるの?」

どて。
思わずひっくり返る。

「まーさーかー。そんなことはないさ」

「でもぉ」

ぷうっと実生が膨れた。

「マザコン、ファザコン、ブラコンはまずいよ。いつまでも
親や兄弟には頼れない」

「うー」

「僕らが困った時に家に逃げ込めるのは、僕らがガキのうち
だけさ。そこを抜けたら、逆に考えないと」

「逆?」

「そう。何かあったら僕を頼ってくれって言えるようになら
んとさ。そう言えるようにするためには、一人でちゃんと立
てないと話にならないよ」

「うーん」

実生は、家族が一人欠けるってことが不安なんだろなあ。
今まではずっと先だと思ってたことが、現実のことになって
きたからなあ。



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三年生編 第65話(1) [小説]

7月19日(日曜日)

「うわっ」

朝カーテンを開けたら、熱と威圧感を感じて思わず後ずさっ
た。

梅雨明け近いってことがダイレクトに伝わってくる、強い日
差し。
空にはまだ雨雲がうろうろしてるけど、その隙間から落ちて
くる日光は間違いなく真夏の強さだ。
そのパワーを見せつけるように、朝からぐんぐん気温を押し
上げてる。

今日は、日中30度を越すんちゃうかな。

一、二年の時にはなんだかなんだ言って夏休みに期待感があっ
たけど、受験生に何か期待しろっていうのは無理だよね。
暑さに耐えて、厳しい夏を乗り切るしかない。

週明けから終業式までの間には、プロジェクト関連の集会が
あったり、えびちゃんに進路相談に乗ってもらったりと、短
い間にすることがいっぱいある。

終業式のあとすぐに夏期講習の合宿が始まるから、実質お盆
明けまでは一直線。
余計なことをしたり考えたりする暇は、まるっきりないだろ
う。考えようによっては、割り切って集中しやすい。
のんびり出来るのは、昨日今日が最後になるかもな。

窓際に立って、目を瞑っても目蓋を通り抜ける日差しを浴び
ていた。

こんこん。

部屋のドアをノックする音が響いて、実生の声がした。

「お兄ちゃん、起きてる?」

「起きてるよー。どしたー?」

「ちょっと、教えて欲しい」

がちゃっ。
ドアを開けてひょいと顔を突き出したら、実生が手にしてい
たのは数1の教科書だった。

「お? 赤出したか?」

「う……」

「まあ、しゃあないよ。中間より期末の方がずっとしんどい
し」

「甘く見たわけじゃないんだけどなー」

「実生たちの学年は、受験のどさくさで平均学力が上がって
るからね。そういう影響もあるかな」

「うー」

「追試はいつ?」

「水曜日」

「すぐだな。一発クリアしろよー」

「もちろん。夏休み、無駄に出来ないもん!」

「だな。何かバイトやるん?」

「そのつもり。お母さんと交渉中」

「追試クリアせんと、学校の方の許可が出ないからなー」

「そうなの。ぴーんち!」

「まあ、がんばれ。どれ?」

「あ、わたしの部屋でいい?」

「かまんけど?」

ジャージ姿のままのそっと自分の部屋を出て、実生の部屋の
前ではたと気付いた。

そういや。
ここに引っ越してきたばかりの頃は、何度か実生の部屋に入
ることがあったんだ。
でも、去年からあいつの部屋には一度も足を踏み入れてない。

中学までは二人で同じ部屋。
狭い宿舎じゃしょうがなかったし、僕らもあんま気にしてな
かった。

でも父さんがここに家を建てて引っ越してきてからは、僕と
実生の生活空間が極端なくらいにきっぱり割れた。
僕や実生のどっちかが、部屋に入れることをすごく嫌がった
わけじゃない。
それでも、自分の場所でないところに足を踏み入れるのがな
んとなく怖かったんだ。きっと実生もそうなんだろう。

この前伯母さんにも指摘されたけど、僕には人のプライベー
トに踏み込むことをすごく警戒する癖がある。それが芯まで
染み付いちゃってる。
その相手がたとえ妹であってもね。

だからこそ、僕の部屋にしゃらを気軽に呼べるし、しゃらの
部屋にも気軽に寄れることが……すごいなあと思う。

「おじゃましやーす」

「ちょっと、お兄ちゃん! 何言ってんの!」

「だって、生JKの部屋だぜ? ぐひひ」

ばきっ!
遠慮なく実生の鉄拳が飛んできた。

ぐえっ!

「いや、冗談抜きに、実生の部屋に入るのは久しぶりだよ」

「あれ? そだっけ?」

「ここに越してきた年に、部屋で熱中症でひっくり返っただ
ろ?」

「あ、そうだった」

「その時以来だよ」

僕の顔をおずおずと横目で見た実生が、小声で聞いた。

「お兄ちゃん、なんか……遠慮してた?」

「遠慮はしてないけど、部屋に入り込む理由がないもん」

「ううー」

「そっかー。すっかり女の子モードになるもんだなあ」




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