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三年生編 第53話(12) [小説]

ぱん!
両手を叩き合わせた森本先生が、大きく頷いた。

「なあるほどお! 人の気配があるから寂しくないし、おば
あちゃんたち相手なら従属でも支配でもないから、お母さん
には気楽かもね」

「みたいです。働き始めて、今のところはまだ大きなトラブ
ルはないみたいで。ばんこがほっとしてました」

「そうかあ。その案は伯母さんが出したの?」

「いいえー。恩納先輩ですよ」

「くうっ! あいつも、もういっぱしのケアマネだなあ」

「はい。しっかり先を見据えてますね。あとのモンダイはカ
レシ探しくらいなもんでしょう」

森本先生が苦笑した。

「そうかあ。それにしても、伯母さまという人は相当懐が深
いって言うか……」

「でっかい会社の会長やった人ですから。スケールが全然僕
らとは違います。別次元です」

「工藤くんに、そんな有名人の親戚がいるだなんて知らな
かったわ」

「いや、僕も知らなかったんですよ」

「は……あ!? ど、どういうこと?」

「僕の母方の祖父は、万谷文哉。万谷の直系じゃなくて、入
り婿だそうです。そして、伯母だけが万谷の唯一の正式な子
供です。でも、おじいちゃんには、その他に十六人隠し子が
居たんですよ」

どどーん!
バージョンアップした森本先生のずっこけは、マンモスの倒
壊みたいで迫力があるなあ。

「ぐわあああ」

「でしょう? しかも全員外国人ですよ」

「え? ……ってことは」

「僕のおばあちゃんはスペイン人。僕の母がハーフってこと
ですね」

「えー? じゃあ、工藤くんはクオーター?」

「そうです」

「その割には……」

とほほ。
どうせ僕は、みのんみたいにかあいくも、かっこよくもあり
ませんよーだ。ちぇ。

「母は私生児としてスペインで生まれ、六歳までそこで育ち
ました。おじいちゃんの再会したいっていう手紙を真に受け
たおばあちゃんが、家も職も全部ぶん投げて母を連れて来日。
その場で捨てられたそうです」

「ぐ……」

「まあ、おじいちゃんというのは、ほんとにひどい人です。
でも……」

「うん」

「結局、その十六人全員から見捨てられているんですよ」

「万谷からは?」

「離縁されてます。最後は浮浪者として野垂れ死したそうで
す」

「……」

「伯母さんは、そのとばっちりを食ったんです。大伯母さん
の恨み節をずっと聞かされ続け、でかい会社の責任を背負わ
され、結婚も出来ず、気が付いたら自分一人」

「うーん……」

「寂しくて寂しくてしょうがなかったんでしょうね。おじい
ちゃんが亡くなった時に、おじいちゃんが作りまくった隠し
子にコンタクトを取ろうとしたんです」

「ああ、それで!」

「はい。うちと繋がったんですよ。母も天涯孤独だと思って
たのが、いきなり兄弟姉妹がぞろぞろ」

「あっはっは!」

「でも、母も伯母も楽しそうです」

「いやあ、思わぬドラマがあるもんだねえ……」

「ほんとに。でもね」

「うん?」

「伯母は、やっぱり万谷の総裁なんですよ。引退したと言っ
ても」

「……」

「伯母には成金趣味はないです。衣食住ぜんぶ地味。そうい
うことに対する欲がないんです」

「ふうん……」

「でもね、責任感とか倫理観とか、そういうことにはものす
ごーく厳しいんですよ」

「まあ、女だてらに会長やるような人だもんね。そうじゃな
きゃ務まらないわなあ」

「そういう姿勢ってことだけならいいんですけど、伯母は今
でも力を使えちゃうんです」

「は?」

「りんの奪還に来た両親を追い返すのに、両親が教授を務め
てた大学を買い取って、二人をクビにしましたから」

どどーん! 森本先生が派手に横転した。
トドの寝返りみたい。くす。

 


三年生編 第53話(11) [小説]

森本先生と会うのは久しぶりだったこともあって、僕らはグ
ラナーダのスタッフルームに呼ばれた。

でも、しゃらは所長さんに別室に連れてかれて、弓削さんと
一緒に昼ご飯食べながらの事情聴取。
所長さんは、今回の件に関するもっと詳しい情報が欲しいっ
てことらしい。当然、長友さんもそっちに行ってる。

話し合いは不毛だったけど、グラナーダの人たちは利用でき
るチャンスは無駄にしたくないらしい。
でも事態が事態だから、それが当たり前なんだよね。
浅田っていうおっさんが論外だったってこと。ったく。

僕はおっさんのくそ腹立つ態度を思い出して、ぶつくさ文句
言いながらお弁当を食べていた。

「それにしても。工藤くんはさすがねえ」

森本先生に冷やかされる。

「あのクソ野郎の浅田をこてんぱんにぶちのめすなんざ、な
かなか出来ないわあ」

「いや、伯母さんの名前を出さないとやり込められなかった
ところが、まだ……ねえ」

「そういや、さっきの伯母さまの話は本当?」

「本当ですよ。うちの斜め向かいの家を買って、女の子三人
と共同生活。シェアハウスですね」

「ふうん」

「ふふ。その三人とも、森本先生の知ってる人ですよ」

「ええーっ!?」

森本先生、びっくり仰天。

「うそお!?」

「恩納先輩はご存知ですよね?」

「え? なに、文香は今そこにいるの?」

「そ。しゃらが襲われた事件の後でぶっ倒れて、一人暮らし
がアウトになっちゃったでしょ?」

「ええ。それから小塚さんていうおばあちゃんの家に下宿し
たって聞いてたんだけど」

「そのおばあちゃんが、同じ町内のご隠居さんの家に同居す
ることになったんです」

「あ。そうかあ。結婚?」

「いえ、そっちもシェアハウスです。ご隠居のところにはお
手伝いさんが住み込んでるんで、先輩は立場上同居出来なく
なったんです」

「なーるほどなあ」

「先輩からどうしようって相談持ち掛けられたんで、僕から
伯母さんに打診したんですよ。共同生活、どうですかって」

「伯母さんがそれを受けてくれたんだ」

「細かいことは気にしない人ですから」

「すごいなー」

「先輩は、そこで根詰めて受験勉強がんばって、この春アガ
チス女子大の福祉学部に合格して、楽しそうに通ってます」

「うーん、やるわねえ」

「伯母が言ってました。ほんとに明るくてタフだって。今の
シェアハウスのムードメーカーですね」

「そうかあ。あいつも、同居人がいると寂しくないし」

「同じ高校、同じ部の後輩ばっかですから、気楽ですよ」

「ふうん。後の二人は?」

「一人は市東さん。りん」

「ああ、あの元気な子ね。どうしたの?」

「親に行きたくない進路を押し付けられそうになって、従姉
と一緒に伯母のところに逃げ込んだんです」

「へえー。じゃあ、もう一人はその従姉の子?」

「いいえ、里村さんていうりんの従姉は、今はもう伯母のと
ころを出て一人暮らししてます」

「あれ? じゃあ、なんで伯母さんのとこに逃げ込んだの?」

「親が超心配性で、徹底して囲い込んじゃってたんですよ」

「ああ、それが息苦しくなったってことね?」

「はい。超絶美人さんでしたから、親の心配も分かりますけ
どね」

「へー。じゃあ、もう一人は別の子?」

「一、二年と僕のクラスメートだった、伴野さんです」

「うーん……どんな子だったかなあ」

「元気な、保健室にはあんまり縁のない子ですよ」

「そっか。私は話したことないかもなあ。その子はどうし
て?」

「お母さんが、やーさんの食いものになっちゃったんです」

「……」

さっきまでの明るい雰囲気が、一瞬で消し飛んだ。

「ばんこのところはお父さんが早くに亡くなってて母子家庭
だったんですけど、お母さんが前からひどい依存体質だった
みたいで」

「まんまと食い物にされちゃったって……ことね?」

「そうです。あいつは、身の危険を感じて伯父さんのところ
から学校に通ってたんですけど、やーさんがそこまで手を伸
ばしてきて。学校止めて働けって」

「……腐ってる」

「論外ですよ。今回の弓削さんのケースと同じで事態が切迫
してたんで、五条さんに相談して」

「賢明ね」

「はい! 五条さんがやーさんを速攻で叩き出したんですけ
ど、そいつのDVでお母さんが完全に精神病んじゃってアウ
ト。働くどころじゃなかったんですよ」

「そうか」

「親は居ても、その役割を果たせない。五条さんの時と似た
ような感じですね」

「それで、工藤くんの伯母さんのところに?」

「はい。ばんこが落ち着ける場所があれば、学校を中退しな
くて済むし、お母さんのケアもしっかり出来る。今のところ
はうまく行ってるみたいですね」

「伴野さんのお母さんは、まだ入院とかされてるの?」

「いえ、今はおばあちゃんたちが住んでるグループホームで、
住み込みケアワーカーさんをやってます」

 



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