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てぃくる 272 あかまんま [てぃくる]


「あたちがつくったのー。たべてー」
「いいよー」


「あたいが作ってみたんだけどさー。食べれる?」
「うう……いいけどさ」


「わたしが精魂込めて作ったの、食べられないの?」
「無茶言わんでくれ」


「あたしの作ったのは、食いたくないんだろ?」
「食いたくても、もう無理だ。げほごほっ……」





intd.jpg

(イヌタデ)




幼少壮老。
その間に食べるものが大きく変わるわけではありません。

小さい頃から食べ続けて。
その嗜好が変わることも変わらないこともあります。

あなたは。どうですか?
大好きな人から差し出されたあかまんま。
食べられますか?






  幼神や殻斗の椀にあかまんま








Red Rice by Eliza Carthy

 


てぃくる 271 たんまり [てぃくる]


いやあ、夏暑すぎたもんでよ。
外に出たくても出れんかったんさ。

やっと涼しくなったから、出てみたんだけどよ。
家ン中閉じこもってる間にすっかり煮しまっちまって。
しかも、みんな考えること同じみたいでよ。
ぞろぞろぞろぞろ出てきちまってよ。



metas1.jpg

(メタセコイアの雄花穂)


だあれも俺たちが幽霊だって気ぃついてくんねえや







いや、今は個人情報保護の時代でしょ?
公にしたくない情報は、伏字で。
アスタリクスにしといてくれって。

だから、あれもダメ、これもダメって。
どんどん伏字にしてったらさ。
ぜえんぶアスタリクスになっちゃった。



metas2.jpg

(カンレンボクの果実)


で、わたしって……なんだっけ?






イクラ、好きっす。
タラコ、好きっす。
トビッコ、好きっす。

赤いつぶつぶ。大好きっす。
でも、コレステロールと塩分。心配っす。
そういう心配なしで、腹一杯食いたいって。
祈ったっす。そしたら。



metas3.jpg

(ピラカンサの果実)


俺が真っ赤なつぶつぶになって食われるわけ?





(^^;;






まあ。世の中には、確かに数の論理ってのがあります。

確実なものを少数だけ。
そういう選択肢は、自然界ではそう多くありません。

たくさんばらまいて、運のいいものだけが生き残る。
ええ。それは分かりますけどね。


あんたもその論理に従えって。
同じ人間に言われるのは、なんだかなあと思いません?






  虫食いの栗芽を出して木に育つ








Too Much by Pale

 


てぃくる 270 火種 [てぃくる]


 火種。あまりいい意味で使われませんね。

 
トラブルの小さな起点。すぐに解消してしまうような些細なものではなく、先々大きな衝突や悲劇に結びつくような厄介な厄災や悪事のもと。そんなイメージで使われます。

 そして、火種は自然発火ではありません。人が意図的に熾すものです。最初から火を真っ当に使わないよという宣言でもあるわけです。小さな悪意がどんどん燃え広がる。そんな火種は要らないと、誰しもそう思うんです。



 でもね。それでも火種はいつでもありますし、いつでも熾ってしまうんですよ。なぜだと思います? それはね、わたしたちが一人残らず燃料だからです。

 誰かの命令をひたすらこなすだけの存在であれば、燃料には何の意味もありません。燃料に火を着け、自他を照らし、己を動かす。そうするには、どうしても火種が要るんです。

 非難、批判、反発。それは往々にして厄介な火種になります。しかし、だからと言ってそれを片っ端から全部消してしまうと、わたしたちはせっかくの燃料を使えなくなってしまうんです。

 火種があることと、それを使うこととは別物です。すでにぶすぶすくすぶっている物騒な火種は、さっさと消した方がいいかもしれません。でも、なぜそこに火種があるのか、それが延焼するとどうなるのか。


 バケツの水をぶっかける前に。少し考えてみませんか?





kswb.jpg

(カシワバアジサイ)







あ、わたしの火種は日没まで消えません。(^m^)








  斫(はつ)る音(ね)もせで砕け散る初氷








Start A Fire by Passenger

 


ちょっといっぷく その141 [付記]

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

体育祭後の小さな挿話が二つ。
このあとしばらくまた本編をお休みしますので、簡単に総括
しておきます。


           −=*=−


第44話、第45話とも、いっきがこれからを心配した内容
になっています。

44話の方は、わたしたちの周囲でも起きうる話かと。

学生の綱紀粛正や学力向上のために、学校側が打ち出した新
たな方針。それは全てムチばかり。

指導方針を厳しくしないと、おまえらの学力は上がらんだろ
う? 行儀もよくならんだろう?
学生なんだから、指導に従え。それが当たり前なんだよ。

いっきと衝突した沢渡先生も、そのあと再登板した安楽校長
も、その基本線は変わりません。
いっきは、それに疑問を呈します。
それだけじゃあ、僕らのモチベーションは上がりませんよ、
と。

最初から厳しいのなら、付いていけないのは本人の努力不足
かもしれないけど、後出しジャンケンでいきなりハードル上
げるのはなしだよ。
それじゃあ、逆にやる気がなくなる。落伍者ばっかりぞろぞ
ろ出てくるよ?

しきねや寝太郎を実例に出したいっきの意見は、責める口調
ではないにしても手厳しいですね。

いっきは、学生を甘やかせとは一言も言っていません。
自主独立の勝手な拡大解釈で、学生だけに一方的な努力要求
をしないで欲しい。
丁寧に指導して欲しい。がんばったことを、学生に納得でき
る形で評価して欲しい。

極めて真っ当な意見だと思います。
でも。もしその意見が活かされたとしても。
いっき自身がその恩恵をこうむることはもう出来ないんです。
それが提言のレベルでとどまってしまうことは避けられない
んです。

ちくたくと、無情な時がいっきを追い立てていきます。


           −=*=−


第45話。
こっちは、いっきのプライベート面での近未来予想ですね。

自分の進学、しゃらとの将来。
これまで白地しかなくて焦っていたいっきですが、今に至っ
て何か描こうとしても絵の具が限られてしまっていることに
気付きます。

自分にもしゃらにも経済的な制限がありますし、しゃらのサ
ポートも考えないとならない。
したいこと優先で、全国どこの大学でもおっけーというわけ
には行きません。

自分が、まだ独力で生きていける大人ではないこと。
いっきは、そこに恐怖とやるせなさを感じます。
長岡さんのぐだぐだな兄貴の動向が、その焦燥感に拍車をか
けてしまいました。

身体や思考が大人としての成熟を果たしつつある一方で、立
場としてはまだまだ子供の枠内なんですよね。

そういうアンバランスに悩みながらも、いっきはゆっくりと
歩を送り続けます。


           −=*=−


さて。
このあと第46話から先、しばらくハードな展開が続くので、
それまで中休みということで、来年の一月いっぱいくらいま
で本編をお休みします。

その間、しばらくてぃくるといっぷくでしのぎます。
余裕があればSSをいくつかアップしたいところなんですが、
どうもスケジュール的にきつそう。(^^;;

なかなかさくさくと進みませんが、どうかご容赦ください。



ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽に
コメントしてくださいませ。

でわでわ。(^^)/




sis.jpg



夏秋冬と咲き上がって

紫蘇の今が終わる

私の思想はどこで終わるのだろう
 
 

三年生編 第45話(6) [小説]

どんどん不安が膨らんじゃって、セカンドオピニオンが欲し
くなった。
お兄さんは年齢的に子供じゃないからどうかなーと思ったけ
ど、森本先生に電話を掛けて聞いてみた。

森本先生は伯母さんの繰り出した荒技を聞いて驚いていたけ
ど、そのケアプランは妥当だろうという返事だった。

彼にとって、誰からも放棄され、無視されるよりは、誰かに
コントロールされる方がまだマシ。
もし私が彼の相談を受けても、私の所属する組織としては君
に関われないよとしか答えられない。
引きこもりの若者の自立支援をしている団体を斡旋するくら
いがせいぜいいいとこで、それだって親の援助が要る。

親による強制退去の宣告が突然だったら同情の余地があるけ
ど、イエロー何枚も出されての累積警告による退場じゃどう
にもならない。
もう一度基礎からやり直せという伯母さまの指導は、理に叶っ
ていると思う。……そう答えた。

森本先生の説明のトーンは妙に乾いていた。
僕にはそれもすごく気になった。

僕とお兄さんとの間に、十歳も二十歳も年の差があるわけじゃ
ない。二年くらいの差は、誤差みたいなものだと思う。
でも伯母さんや森本先生の中では、お兄さんはもうくっきり
とオトナの位置に置かれている。

もしお兄さんが僕らと同い年だったら、森本先生のトーンは
もっともっと同情的だっただろう。
親の無理解でネグレクトされて、かわいそうに、と。

「こわい……な」

以前、大野先生が言ったこと。

『世の中にオトナという人種はいない。自分をマシにしよう
として不断の努力を欠かさない人が、オトナに見える』


それには裏の意味、強い警告が入っていたんだ。

『それでも、二十歳を過ぎれば誰でもいっしょくたにオトナ
として扱われてしまう。オトナとして振る舞うことが当たり
前で、社会は精神的な未熟さを許容してくれなくなる。それ
を覚悟しろ! だからこそ、自分をマシにする努力を欠かす
な!』


き……びしい。

「いっちゃん、ご飯だよー」

母さんの声でほっとして、かちかちに力が入っていた肩をゆっ
くり回して、解した。

「今行くー!」


           −=*=−


「お?」

見たことない料理だ。
鶏肉焼いた上に、何か赤いどろっとしたのが乗ってる。

「母さん、これなに?」

「ああ、昨日久しぶりにマリアおばさんのところに顔出した
の。そしたらこれ持ってきなさいって」

母さんが、蓋の空いた缶をひょいと持ち上げて見せた。

「なんだろ? 見たことないけど、フルーツソースとか?」

「まあ、そうね。クランベリーソース。フレッシュなやつか
ら作った方がおいしいらしいけどね」

「へえー」

母さんも食べたことないらしい。どんな味だろ?
家族全員、興味津々おっかなびっくりで、ソースの付いたお
肉を口に運ぶ。

「おっ! 思ったよりもうまいな」

「へえー、悪くないわね」

「うん。おいしいよー」

僕も、いけると思う。
お肉の脂っこさをソースの酸味が消して、さっぱりした感じ
になる。ただ……。

「もうちょい甘くない方が……」

「そうなのよねえ。缶詰だとそこがね」

母さんが苦笑した。

「だからマリアおばさんも、わたしに寄越したんでしょ。こ
んなの使わないからって」

「あはは……」

実生が苦笑した。

「本当は今食べるんじゃなくて、感謝祭のターキーに添える
のが定番なんだってさ」

「ふうん……」

「オレンジが南欧のものだとすれば、クランベリーは北欧の
もの。同じ酸っぱい系でもだいぶトーンが違うよね」

「俺はうまければどっちでもいい」

クランベリーソースがすっかり気に入ったらしい父さんは、
上機嫌で鶏肉をぱくついた。

わははははっ!

赤いクランベリーソースを見て、ふと思った。
人生は甘くない。酸っぱくて、思わずしかめ面になる。
でも。それでも。
それが何か分かってくれば、どうやって人生をおいしく食べ
るか考えられるんだろう。

壊れてばらばらになってしまった長岡さんの家族。
いや、壊れてしまったんじゃなく、それは最初から家族では
なかったのかもしれない。

それでいいと思ってしまうのか。
それとも、これから何らかの形で別の家族の形を探ろうとす
るのか。

長岡さんも。お兄さんも。
そして、そんなの他人事だって顔をしてる僕や実生も。
酸っぱい果実を、これからどうやって食べたらいいのか。

「いっちゃん、おいしくない?」

しかめ面していた僕が気になったんだろう。
母さんが、こそっと探りを入れた。

「いや、すっごいおいしいよ。そうじゃなくて」

「うん」

「こんな酸っぱいのを食べようって考えた最初の人は、ずい
ぶん勇気があったんだなあと思ってさ」

ぎゃははははっ!

四人で大笑いした。
でも、母さんがその後真顔で答えた。

「それでも食べないと生きられない。そういう状況があった
からこそ、食べ方が工夫されてきたってことね」

「……」

「味の好みをああだこうだ言えるうちは。まだまだ贅沢よ。
本当に切羽詰まったら、そんな贅沢なんか言ってられないわ」

うん。




crbry.jpg
今日の花:オオミノツルコケモモVaccinium macrocarpon

 


三年生編 第45話(5) [小説]

「令奈さんを守るためにも、隔離はどうしても必要なの。だ
から国内じゃだめ」

「あの、伯母さん。それ、長岡さんの親には?」

「一応、通告はしといた」

通告か。

「未成年じゃないからね。連絡先が分かれば、それで充分で
しょ」

伯母さんが、ふんと鼻先で笑う音が聞こえた。

「あの親が、無責任に放り出した息子に連絡なんて、絶対に
しないと思うけどね」

「伯母さん、警察から連絡があった時って、親とも交渉した
んですか?」

「一応ね。でも、父親は夜逃げして行方知れず。母親は、脱
税や夫の不道徳行為で評判落として経営悪化した病院の立て
直しでアタマがいっぱい。出来の悪い子供のことなんか、も
うどうでもいい。勝手にしろ、だよ」

「……」

「『親』の実態なんか、何もないね」

伯母さんの冷徹な声が朗々と響いてくる。

「親がひん曲がってたって事で言えば、あの兄妹は間違いな
く被害者よ。でもカワイソウで済ませられる年齢は、二人と
も越してるの」

「……はい」

「令奈さんは、もう少しで完全に自立する。中村さんも手取
り足取りはしてないし、令奈さんの目標は、とても高いとこ
ろにある」

「いつきくんや御園さんみたいな同年代の友人がいるし、お
客さんとのコミュニケーションも上手よ。いろいろあっても
ひねてない。根は素直なの。私は何も心配してない。素晴ら
しい菓子職人になると思うよ」

「ですよね!」

「うん。やる気が兄貴とは全然違うからね」

思わず苦笑してしまった。

「でも、兄貴の方は妹よりもっとハンデが大きい。年食って
からの挫折だったし、社会との接点がそれまでまるでない。
まさに世間知らずの甘っちょろいぼんぼん」

「うう」

「彼の視線や姿勢を動かすには、ちょっとしたきっかけじゃ
全然足りないの。劇薬が要る」

劇薬……かあ。

「反省しろとか、根性直せとか、そんなのは何も意味がない。
主張する自我がお粗末過ぎるの。一度自分のお粗末な中身を
全部ぶちまけてすっからかんにしてからじゃないと、何も入
らない」

「それって……僕に似てるような」

「ふふ。そうね。でもいつきくんは、危機感を覚えて自力で
やったんでしょ?」

「はい!」

「彼には自力っていうのが期待出来ないのよ。だから、強制
的にリセットする機会を設けるしかない」

そうか……。

「でも私のは強制じゃないわ。あくまでも提案よ。私の提案
を飲めないなら、あとは自分で勝手にしなさい。そう言った
だけ」

ほんとにそれだけかなあ。

「もちろん、『勝手に』の中には、妹へのつきまといや今回
の万引きは含まれない。それは明らかな犯罪行為で、立件さ
れれば断罪、処罰される。自分の人生をドブに捨てることに
なるよ。彼にはしっかり釘を刺したの」

やっぱり!

「説教した場所が警察署だからね。聞き流すことは出来ない
でしょ。もう手錠が目の前にある段階だから」

うわ……。

「もう逃げ道が……ないんですね」

「そんなものは最初からないわ。彼がそれを甘く見てただけ」

ううー。ぐっさり。

「親から見捨てられたってことで言えば、恩納さんも同じ。
でも、彼女は底無しのバイタリティでそのハンデを跳ね返し
てきた」

「はい!」

「彼に今必要なのは、覚悟でも、自発性でも、反省でもなく、
何より先にまずバイタリティなの。恩納さんの百万分の一で
いい。何が何でも生き抜くんだっていうバイタリティを作ら
ないと。結局、安易に逃げ込める場所を探しちゃう」

そうか……。

「まあ、軍隊に入れるわけじゃないよ。あくまでもボランティ
アスタッフ。自分でしないと代わりに誰もしてくれないって
ことを除けば、そんなにきつい仕事じゃない」

伯母さんにはきつくないと思うけどさあ……。
自分がそうなったらと思うと、ぞおっとする。

「そういうことで。令奈さんには、いつきくんの方から説明
しておいて」

「う。はあい……」

ぷち。


           −=*=−


もっとマイルドな展開を予想していた僕は、予想外の激しい
オチに動揺した。

伯母さんのは、確かに命令ではなく提案。
でも、今のお兄さんには他の選択肢を考える余裕なんかない
だろう。
今どこに居るのか分からないけど、そこに居るのだって伯母
さんの斡旋だろうから。
伯母さんの提案は、実質命令に近いんだ。

それを……その劇薬を……本当にこなせるんだろうか?

「……」

 



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三年生編 第45話(4) [小説]

「親代わりの濃い愛情はもらえなくても、自分を真剣に見て
くれてる、律してくれてると感じられれば、その子は崩れな
いわよ」

「なるほどなあ……」

「でもね」

「はい」

「令奈さんもお兄さんも、倫理面が全然ダメだった」

「……」

「令奈さんは、自分が被害者になったことで人の痛みを理解
したけど、お兄さんにはその経験がない」

ま、まさか……。

「何か……やらかしたんですか?」

「万引きよ。スーパーで食料品を盗んで、警備員に捕まった
の」

「げえーーーーーーーーっ!?」

「信じられないでしょ? ハタチにもなったいいオトナがさ
あ」

「……」

「家を突然追い出されて、住むところも食べるものもない。
こうなったのは僕のせいじゃない。僕はカワイソウ。食べ物
を盗んでも僕には非がない」

「げ……」

「善悪以前の問題ね。悪いことをしたっていう罪悪感がなく
て、放り出されたことへの屈辱しか感じてない」

「それが、なんで伯母さんのところに回ってきたんですか?」

「彼を追い出した親が、ハンザイシャを引き取るはずないで
しょ。令奈さんの時と全く同じ」

「げ。ってことは……」

「いつきくんが、私に連絡を取るようにって書いてたメモ。
警察がそれを見つけて私に連絡してきたの」

「ぐわ」

なんつーか。頭痛いわ。
とんだとばっちりじゃん。

「私の予想外のところから連絡が来たから、ちょっと対応に
手間取ったってわけなの」

なんだかなあ……。

「で、どうすることにしたんですか?」

「私が犯罪者の身請けをする義理なんてないわ」

ぽいっと放り出す伯母さん。
まあ、そうだよなー。

「でも親と私に見捨てられたら、ぼっちの彼は自棄になる。
引き篭れる場所がどこにもないからね。彼がこの後どういう
反社会的行動を取るか、分かったもんじゃない」

「万引きならまだしも、人を傷付ける行動に出られると、彼
も関係者も人生終わりになっちゃうからね」

そっか。自己中が放置されても、いい方向に向かうはずがな
いってことか。巻き添え食らうとしゃれになんないね。
そして一番巻き添えを食いそうなのが……長岡さんだもんな
あ。

「うーん……」

「だから、隔離することにしたの」

「へ? 隔離……ですか?」

「そう。海外に行ってもらう」

ぎょえええええっ!?

伯母さんの繰り出した強烈な荒技に、思わず絶句した。
と、とんでもねー……。

「うちの社がスポンサーになってる、途上国サポートプログ
ラムがあってね」

「はい」

「その現地スタッフとして働いてもらう。まず半年ね。その
間に生活態度に改善が見られなければ、一年かそれ以上にな
るね」

「大丈夫なんですかあ?」

「さあね。向こうには引き篭れる場所なんかない。日本人は
誰もいないからね。スタッフは全員向こうの人なの」

ごくり……。

「英語すらまともに通じないから、必死に自力でコミュニケー
ションの方法を探らないと何も当たらない。指導者じゃなく、
スタッフとして行くんだから」

「そ……っかあ」

「中村さんが令奈さんに指導したように、自分のことは自分
でする。生活のスキルを身に付ける。人ときちんとコミュニ
ケート出来るようにする。それを、彼には指導なしで自力で
やってもらう」

「過激……ですね」

「いや、そこまでやらないと、彼は令奈さんにまた非常識な
アプローチを繰り返す。いつきくんの警告は必ず無視される
よ」

あ!

そうか。倫理観が低いってことは、僕の警告や忠告の意味を
理解しようとしない。その真意が全然届かない。聞き流され
るってことか……。

 


三年生編 第45話(3) [小説]

「今は距離が近過ぎるのさ。それが、進路が割れてぽんと離
れてみろ」

「そうか。おまえはともかく、御園がそれをこなせねえって
ことか」

「ああ。僕はそれが怖いんだよ。家庭が順調なら、あいつは
自分のことだけに集中出来る。進路が割れても、遠距離になっ
てもなんとかなる」

「……」

「でも、これから家庭ががさつくあいつを一人にすると、自
立以前に心が保たなくなるかもしれない。それが」

ふうっ……。

「どうしても不安なんだよ」

立水は小糠雨を撒き続ける雨雲を見上げながら、ぼそっと言っ
た。

「めんどくせえもんだな」

「まあね。でも、こなすしかない。選択肢を選べる僕らはま
だまだマシさ」

「確かにな」

ばっ!

でかくて真っ黒な傘を勢いよく広げた立水は、敷石の上に溜
まった雨水をわざと蹴散らすようにして、駆け出して行った。

「じゃあな!」

「ああ」


           −=*=−


家に帰って自分の部屋で濡れた服を着替え、電源を落として
あった携帯のスイッチを入れる。

「あれ?」

伯母さんからメールが入っていた。

『話があるので、模試が終わったら電話を下さい』

「……」

きっと長岡さんのお兄さんのことだろなあ。
どういうオチが付いたんだろう?

夕飯までにはまだ時間がある。先に済ませよう。

「もしもし、伯母さんですか? いつきですー」

「ああ、いつきくん。ごめんね。今帰って来たの?」

「はい。たった今着きました。例の件、ですか?」

「そう。ちょっと予想外のこと続きで、すぐ連絡出来なくて
ね」

予想外? なんだろ?

「彼。家から追い出されて、友達や知り合いを頼れず、妹の
ところにしか行き場がなかったってことは、交友関係全滅の
ぼっちってことでしょ?」

「はい。僕はそう思ってますけど」

「言っちゃ悪いけど、コミュニケーション能力が元々極めて
低いってことよね?」

「そうですね。中村さんのところでも、中村さんや長岡さん
が会話に苦労してましたから」

「彼みたいなコミュ障を、いきなり社会に放り出して自立さ
せるのは無理よ。まず近親者が本人に性格的な欠陥を自覚さ
せ、コーチを付けて徐々に訓練する。きちんとステップを踏
まないと、潰れるだけ」

だろうなあ。

「でも、親が先にぷっつんしちゃったってことだよね」

「はい。でも、それもなんだかなあと……」

「反抗期の子供抱えていれば、出てけって叩き出すことの一
回や二回はあると思うんだけど、ほとぼり冷めれば家に戻す
でしょ?」

「そうなってないですよね?」

「親がよっぽど頭に来たんでしょ」

伯母さんが苦笑してる。

「受験に失敗して彼が籠城を始めてから一年以上経ってる。
その間、親の叱責や説得に何も聞く耳持たないでずーっと天
岩戸じゃ、我慢の限界を超えた、出てけって親が言っても反
論出来ないわ。未成年じゃないんだし」

「……」

「ただね」

「はい」

「その一年が問題なのよ」

「うん。僕も、どうもそこが引っかかってるんです」

「どんな風に?」

「あの両親が、お兄さんに対して本気で説得したのかなあっ
て」

「ふふ。さすがいつきくん、鋭いわ」

「だって、いかに兄貴の出来がいいって言っても、実の娘を
ぼろっくそに扱ってるんですよ?」

「そう。彼の両親は、揃って子供たちから目が離れてる。冷
淡なの。それに対して令奈ちゃんは全力で反発し、彼は早く
から親を見切って自分の世界に籠もった。そういうことじゃ
ない?」

伯母さん、さすがだなあ……。

「僕の印象もぴったりです」

「つまりね。結果だけから見れば二人の子供の素行に問題が
あるように見えるんだけど、その原因は親が作ってる」

うん。

「親がね、親になれてない。親が子供なのよ。子供に育児は
出来ないわ。覚悟も、責任も、何もない。子供を人形のよう
に考えて、自分の好きなように着せ替えようとするだけ」

「……」

「令奈さんは運が良かったわね。中村さんは自分が親になっ
た経験がないのに、令奈さんにきちんと教えるべきことを教
えてる。中村さん自身が、とても素晴らしい人格者なの」

「はい!」

「自分の生活を自分でコントロールする。自分の必要なもの
は自力で取りに行く。そうやってきちんと自分を鍛えれば、
必ず周りがその努力を認めてくれるし、自分を安売りしなく
て済むからいい伴侶に巡り会える」

わ! そこまで影響するのかあ。

 



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三年生編 第45話(2) [小説]

「純粋に、自分のドタマとやりたいことの組み合わせで大学
が決められればいいけど、そうは行かないからなあ……」

「どうしてだ?」

「まず学費」

「……」

「うちは、僕の高校進学と同時に親父が転職して、給料ががっ
つり下がった上に、家のローンを抱えてる。学費の高いとこ
ろは全部アウト。妹の進学もあるしね」

「じゃあ……国公立オンリーか」

「そういうこと。奨学金もらったり、バイトでやり繰りする
にしても私立はきつい」

「ああ」

「それともう一つ。実家からうんと遠い大学は選択肢に入れ
ない。例えば北海道とか九州とかね。実際のところ、せいぜ
い首都圏内がいいとこだなあ」

「はあ? なんでだ?」

「しゃらのことがあるからね」

「……」

「あいつの家には、これからどでかい試練が来る。その重荷
をあいつ一人に全部背負わせるのは酷だよ」

「どういうことだ?」

「しゃらのお父さんが、借金して自分の理髪店を持つのさ。
商売が軌道に乗るまでは、経済的にぎりぎりの生活になる。
それに」

「ああ」

「あいつのお母さんの体調が……ずっと良くないんだよ。万
が一のことがあるから、あいつは自宅から出られない。下宿
が出来ない」

「……」

「もし特待や推薦で進学出来ても、家庭事情が悪化すれば、
そこで切り上げになっちゃうかもしれない」

「……きついな」

「ああ。それでも今は、あいつがぽんいちに入学したばかり
の時よりずっとマシさ」

「そうなのか?」

「僕と出会ったばかりの時は、あいつの家はほとんど壊れて
た。高校すら通えるかどうか分からなかったんだ」

「……」

「それに比べれば、これから来る試練は前向きのもの。あい
つはそう考えるだろ」

「なるほど」

「でも、それも良し悪しなんだよ。本当にどん底なら、救助
信号が出しやすい。でも……」

「ああ、出来る、こなせると思い込めば、ぎりぎりまで抱え
込んじまうってことだろ?」

「そう。また間が悪いことに、あいつは今気力も体力もレベ
ルがぐんと上がってる。まさに上げ潮なんだ。先週の体育祭
で分かった」

「そうだな。見かけと違うってことはよく分かった」

「でも、それはまだ中途半端なんだよ」

「……」

僕は足元をぽんと蹴り上げた。

「沢渡校長は、ほんとに余計なことをしてくれたっ!」

「は?」

「あいつの志望は文系だよ。理系の僕とはクラスが違うはず
だった」

「ああ。それが?」

「一緒のクラスになったことで、あいつがずっと抱えていた
不安が消えたんだ。それが、エネルギーになってあいつに流
れ込んでる」

「……」

立水が腕を組んでじっと足元を見下ろす。

「それは、いいことじゃねえのか?」

「よくないよ。せっかく、それぞれに自分の足元を固めよう
としてたのにさ。全部おじゃんだ!」

「む……」

「僕らが、普通のカップルみたいに好きって感情だけで付き
合ってんなら、余計なことはぐちゃぐちゃ考えない。そのま
ま突き進んでしまえばいい」

「違うのか?」

「もちろん、僕はあいつのことが好きだし、もっともっと踏
み込みたい。でも……」

「ああ」

「寄っ掛かる。寄っ掛かられる。そういう依存構造を取っ払
わないと共倒れになる。僕もあいつも、人より強く自立を意
識しないとさ」

「タフなおまえなら心配いらねえと思うが?」

「僕はタフじゃないよ」

「……」

「去年の夏にしゃらと大もめにもめて、一度壊れかけたんだ」

「!!!」

立水が、ものすごく驚いた顔を見せた。

「信じ……られねえが」

「嘘じゃないよ。よく乗り越えたと思う」

「原因は?」

「あいつの焼きもち。ジェラシーだよ」

「……」

「それを僕がこなせなかった。ものすごくイライラしたんだ」

「分かんねえもんだな」

「まあね。でも、ジェラシーが出てくるってのは、僕らの間
に距離があるから。それが自然なんだよ」

「む!」

さっきの自立の話にどう繋がるか。
立水にもそれが分かったと思う。

 


三年生編 第45話(1) [小説]

6月14日(日曜日)

しとしととそぼ降る、梅雨らしい雨の中。
僕は、予備校の大講義室で模試を受けてる。

今回の実力判定模試は、センター試験と同じマークシート方
式。
つまり、センター試験を組み入れてある大学の入試で基礎点
をきちんと稼げるか。それを見ておこうというものだ。

僕は、マークシートと記述式だと、マークシートの方が点が
取れる。
ねぎ坊主先生に言われたみたいに、稼げるならそこでがっち
り稼いでおかないと、二次試験のプレッシャーがきつくなる。

前回惨敗した記述式と違って、今度はきっちり備えて模試に
臨んだ。前みたいなことはないだろう。

学校のごたごたも落ち着いてきたから、しっかり集中出来て
る。やっと、自分の中で受験態勢が整った感じだった。

「はい! そこまでです。答案用紙を置いて、そのまま退出
してください」

よし、と。
数学も、まあまあだ。
だいたい解けてると思う。


           −=*=−


午後四時。
全教科の模試を終えて、会場を出た。
せっかくだから、本屋で新しい問題集を仕入れていこう。

予備校の玄関で傘を開いたら、背後からごっつい声がした。

「工藤!」

「お? 立水か。どうだった?」

機嫌は悪くなさそうだ。
手応えがあったんだろう。

「まあまあだな」

「理数系は?」

「倍は上げたと思う」

「おおっ! すげえじゃん!」

「かてきょさまさまだ」

「げー。まだリョウさんにど突かれてんのか?」

「いや、だいぶたんこぶの数が減った」

どて。

「うはー、さすがだなあ……」

「でも、先生にはがっつり脅されてんだよ」

「マークシートでどんなに点取っても……ってとこだろ?」

「ああ!」

さっきまでのにこにこ顔が嘘のように、立水がいつもの仏頂
面に戻った。

「そこが……なかなかな」

「それでも、センター試験の基礎点が稼げるなら御の字さ。
一次の配点がゼロってわけじゃないんだし」

「まあな。おまえはどうだったんだ?」

「これまでのレベルには、何とか戻せたんちゃうかなと思う」

「まあまあってとこか」

「んだ。センター試験で七割は必須だからなあ」

「げ……」

「いや、選択候補の大学は一次の配点が高いんだよ」

「ああ、そういうことか」

降りしきる小糠雨。
それをじっと見上げていた立水が、不意に質問をぶつけてき
た。

「なあ、工藤」

「うん?」

「おまえのレベルなら、もっと二次配点の高いところを狙え
るんじゃねえのか?」

「それはまだ考え中」

「ふうん……」

「自分のレベルがどこらへんにあるかっていうことより、何
やりたいか、何目指すか。そこがなあ……」

「決まってねえのか」

「まだ決めてない」

「……」

「生物をやりたい。だから、生物系の学部や学科を目指す。
その基本線は高校に入ってからずっと変えてない」

「じゃあ、決まってるんじゃねえのか?」

「でも、あまりに対象がぼやっとしてんだよね」

「うーん」

「例えば、前の模試の時に一緒にいた陵大付属の武田くん」

「ああ、あいつか」

「彼は海洋生態がおもしろそうとか、そういう具体的な出口
がもうあるんだよね」

「……」

急に立水が黙り込んだ。
きっと、立水も同じなんだろうと思う。

東北大の理学部を目指す。
それは、そこにやりたいこと、興味を惹かれることがあるか
らってことじゃないと思う。
デリケートな話だとと思うし、相手が立水だと興味本位で突っ
込むわけにもいかないから、ずっと黙ってたけどね。

自分がそこに居なければならない必然。
それが、自分のやりたいことっていう以外に東北大にある。
そういうことなんじゃないかと思う。

もし僕が、自分の方針をすでにきちんと固めていたなら。
立水の進路選択にノイズが入っていることを、それとなく指
摘したかもしれない。
でも、僕の状況も立水と全く変わんないんだ。

自分のことを棚に上げて、偉そうなことは言えないよ。

 



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