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てぃくる 232 芋の花 [てぃくる]



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「なあ、わいらこんなにきれいなのに、だあれも見てくれへ
んな」

「しゃあないわ。わいらは下半身命や」

「顔が良くてもあかんのか?」

「むかーしむかし、アンデスから輿入れした時は、美人や言
うて蝶よ花よやったらしいで」

「その頃に生まれたかったわあ……」

「まあ、ええやん。わいら、まだ咲けるだけましや」

「もっとひどいのがおるのか?」

「サツマイモ見てみ。あいつら花ぁ咲かんのやぞ?」

「げ……」

「サトイモかて、そうやがな」

「確かに……花ぁ見たことあらへんなあ」

「下半身にしか取り柄がないんは、めっちゃ悲しいわあ」




  (^^;;




実際のところ、ジャガイモの花はとても鑑賞価値が高いと思
います。
でも、芋畑に行くと視線がつい下半身に行ってしまいますね。(^m^)







  新造の束ね持ちたる芋の花







Hot Sauce   by Thomas Dolby

 

 


てぃくる 231 わんこ [てぃくる]



ベロ出してるな



暑いか?




mzt.jpg



「まあな。せやけどここは鉄ちゃんばっかやな。わいの顔見に
来るんは、じいさんばあさんばっかや」

しゃあないやろ。あんたもええ加減トシやさかい。

「すいすいくるくる走り回りたいもんやがなあ」

あんたの前で、じゃりがすいすいくるくる回っとるがな。
乗せろって駄々こねて。


「乗せたいとこやけど、わいもごっつへたっとるさかい勘弁し
たってなあ」





京都鉄博で。

ちなみに、すいすいくるくるは初代ミゼットではなく、ミゼッ
トIIの方ですね。(^^)





  動かざる旧車の運ぶ時の夢






Walk On The Water by Britt Nicole

 

 


ちょっといっぷく その135 [付記]

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第30話から第33話にかけて、比較的穏やかな、中休み的
小ネタが続きました。この後、まとまったお休み期間を頂戴
する予定なので、ここでいっぷくしておきたいと思います。


           −=*=−


第30話。

妹の実生、そして会長とのちょっとしたやり取りですね。何
気ないスナップ写真的一コマなんですが、いっきの巣立ちに
向けた羽ばたきの音が聞こえたでしょうか?

まだ高校生のいっきとはいえ、このあとの自立へのスケジュー
ルは待ったなしです。それはいっきだけでなく、家族にも等
しく突きつけられる変化。

それぞれの人物の、じわりと揺れる心情を味わっていただけ
れば。


第31話。

これもネタとしては小さいんですが、立水に対してコンプレ
クスを感じているいっきの心境を読み取っていただければ。

受験に向けた作戦としては、いっきの方がずっと現実的で堅
実なんです。でも、いっきは自分を駆動する熱源が定まって
いません。そこに立水との大きな差を感じて、めげてしまう
んですよね。(^^;;

それでも、いっきはまだ堅実に前進してるからずーっとまし。
完全にどつぼってしまった寝太郎のことを北尾さんから聞か
されて、いっきはやり切れなさを感じてしまいます。

みんながみんな、馬車馬のように進めるわけじゃない。でも、
世の中は息を切らしてる子に配慮してくれない……。
そして、自分には寝太郎に手を貸す余力がもうない。

ジレンマですね。


第32話。

体育祭での、競技別の作戦会議。

受験に意識が行ってて、イベント系のことには身が入らなく
なる三年生とは言え、そこにはいろんな人間模様が出てきま
す。

中学の時には総員敵視の中に封じ込まれ、それにものすごく
強い嫌悪感を抱いたいっきですが。
人のエゴと協調性とのバランスにはいろんな形があり、その
組み合わせによって集団の色彩が変わっていくんだなと、冷
静に捉えられるようになっている自分自身に驚いていること
でしょう。そこが……大きな成長ですね。


第33話。

体育祭前の、ちょこっと練習の風景。一、二年の時と違って、
少しだけ体慣らしておこうくらいの感じですね。
でも、その限られた時間であってもいっきは全力で楽しみま
す。そこが他の子とはちょっと違うところ。

そして、しゃらが『お客さん』扱いを嫌う姿勢を示しました。
自分の限界値を低く見積もりたくない。現実生活にいろいろ
な制約があるからこそ、自分はそこまでしか出来ないという
考え方はしたくないんです。

入学時の心身が縮こまっていた状態と比べれば、まさに別人。
いっきは、そこにしゃらの強い自我と可能性を見出します。

そうなんですよ。いっきだけでなく、しゃらもちゃんと成長
しています。現実を見つめるだけじゃなく、その枠から飛び
出せるよういっぱいに背伸びする。そのアクションは、いっ
きよりしゃらの方が強く、はっきりしているかもしれません。

それと。最後にクラスメートのすけこまし元原としゃらとの
絡みがちょこっとだけ出てきました。
この絡みはまだ糸を引きますので、どうか覚えておいてくだ
さい。


           −=*=−


さて。
この後、しばらくお休みを頂戴いたします。

お弁当をある程度書き溜められるまで、本編の進行を止めて、
1〜3か月ほどてぃくるで幕間を繋ぎます。いつもなら、そ
れに加えてSSを投下するところですが、本館の執筆もみっ
ちり詰まっているので、こちらはペースダウンさせます。

どうかご容赦ください。m(_"_)m



ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽に
コメントしてくださいませ。

でわでわ。(^^)/



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「あたし、きれい?」

「……微妙」



 (^^;;




いえいえ、一生懸命咲いてるんですから、きれいもへったくれ
もありませんね。

ラムズイヤー。羊の耳ですね。花よりも、むしろ銀色もふもふ
の葉を鑑賞する園芸植物です。

 

 


三年生編 第33話(5) [小説]

徐々に夕暮れに染まって行く街並みを見渡しながら、僕は正
門に歩いて行った。

ああ、今になって思えば。
沢渡校長の企みは、本当に用意周到だったんだな。
僕も一、二年の時のクラスメートとの重なりが少なかったけ
ど、しゃらのはもっと極端だったんだ。
一、二年の時の残党は……しゃらとはほとんど交流がなかっ
た宮野さんていう女の子一人。そんなの、ありえないよ。

沢渡校長は、僕らと繋がりのある人脈をぎりぎりまで削ぎ落
とすことで僕としゃらの距離を極限まで近付け、新校則の違
反行為を誘発させようと。

……そう企んでいたんだろう。

「あれえ?」

正門のところで立ち止まって考え込んでいたら、しゃらの声
が聞こえた。

「いっき、待っててくれたの?」

「いや、グラウンドをぐるっと回って、練習風景を見てたの」

「へー……」

「やっぱ、三年は誰もいないなーと思ってさ」

「そうなんだよねえ」

「そっちは?」

「うん、打ち合わせだけ。順調に終わったよ」

「よござんしたー」

「あはは!」

「で、その背後霊は?」

「……」

僕が指差したら、しゃらが顔をしかめた。
しゃらの後ろに元原が立ってる。
元原から、何かおもしろくないアプローチがあったんだろう。
しゃらの機嫌は悪かった。

「知らないわ。関係ない」

「ふうん」

高岡や今井のとばっちりを食って懲りたしゃらは、ナンパ行
為にものっそアレルギーが強くなってる。
元原が何を言おうがしようが、まるっきり無視だろなあ。

「帰ろっ!」

ぴしっと言い捨てたしゃらが、すたすたと歩き出した。

「だな」

腕を組むわけにはいかないから、僕の前をさっさか歩いて行
くしゃらの後ろをゆっくり付いて行った。

元原は僕らに何か言うのかと思ったけど、結局ずっと無言だっ
た。安楽校長の強い警告は、まだ効いてるってことだね。

それにしても。

「めんどくさいやつ……」


           −=*=−


夜。
しゃらと電話でしゃべる。

「元原になんか言われたん?」

「信じらんないよ!」

ぶりぶりぶりっ!
しゃらが大激怒していた。

「わたしが、立水くんといっきに二股かけてるって言うの
よ!」

どっごおーん……。
椅子ごとひっくり返ってしもた。

「いてて……ど、どっからそんな話に……」

「わたしが副を降りなかったのは、そういうことなんだろっ
てさ!」

ひりひりひり……。
ちゃうがな! それはしゃらの責任感が強いからだよ。
あいつには……しゃらの内面が何も見えてないってことだ。

「おめでたい頭してるなあ……」

「ほんと!」

「立水は?」

「バカは放っとけって」

「まあ、そうだろな。あいつがうっとうしく付きまとうよう
なら、校長にたれこんじゃるから心配すんな」

「うん!」

「それよか」

「うん?」

「しゃらも腕力ついたよなあ」

「あ、昼のでしょ?」

「そう。びっくりしたわ」

「ふふふ。やっぱさあ」

「うん」

「使えんやつって言われるより、やるなあって言われた方が
嬉しいもん!」

「わははははっ! そらそうだ。でも張り切り過ぎて怪我す
んなよー」

「試合になったらぶっ飛ぶいっきに言われたくなーい」

「いひひ」

そうだね。
地味に見えるしゃらだって、その実像はみんなに少しずつ見
えて来るだろう。

それでしゃらに対する評価がどう変わっても、もうしゃらは
ちゃんと受け止められると思う。

……僕が余計なことをしなくてもね。




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今日の花:ナワシロイチゴRubus parvifolius

 


三年生編 第33話(4) [小説]

放課後。
鈴ちゃんと四方くんから、会計処理のことで教えて欲しいっ
ていうSOSが来て、しゃらが部室にすっ飛んでいった。

僕は、久しぶりに昼休みにきっちり体が絞れて充実気分。
やっぱ、がっつり動くのは気持ちいいわ。

鼻歌を歌いながら帰り支度をしていたら、剣道着姿の立水が
ひょいと顔を出した。

「おう、工藤」

「なにー?」

「御園って、あんな動けるやつだったか?」

ほ?

「さあ、同じクラスになったことないから、体育とかどうだっ
たのかは知らんけど。そこそこは動けるんちゃう?」

「ふむ……」

「つか、あいつは負けず嫌いなんだよ」

「そんな風には見えんけどな」

「ははは。見るからにって感じじゃないからね」

僕はカバンをぽんと机の上に乗せて、隣の席を指差した。

「出来ないだろって人から決めつけられることを、すっごい
嫌がるんだ。慎重だから、自分で出来ないって判断したこと
には無理に突っ込まないけどね」

「ああ、なるほどな。昼のもそうか」

「そう。自分で出来そうだと思ったら諦めない。出来るまで
努力する。それは、最初っからずうっとそうさ」

「……」

「恐ろしいくらい、頑固なんだよ」

思わず苦笑した。
そういうところは、間違いなく頑固でプライドが高いってい
うお父さんの血を引いてると思う。そっくりだよ。

その点、僕はまだまだなんだよなあ……。
何でもある程度こなせるんだけど、こなせたところで成長が
止まる。何かを突き詰められない。

一旦こだわりだすとエネルギー投入レベルがはんぱないしゃ
らの方が、結局最後には上を行くんじゃないかと。
そう思っちゃうんだよね。

「おまえは?」

「……」

ふう……。

「僕もはんぱは嫌いだ。こだわるほうだと思う」

「ほう」

「ただ……その割には実入りが少ないんだよ。地があっさり
だからね」

なんじゃそりゃって顔をした立水は、まあいいやって思った
んだろう。
そのままくるっと背を向けて、部活に走って行った。


           −=*=−


会計だけじゃなく野点のセッティングのことでもまだ話があ
るからって、しゃらから先に帰っていいよっていうメールが
入った。

んじゃ、引き上げるかー。

まっすぐ帰るのもあれなんで、一、二年生が体育祭向けの練
習をしているグラウンドを見回しながら帰ることにする。

去年、おととしと、練習風景の中にどっかこっか入ってた三
年生の影。
それが……今年は完全に消えてる。

やっぱり。
体育祭での三年生の乗りは、大幅に悪くなるだろうなあ。
勝ち負けにこだわる楽しみが、がっつり落ちちゃうかもしれ
ない。

しゃあないね。
新しい盛り上げ方をどうするかは、じんたちの手腕に任せる
しかない。
学校側としては、打ち上げとかではめを外す子が減る分、管
理が楽になるんだろうけどさ。

グラウンドの縁を歩いていて、ふと気付いた。

グラウンド周辺の植栽の整備は、中庭と同じで業者さんが夏
休み中にやるんだけど、体育祭の事故防止のこともあるのか、
薮になってたところが個別に刈り払われてた。
草ならまだしも、刺のある灌木とかがもっさり生えるとやっ
ぱり危ないもんね。

刈り取られて積まれた草の山を覗く。

薄いピンクの花がひょこひょこ見えるのは、キイチゴの仲間。
ええと、ナワシロイチゴって言ったっけ。
前に、こいつを見くびってひどい目にあったことがあるんだ。
それで覚えたんだよね。

カラタチみたいなごつい刺のある木じゃないから、危ないよ
うには見えないんだけど、茎は刺だらけだ。
うっかり薮に手足を突っ込むと。流血しちゃう。

でもナワシロイチゴって、刺だけじゃなく、花も実もみぃん
な地味なんだよね。
ピンクの花弁があるけど、小さい上に花がきちんと開かない。
赤い実は甘酸っぱくておいしいんだけど、でっかくていっぱ
い生るっていうわけじゃない。

いいところも危ないところも、ぱっと見にはよく分かんない
んだ。
藪に手を突っ込んで刺に引っ掻かれるとか、実をつまんで食
べてみるとか、そういうチャンスがないと……いつまでもた
だの雑草だ。

しゃらは、そういうのによーく似てると思う。
容姿じゃないよ。性格がね。

辛抱強さや人当たりの柔らかさ。
しゃらがいつもみんなに見せてる部分は、地味で目立たない。
その印象が容姿を上回ることはない。

でも、本当は。
今日立水が驚いていたように、負けず嫌いっていうしゃらの
刺は決して少なくも鈍くもない。
そして最初の頃と違って、しゃらは自分の身を守るために立
ててきた刺を、自分を作るために使うようになってる。
これまで以上に他人から見て刺が目立たなくなってるんだ。

しゃらの芯の強さは、プロジェクトでの付き合いの長い友だ
ちはみんな知ってる。
でも今のクラスメートみたいに、しゃらをよく知らない子に
はそれがよく見えない。

 『かわいいけど、大人しくて性格が地味な子』

そういう印象になるんだろう。

校則改訂で交際関係の規則が厳しくなって、僕への引っ付き
度が下がってる今は、これまで以上に地味に見える。

僕や立水、ゆいちゃんみたいに、刺が鋭くてはっきり見えれ
ば。強い自己主張がくっきり露出していれば。
警戒はされるけど、無闇に刈り取られることはない。

でも、しゃらは……。

そこが、今僕が感じている不安の一つだ。

無神経に刈り取ろうとするやつ。
刺がないと見くびって手を突っ込んで、引っ掻かれるやつ。
そういうのが、出て来ないといいな……と。

 


三年生編 第33話(3) [小説]

時間がない。
その後すぐに守備練習。

内野は、ゆるいゴロをさばいてファーストに投げるだけでい
いってことにした。
ダブルプレーとか、一切考えない。

大原がノックバットを持ってぽんぽん打ち出すゴロを、みん
なしてファーストに投げる。
いやいや感全開だった関口も、その割にはミスなくちゃんと
球をさばいた。

「ふうっ……」

うっすら汗をかいた立水が、サードからホームに戻って来る。
そして、外野でお互いにゴロをさばく練習をしてたしゃらと
ゆいちゃんを大声で呼び寄せた。

「御園! 佐倉! ちょっと来てくれ!」

「なにー?」

二人が、ぱたぱたと走ってきた。

「外野はセンターの中井がほとんどさばく。球よりも、中井
の動きをよく見ててくれ。ぶつかるとまずい」

「あ、そうかあ……」

「前も言ったが、フライは取らんでいい。地面に一度落ちた
ものだけ処理。後ろにだけは逸らすな」

「はあい」

「内野への返球は直接するな。必ず中井に戻せ」

そう。
女子の肩だと、全然球が投げられないんだよね。
無理に強く投げようとすると、あさっての方に飛んでくか、
肩を痛めちゃう。

「それって、転がせばいいのー?」

ゆいちゃんの質問。

「出来るだけ中井に近いところから、アンダーハンドでトス
してくれ」

立水が、下からひょいと中井に球を放った。
見本、ね。

それをじっと見てたゆいちゃんが頷く。

「分かったー」

でも、しゃらがどうにも不満そう。
わたしはちゃんと上から投げられるよーって感じ。
でも、球の勢いよりコントロールが大事なの。
あさっての方向に投げたらアウトだからね。

「しゃら。上から投げてみっか?」

「うん! わたしは投げれるよー」

昼休みが残り少なくなって、みんな引き上げてくる中。
球を持って構えたしゃらが、えいっと声を上げながら球を投
げた。

すぱん!

確かに僕の構えたところには届いたけど。
あかんなー……。

苦笑した僕を見て、しゃらがぷっと膨れた。

「ちゃんと投げたでしょ?」

「全然だめ」

「ええーっ!?」

しゃらの様子をじっと見ていた立水が、冷静に的確にコメン
トした。

「投げる時に顔があっち向いてる。ちゃんと捕球するやつの
ミットを見ろ。それに、始動が前過ぎる。それじゃ肩抜いち
まうぞ」

そう。
見事なまでの女の子投げなの。

僕はしゃらのところに駆け寄って腕を取り、球を持った状態
からリリースまでをゆっくり再現させた。

「……」

「力任せに投げるんじゃなくて、球が飛んでく軌道に球を乗
せてやる。そういうイメージなんだよね。力は要らない」

二、三メートルのところから、ひょい、ひょいと投げさし、
その距離を少しずつ離していく。
おお、いいフォームになったじゃん!

「うん、いいんちゃう? 中井のとこに届けばいいから、そ
れで充分」

短時間で、ちゃんとした投げ方が出来るようになったしゃら
は上機嫌だった。

「わあい! やりいっす!」

 



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三年生編 第33話(2) [小説]

「いくでー」

どん!

立水の目が点になった。

「まぢ……か?」

「まぢ。まだ抑えてるよー」

「なん……だとう!?」

立水の頭に血が上ったらしい。
大きく手を振って、他のメンバーを離れさせた。

「危ねえから離れてろっ!」

ほほう。前へ飛ばすつもりだな。
そうは行くか。

内角高めいっぱい。
一番、窮屈になるところ。
そこに全力で投げ込む。

五球投げて、全部空振り。
かすりもしない。

立水がバットを足下に叩き付けて悔しがった。

「くっそおっ!」

じっと見ていた中井が、立水の叩き付けたバットを拾ってバッ
ターボックスに立った。

「俺にも頼む」

「いいよー」

立水とは逆。長身の中井には一番見えにくい内角低めの膝元
に直球を集める。
何回振っても当たらない。

「えげつねえ……」

そのあと、男子メンバーが入れ替わりでバッターボックスに
立ったけど、誰にも球を前に飛ばさせなかった。

ふうっ。
マウンドを降りて、一度休憩。
その時に、立水に話を振る。

「立水。僕は内角にしか球を投げないよ。ライト側には球が
飛ばないようにする。三遊間のゴロとフライだけさばいて」

「だな。悔しいが、おまえの球速じゃセンター返しもきつい」

「いや、やっぱ当てるやつは居るんだよ。だから、ゴロさば
くのと内野連携はしっかり頼む」

「わあた。まあ、なんとかなるだろ」

「いっきぃ」

しゃらが横やりを入れて来た。

「わたしたちも打ちたいー」

ふむ。いいけど、腰抜かすなよ。
僕は、女の子だからって絶対に容赦しないからね。

先にバッターボックスに立ったゆいちゃんは、完全に見てる
だけ。打つ気なし。

「こ、こわ……こんなん、絶対無理だおー」

でもねー。元西先輩はこれよりえげつない球投げてたし、そ
れでも打たれるんだよね。
女子ソフトって、ほんとすごいわ……。

最後にバッターボックスに立ったしゃらは、バットを短く持っ
て、コンパクトに構えた。
しゃらも、お遊びだけど元西先輩からコーチを受けたことが
あるんだ。まるっきりのど素人じゃないから、油断は禁物。

「いくで」

「うん!」

内角高め。
さっき立水が全部空振りしたとこ。

そこに全力で投げ込む。

ぴしっ!

「お?」

当てた、か。
ファウルにはなったけど、バットにはかすった。
じゃあ……。

今度は内角の低め。
そこも全力。

「あっ……」

まるっきり見当違いのところを空振ったしゃらは、悔しそう
にバットでこんとベースを叩いた。

「もういっちょ!」

「うん!」

三球目は初球と同じ内角の高め。

ぱん!

ころころと、力ない打球がサード方向に転がった。

「きゃあっ! やったあ! 当たったあ!」

ぴょんぴょん飛び上がって喜んだしゃらを見て、男子メンバー
は全員蒼白になった。
僕の球を最初にまともにバットに当てたのが女子……って。

でも、これにはちゃんと理由がある。

「ふうっ……」

肩で一つ息をしてマウンドを降り、憮然としてた立水の側に
寄る。

「立水」

「なんだっ!」

「今ならおまえも打てるぜ」

「は?」

「それがソフトの怖いとこなんだよ。スピードってのは、目
が慣れちゃうんだ。真っ直ぐだけだと球筋が読めちゃうの」

「……」

無言のままバッターボックスに立った立水を見て、僕はマウ
ンドに戻る。

最初、あいつがかすりもしなかった内角高めの速球。
今度は、あいつが器用にバットを合わせた。

ぱんっ!
ピッチャーフライになったけど、球は前に飛んだ。

「む! なるほどな」

「しゃらの運動神経がどうのじゃなくって、一番最後だった
しゃらは僕の球速と球筋に目が慣れた。だから当てられたん
だ。それは、試合でも同じだってことさ」

「わあた。組み立ては大原と相談してくれ」

「うす」

「それでも……」

立水が僕をじろじろと見回す。

「試合は五回までしかねえ。その間におまえの速球に目を慣
らすのはしんどいわ。行けそうだな」

にやっ。
立水が自信ありげに笑った。

 


三年生編 第33話(1) [小説]

5月22日(金曜日)

「全員いるな?」

他の学年やクラスの子たちは和気あいあいと練習してるって
いうのに、バックネット前に集合した僕らの雰囲気は、どこ
となく軍隊風だった。

まあ、立水が監督じゃしゃあないわな。

「時間がねえ。女子は二人でゴロさばく練習しててくれ。中
井、女子の指導たのむ」

「わあた」

「工藤、大原! おまえらは投球練習だ」

「うす」

「おう」

「残りはキャッチボールのあと、内野連携。トスバッティン
グだ」

「うーい」

「おうよ」

あんまりぴりっとした返事ではなかったけど、とりあえずやっ
てみようって感じだな。

大原が、どすんとホームベースの真後ろで構える。
さすが本職、安定感抜群だ。

「よっしゃ! どんと来い」

「いくでー」

最初の数球は肩ならし。
手首だけでひょいひょい投げるだけの、山なりのボール。
大原も、取るのにミットなんか要らんて感じだった。

「次。早いの、行く」

「は?」

「ミット動かさんといてね」

「……」

せえの……。
どっせー!

ばん!

くうー、きんもちいいー!

「おい、工藤!」

「なに?」

「まぢか?」

「まだだよー」

「ま、まだだとう!?」

そう、まだ。
球を放すリリースポイントがばらついてる。
そこを微修正して、と。

ばん!

ばん!

ばん!

最初はキャッチャーマスクをしてなかった大原が、持って来
たマイマスクをかぶった。
構えをぐっと絞って、ミットを大きく見せる。

ばん!

ばん!

ばんっ!

「えげつねえ……百以上出てっぞ?」

「打ってくださいなんて球放るわけないじゃん」

マスクを外した大原が、のしのしと近付いてきた。

「おまえ、こういうのやったことあんのか?」

ソフトの部活経験者は競技から外さないとならない。
それを気にしたんだろう。

「ないよ。手伝いだけさ」

「それにしちゃあ、うますぎっぞ?」

「ここに入ったばかりの時に、生物部の手伝いで女子ソフト
部の元西先輩と絡んだんだよ」

「へえー……」

「先輩はリリーフピッチャーさ。球早いし、めっちゃうまい。
その時に、お遊びでコツを教えてもらってたの」

「あ、それでか」

球をぽんぽん放っていた僕を見て、大原がすかさず言った。

「変化球は?」

「投げれるのもあるよ。使い物になるかどうか分からんけど」

「投げてみて」

「うす」

元西先輩には投げ方を教わってたけど、知識と投げられるか
どうかは全く別もの。

とりあえずいろいろ投げてみたけど、横曲げ系は使い物にな
らないってことは分かった。
カーブもシュートも、コントロールがね。
でも縦系、ライザーとシンカーはいけそうだ。

プロじゃないんだから、曲がればいいの。

五十球くらい投げたところで、大原がノックバットを持って
た立水のところに走っていった。

「立水。あいつ、すげえわ。並のやつなら打っても前に飛ば
ねえよ」

「へ!?」

「スピードがはんぱね」

「……」

ノックバットを持ったまま、立水がバッターボックスに立つ。
内野に散っていた他のメンバーも集まってきた。

大原がキャッチャーボックスで構えて、投げてみろっていう
雰囲気になった。

 



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てぃくる 230 麦秋 [てぃくる]


若葉青葉が伸びゆく初夏に、稔りの時が来る。
それは永劫の終わりではなく、次の稔りに向けた始まりの時。

しかし、眩しい緑と褪せた亜麻色の対比は、否応なしに生命
の無常を突きつける。

栄えていくもの。
衰えていくもの。

濃くなるもの。
淡くなるもの。

取り込んでいくもの。
吐き出していくもの。

麦秋。
一つ終わり、一つ始まる節目の時。



meri.jpg




てか、あんた麦じゃないし!

(^^;;




ええ。手強い外来雑草のメリケンガルカヤでしょう。
どのくらい手強いかと言うと……。



meri2.jpg



雨樋にも生えてしまいます。ええ。







  食ふものを思い浮かべて麦の秋








Don't I Hold You  by Wheat

 


三年生編 第32話(6) [小説]

でも。だからどうするっていうことでもないんだよね。
一年の時も、二年の時も、それなりにぎくしゃくはあったけ
ど、体育祭をきっかけにクラスがまとまった。
学校のイベントって、上手に組んであるなあと思ったもん。

誰かがクラスをまとめるのに、特別に骨を折ったってわけじゃ
ない。自然にクラスの形が出来たんだ。
3Eは、その形がまだ誰にも想像出来ない。
きっと、それだけなんだろう。

立水の力技。
しゃらのどさ回り。
そのどちらかだけでも、いや両方使っても。
3Eが一つになるってことは、最後までないのかもしれない。

そして、僕らはそれを受け入れないとならないんだ。

超合金合体ロボだった1C。
ゆるーい群れだった2F。

3Eは、変形ピースばっかのぎざぎざジグソーパズルかもね。
それがばらばらのまま散らかるか、それとも思いもよらない
形に組み上がるのか、まだ誰にも分からない。

僕は、名前を書き出してあった紙をくしゃくしゃっと丸めて、
ゴミ箱にぽんと放った。

パズルだとしたら。
最初からいっぺんに組み上げるのは無理だよね。

形が合うピースを探して寄せ集める。
部分的にでも絵が見えるようにする。
それがおもしろい絵になりそうなら、他のピースを探してくっ
つけてみようかってことになるのかもしれない。

ただ……。
受験生ばっかの三年じゃ、劇的な変化っていうのは生まれな
いかも。
二年の時以上に、意識が自分自身に向くからね。

自分を削ってまでクラスの調和を考えるなんてやつは、誰も
いないだろう。
僕だってそんな余裕はないし、そうするつもりもない。
その分、これまでみたいに外からのアプローチを期待してる
子は孤立していってしまうだろう。

てんくは……本当にヤバいと思う。

いや、高校の間はいいさ。
クラスなんか、しょせん一年間の限定ものだもん。
そこが嫌でも、居場所がなくても、その一年だけのこと。
自分のことだけに集中して乗り切ればいい。

でも、ここを出たらそうは行かない。
オトナ扱いされるようになる僕らには、もう『クラス』って
いう入れ物を用意してくれなくなるだろう。
いや、それがもしあったとしても、誰かが僕らの関係を調整
してくれるってことがなくなるんだ。

『自分でやりなさい』

……だよね。

しきね、1C、プロジェクト。
てんくが、のんびりの自分を外と擦り合わせるのに使ってき
た調整装置は、全部消えた。なくなった。

あいつが孤立無援でも平然と過ごせるのなら、それでも別に
構わないよ。
でも、それならしきねをあれだけ必死に引き止めるはずない
よね。

てんくは、どう見てもしきねに寄っかかってた。
そして、そのつっかい棒が外れた危うさからまるっきり立ち
直れていない。

まだ……ショックで真っ青になったままなんだろう。

同じ青になるのでも、立水の青たんはまるで違う。
あいつは、どこにでも全力で突っ込んでいく。
どこかに衝突して、ぶつけたところが内出血で青くなったと
しても、それを恥じるでも悔いるでもない。
その青は、あいつにとっての勲章だ。

色を無くして青くなるのと、こさえて青くするのじゃ、まるっ
きり違う。

……違うんだよ。てんく。




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今日の花:ヤグルマギクCentaurea cyanus