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てぃくる 220 破れ鏡 [てぃくる]


やれかがみ

割れていても姿は映る 姿を写す
千々に砕けた鏡でも 覗けばそこに君が居る

君は壊れていないよ 壊れているのは鏡さ
それなのに
鏡を見ている君は 己が壊れているように感じてしまう
そして慌てて目を逸らす

そこにいるのは僕なんかじゃないと
慌てて目を逸らす

違うよ それは君だ
鏡がどれほど割れ砕けていても そこには君が映る


それだけ
それだけのことだよ

都合のいい自分だけを写す鏡なんかないよ
それが全き鏡でも 割れてしまった鏡でもね




yuks.jpg




ああ、姿を映そうとしないでね。
これは鏡じゃありません。ユキノシタの葉っぱ。
ひびが入っているように見えるのは葉脈です。(^m^)

ユキノシタは典型的なシェードプランツで、日照の乏しいじ
めっとしたところが大好き。丈夫で、ランナーでよく増えま
す。

派手さはありませんが、葉にも花にも観賞価値があります。
食用、薬用になる有用植物ですね。






  翳る庭にかそけき気配五月雨








Broken Mirror   by Buckethead

ええ。頭がバケツですとも。KFCの。(^m^)

 

 


てぃくる 219 ひっそりと [てぃくる]


白い桜は目立たない。

薄紅色の桜がそこかしこを埋め尽くす中、ひっそりと春の
隙間を埋める。

樹下で花見をする者もなく、喧騒から離れて静かに花を揺
らしている。

沸き立つばかりが花ではない。
埋め尽くすばかりが花ではない。

いつの間にか咲き揃い、いつの間にか散っている白い桜の
花。それすらも、やはり桜なのだと教えてくれる。

今年も。思い出にだけひっそりと影を落として。

……白い桜が行き過ぎる。





ska.jpg




オオシマザクラ もっともポピュラーな桜であるソメイヨシ
ノの交配親だと言われていますね。ですが、オオシマザクラ
は白い桜。清楚ではありますが、ソメイヨシノのように華が
あるわけではありません。

満開の桜が持つ独特の熱感は、オオシマザクラにはありませ
ん。その代わり、林間の仄暗さを淡く照らす穏やかな光源を
イメージさせてくれます。

咲き揃ったその花は。ひっそりと、でも確かに。
森の端、森の底をほんのひととき暖めるのです。







  花探す者あれかしや山の春










Sewn  by The Feeling

 


てぃくる 218 しゃんしゃん [てぃくる]


sirom.jpg




しゃんしゃんと

春の鈴が鳴る

春が来たから鳴るんじゃないよ

僕らが鳴ったから春が来たのさ

えへん


偉そうに胸を張る神楽鈴

しゃんしゃん




シロモジの花。
小さい小さい鈴です。

もちろん振っても音はしません。
無理やり鳴らそうとして振り過ぎると、ぽっきり折れちゃう
からやめてねー。

でも、折れちゃったら匂いを嗅いでみてください。
クロモジほどではないですが、いい匂いがします。(^^)






   白文字の花 陽に融けて蜜に生る







Money Honey  by Ry Cooder

 


ちょっといっぷく その133 [付記]

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第26話から第28話にかけて、ゴールデンウイーク明けの
いっきたちの様子をお伝えしました。実季節より、ちょっと
だけ先取りという感じですね。


           −=*=−


第26話。

母の日に絡ませて、いっきの伯母の巴と市工校長の宇津木先
生との墓前デートを演出してみました。

二人ともいい年なんですが、どちらもほとんど恋愛経験があ
りません。巴は背負わされた社の運営で忙殺されていました
し、宇津木先生はずっと女性から忌避されていましたから。

そういう意味では、お付き合いと言ったってお互い何をどう
やったら分からないという手探りなんですよね。

でも、二人には共通点があります。使える力があり、それを
容赦なく使ってきたいうこと。そして、その力の陰になって
しまった心はうまく出せていなかった。それも二人に共通し
ています。

過去や故人にかこつけた形にはなっていますが、力の陰にずっ
と隠されていた心を見せたことで、想いを近付けるためのハー
ドルを一つ飛べたんじゃないでしょうか。

邪魔な力をどかして、淡い心をやり取りすること。
すぐに筋論に落ちてしまういっきにとっても、ひとごとでは
なかったと思います。


           −=*=−


第27話。

学校行事である体育祭が近付いてきて、クラスだけでなく学
内が活気付いてきました。

競技やクラスで敵味方が分かれる以上、そこには求心力も軋
轢も生まれます。さあ、調整役のしゃらはそれをうまくさば
けるかなあ?

そして、永見さんや立水のえげつないツッコミがありました
ね。女の影が濃い。セクシーじゃない。
どちらも、いっきの外見と中身が一致しないところからの印
象なんです。

硬派の筋論者という外見。それは女の子から敬遠される一方
で、男っぽさを演出するはずなんですが……実際はそうなっ
ていません。そういう内外のイメージのずれが元で、どうし
てもいっきには実態が見えない不審感が付きまとってしまう
んです。

それは、いっきが最初悩まされていたポーカーフェイスとは
ちょっと性質が違うんですが、誤解を生みやすいという弊害
は同じ。……めんどくさいですね。(^^;;

第28話も同じような構図です。

いっきの意識の中では、偉そうに場を仕切る意識なんかまる
でないんですが、風紀委員会の報告は恐ろしく硬派でしたね。

あくまでも生徒の自衛意識を高めるための警告なのに、あま
りにいっきが危機感剥き出しでがりがりやるもんだから、か
えってクラスメートにぴりぴりした緊張感をもたらすはめに
なってしまいました。

いっきの本性はのんびりのほほんなんですが、あの演説じゃ
あ誰もそうは思わないでしょう。

いっきは、自分以外の人の言動、行動にはよく目が届くんで
すが、決して自己プロデュースがうまいとは言えません。
そういういっきの不器用な一面が垣間見えるエピソードになっ
ています。

第26話での観察者としてのいっきの側面。第28話での表
現者としてのいっきの側面。それが、高三になってもしっく
り合致していないということを、どうか覚えておいてくださ
い。


           −=*=−


この後、いくつかてぃくるを挟んで、とても長い第29話を
お送りいたします。

決して暗い展開ではないんですが、かなり重め。ですが、主
要サブキャラの重大な転換点をがっつり仕込んであります。
それがどういうものかは、登場人物が明らかになればすぐに
分かるかと。

自分もそこに同席しているような感じで、いっきたちと一緒
に雰囲気を味わっていただければと思います。長いので、間
にてぃくるを交えながら一か月ほどかけてアップしてまいり
ます。



ご意見、ご感想、お気づきの点などございましたら、気軽に
コメントしてくださいませ。

でわでわ。(^^)/





hnr.jpg




ニラは臭いが食べられる。
ハナニラは臭くないが、食べられない。

臭いやつほど、人を食う。
臭くなくても、食えないやつがいる。



 


三年生編 第28話(6) [小説]

放課後の教室。
さっきから、しゃらが腕組みしたまま真剣に考え込んでる。

「どした?」

「いや……最後のおぎちゃんのセリフ。あれって」

「ああ、気になっただろ?」

「うん。あれは、警告なんだろか? 忠告なんだろか?」

「どっちでもいいんでしょ。おぎちゃん的には忠告。でも、
学校の管理運営者の一員としては警告さ。これ以上がたがた
騒ぐと、傷付くのは君らだけだよってね。この前僕がおぎちゃ
んどやした時に、瞬ちゃんから出された警告と同じだよ」

「……」

「おぎちゃんに、さっきみたいに言えって指導したのは、瞬
ちゃんだろさ」

「!!」

「瞬ちゃんは校長の代弁者じゃない。でも、教師として生徒
を制御出来ないと、僕らの味方も出来なくなるんだ。教師と
生徒との距離はきっちり離しておかないと、本当にぐちゃぐ
ちゃになる」

「そういうことかー……」

おぎちゃんは、目立たない。
それは、おぎちゃんの糸の呪縛が外れても、そんなに変わっ
ていない。
でも、地味で控えめっていうのは、こういう対立構造が出来
ちゃった時には裏目に出る。

おぎちゃんは努力して、これまでの『どうせ』っていう意識
を変えようとしてきた。
結局最後は殻の中にこもってしまった沢渡校長とは、まるで
正反対だ。

でも。
地位もエネルギーも大きかった沢渡校長と、ヒラで大人しい
おぎちゃんとでは、ハンデが違い過ぎる。
おぎちゃんがどんなにがんばっても、僕らが期待してるレベ
ルまでは届かない。それは、中沢先生も同じ。

僕らは、それを見通せなかったんだ。
沢渡校長を過大評価したのと同じように、おぎちゃんや中沢
先生の実力も過大評価した。
それが、僕らの裏切られ感の強さに直結してしまってる。

先生が自分のスタンスを説明して、僕らを翻意させようとす
るアクション。最初におぎちゃんが試したこと。
あれは……どうやっても無理。効果がない。

もし立水が噛み付いてなくても、おぎちゃんの説明で心の底
から納得して先生を見直す生徒はいなかったと思う。
口先では何でも言えるよって感じてしまうからね。
生徒の信頼を勝ち取りたいなら、おぎちゃんはひたすら自分
の姿勢と行動を僕らに見せ続けるしかないんだ。

そしてこれから実績を積むなら、その前に僕らとの距離をしっ
かり離しておかないとならない。
先生と生徒との間に妙な相互依存の意識が残ってしまうと、
同じ失敗を何度も繰り返すはめになるから。

あくまでも先生は先生。生徒は生徒。
それぞれに違う立場があって、それを取り替えることは出来
ないってこと。
おぎちゃんだけでなく、僕らにもそういう意識の切り替えが
要る。

「さて。帰ろっか」

「そうだね」

まだなんとなく腑に落ちないって感じで、ゆっくりしゃらが
立ち上がった。

「あれ? 板野さんじゃん」

簑田先輩の後釜で、茶華道部の部長になった板野さん。
手にしてるシンプルなガラスの一輪挿しに何か花が生けてあっ
て、それを見ながらゆっくり廊下を歩いてる。
彼女も地味なんだよなあ……。

しゃらが、さっと板野さんのところに走り寄った。

「板野さん、野点のプランは変更なし?」

「あ、御園さん、どもー。予定通りです。鈴木さんにはそう
伝えました」

「今年から、うちの名義ではイベントが組めなくなったから、
よろしくねー」

「めんどくさくなったねー」

「そうなのー。茶華道部は新入部員は?」

「まだ二人。もう一人確保したいなー」

「野点、成功させなきゃね」

「うん!」

ふむ。
しゃらは、イベントの仕切りで弱小部の間を走り回っている
うちに、しっかり人脈を作ったんだろう。

茶華道部、手芸部、調理部……。
女の子ばかり数人の小さな部。

この前の関口のどやしじゃないけど、男子が部長やってる大
きな部の圧力には最初から勝てない。
新入部員を集めたりイベントをやったりは、弱小部単独では
本当にしんどい。部費はうんとこさ少ないし。

そういう弱小部とジョイントして、一緒に盛り上げる突破口
を作れたっていうのは、うちのプロジェクトの成果として多
いに誇っていいと思う。
そして、それは間違いなくしゃらの功績だろう。

しゃらの性格には刺がない。容姿に似合わず、うんとこさ地
味だって言ってもいい。
それは、木陰にひっそり咲くシャガの花に似ているかもしれ
ない。

でも、シャガの花はとてもユニークなんだ。
原色系の派手な色を持っていないだけで、造形も、花の模様
も、とっても個性的。
それは、近寄ってじっくり見るとよーく分かる。

板野さんのように、しゃらと一緒にイベントを組んで来た部
長さんは、しゃらの心遣いの細やかさやまめさ、辛抱強さを
よーく知ってる。

しゃらも、弱小部だからつまらないってことじゃなく、それ
ぞれの部に魅力や面白さがあるってことを、付き合いの中か
ら発見してる。

先生と生徒の場合とは逆。
僕らと他の部活やってる子との距離が縮まったことで、『地
味』っていう言葉の裏に隠れてた素晴らしいものが見えて来
たんだ。

エネルギッシュなムードメーカーとしてのりん。
ちっかの発想力と交渉力。
どちらも、イベントを組み立ててプロジェクトを前に進める
に必要な、大きなエンジンだった。
でも、一見地味なしゃらのどさ回りが、実は一番大事だった
んじゃないかなーと思うんだよね。

少なくとも。
しゃらは、それを自分の大きな財産にしたんだと思う。
地味っていうのも、ちゃんと武器になるんだなあって。

「ちょっといっき! なににやにやしてんの?」

「ん? いや、シャガの花も一輪で飾るといいなあと思って
さ。華やかな花に埋もれるとかすんじゃうけど」

「あ、そういうことね」

板野さんが、一輪挿しを高くかざした。

今はみんなが殺気立ってるから、陰の部分ばっかが目立って、
おぎちゃんはすっかり地味に戻っちゃってる。
でも、きっと日が当たる時は来るよ。

ゆいちゃんが言った、それがおぎちゃんだっていうセリフ。
それには……ちゃんと表裏両面があるんだからさ。




shaga.jpg
今日の花:シャガIris japonica

 


三年生編 第28話(5) [小説]

僕は、分厚い資料をみんなに掲げて見せた。

「これは、校則や各種規則の一覧なんですが、この中には各
種免許の取得に関しては一切記述が無いんです」

立水が吠える。

「じゃあ、なにか? そこに記述がねえってことは、おっけー
だって考えていいってことか!?」

「さあね」

「……」

「そこがグレイになっちゃう。まずいでしょ?」

「むー」

「そもそも僕が免許がどうのこうのって考えたのは、僕が車
やバイクに乗りたいからじゃない。免許証が証明書代わりに
使えるから。顔写真の入った公的な身分証明書って、意外に
ないんです」

おぎちゃんが、ぽんと手を叩いた。

「なるほど!」

「でしょ? 原チャリの免許は実技なしで取れる。原チャリ
に乗らなくても、免許証だけ身分証明書代わりに使いたい。
そういう考えもあるんです」

もう一度、校則集の束を掲げる。

「ここに車や二輪での通学禁止しか書いてないのは、そんな
ことをする学生は不良だっていう時代があったから」

「ぽんいちは昔は進学校だったから、高校出てすぐ運転免許
が必要な会社に就職するっていう人は少なかったし、在学中
に免許を取って車や二輪を運転したいなんて学生はいないだ
ろうって考えてた」

「だから規定がないんだと思います」

し……ん。

「車やバイクを通学に使うな。それは今でも説得力がありま
す。でもその理由は、今は風紀上の理由じゃなく、事故防止
のためでしょう」

「そんな風に、時代や状況の変化を乗せ切れないまま、新校
則にはまだあちこちに穴が開いてるんです」

僕はもう一度身を乗り出す。

「今からもう一度校則を大改訂しろっていうのは無理です。
学内がごたごたしている状況で、学生と学校側とが強く対立
するような雰囲気は、校長も僕らも作りたくないから」

「ああ」

立水が頷く。

「そうしたら、グレイになっているところは前もって学校側
の見解を聞いておかないとならない。そういう意味で、さっ
きの渋谷くんの指摘は重要なんです」

「校則をどう解釈するか。校則にない部分、校則から読み取
れない部分を学校側がどう考えてるか。疑問や提言は、気付
いたら風紀委員の僕に教えて下さい。それは議題に乗せるか、
校長の説明を求めます」

みんなが頷いた。

「他には?」

ゆいちゃんが挙手した。

「今の一連の報告。それは、うちのクラスだけ? 他は? 
下級生のクラスは?」

「風紀委員会は、僕が委員長です」

「おっけ」

ゆいちゃんは、さっと引いた。

みんな、ぽかあんとしてる。

「すいません。少し時間が押しました。委員会は月一回の開
催予定ですが、その会議の結果は必ずロングホームルームで
報告します」

「他人事ではないので、報告内容を厳しくチェックしてくだ
さい。僕個人の意見を委員会に持って行くんじゃ、意味があ
りません!」

「よろしく! 以上です」

のそっと立水が立ち上がって、僕と入れ替わって前に立った。

「まだ……何も終わってねえな」

そう言って。
じろっとおぎちゃんを睨んだ。

でも、おぎちゃんも根性据えたんだろう。
立水から目を逸らさずに静かに答えた。

「そうね」

すっと立ち上がった先生が教卓に近付く。
立水は黙って自分の席に下がった。

おぎちゃんは、慎重に言葉を選びながらロングホームルーム
を締めた。

「まだ……あちこち試行錯誤です。でも、ごたごたは早く片
付けないと、君たちの将来に影響します」

「それを……よく考えて下さいね。日直」

「はい。起立!」

「礼!」

「ありがとうございました!」

 



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三年生編 第28話(4) [小説]

「あの……」

永見さんか。

「どうぞ」

「風紀委員会の顧問はずっと校長? それとも、校長は最
初だけ?」

「校長のアナウンス通りなら、最初だけです。でもね」

僕はぎゅうっと両拳を握りしめた。

「新しい校則の適用、そして校則違反者の処分。それは全て
校長名で発令されます」

「最終権限者が風紀委員会の顧問をやる。そんな理不尽なこ
とがありますかっ!!」

僕は大声で怒鳴った。

し……ん。

「もちろんそれがとんでもなく異常だってことは、安楽校長
も充分認識してます。トップが交代する来年以降は、教頭先
生が顧問につくことになるそうです」

立水がでかい声で反駁する。

「それだっておかしいだろっ!」

「まあね。でも……」

ぐるっとみんなを見回してから、おぎちゃんに目を向けた。
おぎちゃんは、教室内の殺伐とした空気に怯えていた。

「それしかないんですよ」

「どうしてだ!?」

「権限のない先生が口を挟むと、議論がその先生の意図に沿っ
て曲がってしまいます。それが学校寄りであっても、生徒寄
りであってもね」

「あっ……」

立水には、それで分かったようだ。

「絶対に僕らとの距離が近くならない、権限を持ってて対極
にいる先生。なおかつ、その先生の名前では学校側の発表が
されないポジション」

「それは教頭しかないってことか……」

「そうです。でも、今はそこが空位になってる。肩書きのな
い先生と校長のどっちが代わりをするかって言えば、校長し
か出来ないんですよ」

「わあた」

「分かりました」

立水と永見さんは、二人とも納得したらしい。

「他には?」

渋谷くんが、おずおずと手を挙げた。

「お題は……いつも向こうからだけ、ですか?」

うん。いい質問だね。

「それは、校長の方からは特に言及がなかったです。だから、
こちらからの提言や疑問の投げ掛けは、当然ありでしょう」

僕はぐいっと身を乗り出した。

「実はですね。新校則、あんなの付け焼き刃で穴だらけです」

ええっ!?

みんなが絶句する。
おぎちゃんも、そんなの聞いてないっていう反応だ。

「ど、どして? 生徒会であれだけ詰めたのに……」

永見さんは、非難の混じった口調でそう言った。

「いや、全然だよ」

ふうっ!
大きく一回息を吐いて、一気に畳み掛ける。

「沢渡抗長が、いきなり落っこちてきた校則改訂の指令に対
応しないとならなくなったのは、去年の年末です。そして一
月の末にはもう改定案がほぼ固まってた。永見さん、そうで
しょ?」

「うん」

「そんな休み込みの二か月ぽっちで、これまで二十年以上変
わってなかった校則の全面見直しなんか出来るわけないじゃ
ん!」

「……」

「校長と生徒会で詰めたのは、僕らの校則違反が目立つとこ
ろと、どう考えても時代に合わなくなった部分だけ。それ以
外は、ほとんど手付かずなんですよ」

し……ん。

「たとえばね」

ぐるっと教室を見回す。

「この前友達と話をしていて、おやっと思ったんです」

僕は振り返っておぎちゃんに聞いた。

「荻尾先生は、車で通勤されてますよね?」

「あ、はい。そうね」

「でも、生徒には車や二輪、原チャリでの通学は認めてない。
校則で禁止されています」

そんなの当然じゃんという顔で、みんなが頷く。

「じゃあ、免許の取得は?」

あっ!

おぎちゃんも含め、全員が声を出した。

「免許取るのはおーけー? のー?」

「誰か、分かりますか?」

し……ん。

 


三年生編 第28話(3) [小説]

揉めるかと思っていた体育祭の割り振りが無事に収束して、
こきこき肩を揺すった立水が俺を呼んだ。

「風紀委員から重要な話があるそうだ。頼む」

「うす」

僕は立水と入れ替わって前に出ると、おぎちゃんを含めた全
員にプリントを配った。
それには、風紀委員会設立までの経緯と、一回目、二回目の
委員会で校長が説明した内容、それに対して委員側からどう
いう意見が出たかを事細かに書いてある。

同じものを全学年の風紀委員に流し、チェックを入れてもらっ
てる。そして各クラスの風紀委員から、全クラスの生徒に流
されることになっている。
それは事実を書き連ねた議事録で、虚偽や推測の混じった内
容は一つもない。

「工藤です。これまで風紀委員会では二回の会合を行い、そ
こで顧問の校長から委員会の趣旨説明と、僕ら委員との質疑
応答が行われました」

「風紀委員会が何をするか。全校集会の時の校長の説明だけ
ではよく分からなかったと思うので、もう少し噛み砕いて説
明しておきます」

「まず。風紀委員には何の権限も与えられません。そこで何
が話し合われても、話し合いの結果が直接学校側の決定を左
右することは決してありません」

「僕らが取り締まる側、つまり警察の立場になることはあり
えないということです」

「では僕らは何をするか」

「学校側には、校則に対する僕らの意識を知る手段がありま
せん。ですので、厳しくなった校則に対し、僕らがそれをど
う考え、どう行動するのか、それを調べるためのセンサーと
して委員を使うつもりです」

「一生徒として、校則適用の是非やそれに伴った処分等をど
う感じるか、どう考えるか、率直に聞かせてくれ。そういう
ことです」

「ですが!」

ばん!

「そんなのは建前です。要は学校側の方針や処分を僕らが受
け入れられるかどうか、前もって知っておきたい。そういう
こと。結局風紀委員は、警察官はやらされなくても裁判官は
やらされるんです」

みんなの尖った視線がばしばし飛んで来る。

「委員会では、毎回架空のケースをネタにして委員の間で議
論し、僕らの判断を学校側が見て実際の運用に活かす、そう
いう流れになっていますが……」

「起き得ないことをネタにすることなんか、絶対にあり得ま
せん!」

僕が青筋立てて大声で怒鳴ったことで、みんながびびった。

「明らかな校則違反であった場合。それは議論に値しません。
ですがグレーゾーンの場合、僕らが引けばそこは学校が黒く
塗りつぶします。それを、絶対に忘れないでくださいね!」

「風紀委員会では、各クラスの風紀委員が、学校が上げる観
測気球を持ち帰ってクラスでの議論をまとめることになりま
す。ですが、そこで学校側に配慮する必要は一切ありません」

「いいですか? 委員会に求められているのはセンサーです。
理屈や筋じゃない!」

「僕らが嫌だと思っていること。受け入れられないと思って
いること。そういう気持ち、意思! それを、そのままスト
レートにぶつけます。そのための委員ですから」

「同時に」

「委員会で学校側が出して来るネタ。それは、イコール学校
側の懸念材料、警告だと受け取ってください。それを甘く見
ると、足下をごっそり持って行かれます」

「自衛を怠らないよう、よろしくお願いします」

「そして」

「学校側が早速持ち出してくるであろうネタも、想像が付き
ます」

ぐるっと教室内を見回す。

「去年生徒会が、沢渡校長のむちゃな校則改訂案をいくつか
押し返しました。ですが、交際禁止についてはまだ決着がつ
いていません」

ええっ!?
みんなが、顔色を変えた。

「確かに文章としては定義されませんでしたが、内容は淫行
禁止の校則に統合されてる。つまり、その中でまだ生きてる
んです。その生臭いところを僕らが触らざるをえない」

「それを……覚悟しといてください」

し……ん。

「もう一度繰り返します」

「風紀委員会は、生徒の意見を集めるためだけの実権が何も
ない委員会ですが、僕らが知らないうちに裁判官をやらされ
る事態だけは全力で阻止します!」

「学校側にぶつけたい批判や意見は、遠慮なく僕に申し出て
ください。委員会で必ず意見として上げます」

「何か質問がありますか?」

立水がでかい声でがなった。

「でも、結局俺らが何を言おうが、委員会では押し返せねえ
んだろ?」

「押し返せません。学校側との公式な交渉窓口を持っている
のは生徒会だけです。僕らは生徒会の切り札を増やすことし
か出来ません」

「む……なるほど」

そう抗議でも嘆願でも、生徒会が動いた時に生徒の総意がま
とまる可能性があれば、学校側はそれを考慮せざるをえない。
学校側の権力発動の抑止力としては、委員会が機能しうるん
だ。

だからこそのセンサーなんだよ。

 



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三年生編 第28話(2) [小説]

去年の夏の騒動の時に僕らは、学生と、支配者としての校長、
そして仲介者としての先生たちっていう三者分立の構造を頭
に描いた。

でも、それはそもそもおかしい。
本来は、校長も先生もひっくるめて学校という組織の運営者
であり、僕らにとっては支配者なんだよね。

安楽校長が言った『狂ってしまった距離感を補正する』って
いうのは、それを元の筋に戻すってこと。
校長と先生たちが合議で方針を決めれば、僕らと学校側との
直接接点が先生たちである限り、先生たちは学校側だ。
僕らの味方をするっていうことはありえない。

先生を介した、間接的な交渉窓口も閉まるってことになる。
でも、それじゃ僕らが閉塞感で荒れたり潰れたりしかねない。

だからこそ!
風紀委員会での生徒側の意思表明が重要になる。

風紀委員会は、生徒同士の意見交換の場じゃない。
そう考えたら、校長の思うつぼだ。

生徒会と学校側との交渉を有利にする手札を生徒会に持たせ
るためにも、風紀委員会ではきっちり生徒側の総意を見せな
いとならない。
自主規制したり、遠慮を挟んだりする余地はないんだ。

お?

おぎちゃんの登場だ。

「起立!」

「礼!」

「おはようございます!」


           −=*=−


ロングホームルーム。

立水が何度もどやしたことと瞬ちゃんの説教で、おぎちゃん
にもやっと覚悟が出来たんだろう。
最初に学校側からの連絡事項や注意喚起を手短にアナウンス
し、それから立水にバトンを渡した。
まだおっかなびっくりではあるんだろうけど、一応先生が仕
切るという形にはなった。

「じゃあ、委員長。お願いね」

「うす」

のそっと席を立った立水が前に出る。
しゃらもさっと黒板の前に立ち、メンバーが確定した体育祭
の種目を手際よく書き出していった。

テニス班。
黒木、安藤、渋谷、永見、大友、岩井。

永見さんがバレーからテニスに移ったことを知らなかった子
から、驚きの声が漏れた。

バレー班。
藤野、佐々井の女子二人に、さらに海老原さんが入って女子
が三人になった。男子は合場、片山、坂上。

まあ……女子はともかく、男子はぼろっかすだ。
ぐだぐだの坂上、皮肉屋の片山、そしてほとんど廃人化して
るてんく、か……。

てんくをバレーに引っ張ったのは、藤野さんだろう。
ただ、一年の時と違って、今のてんくはまるで役に立たない
と思う。
片山がぶち切れそうだな……。

そして、最後まで揉めたソフト。
なんだかんだで、一番充実したかもしれない。

男子は僕、立水、関口、大原、中井、光岡、橋野。
女子はしゃらとゆいちゃん。
大原は元野球部の控えキャッチャー。中井は男バスの長身セ
ンターで運動神経はいい。どうしようもない運痴はいないっ
てことだ。

元原を含む残り男子5人と、女子10人がフィールドという
ことになった。
まあ、妥当なところだろう。

フィールド競技の割り振りもほぼ確定済みで、それがしゃら
の手によって坦々と黒板に書き出されて行った。

「で!」

そこまでは満足顔だった立水が、一転して仏頂面に戻った。

「問題はリレーだ。まあ、予想はしてたが希望者ゼロはねえ
だろが!」

絶対に選手が跳ねてこない女子には高見の見物だけど、男子
は立水の圧力が直に来る。
みんな、身を縮めてる。

「どうせ誰が出ても同じならくじ引きでもいいが、俺の方で
素案を作った。文句ある奴は自力で代わりを探してくれ。そ
ういう形で調整したい」

なるほど。うまい方法を考えたな。
完全くじ引きだと、チームとしてのモチベーションがゼロに
なっちゃう。
かと言って、立水が強引に指名すると後で遺恨を残す。
指名されたやつが推薦委員になる、そういうイメージなんだ
ろう。

「言い出しっぺだ。俺は出る」

うわあ……すっげえプレッシャーがかかりそう。

「後は中井、安藤、元原」

「おまえらがやるか、人選してくれ! 来週の今日までだ!」

指名も、立水の強い言い方とは裏腹にバランス型だ。
ちゃんとソフト、テニス、フィールドの出場者からチョイス
してある。

やるなあ……。

話し合いの余地を残した形になってるから、強い反発は出な
かった。

三年生編 第28話(1) [小説]

5月14日(木曜日)

朝の教室。
ざわめきが静かに広がってる。

新学期になってからのごたごたがやっと片付いて。
最初異様な緊張が支配していたクラスの雰囲気は、徐々に落
ち着いてきた。

授業が三年らしい早くて重い展開になってきたし、教室移動
も多い。
みんな、ハードな授業の合間に少しでも緊張を緩めて息抜き
しないとしんどいんだろう。
まだぼそぼそ感は残ってるけど、教室内におしゃべりの音が
響くようになった。

ぽんいちのとんがり系を3Eにチョイスしましたって言って
も、みんながみんないつも爆発してるわけじゃないし。
受験が最終ターゲットなんだから、つまらないことでいらつ
きたくないのはみんな同じ。
それは僕だろうが、しゃらだろうが、立水だろうが変わらな
い。

三年は、受験と自己主張を天秤にかけると受験に軍配が上が
るんだよね。それがよーく分かる。

……にしても。
今朝は、いつも仏頂面の立水の機嫌がいいなあ。
手にして読んでるのは物理の参考書だけど、意識はそっちに
行ってない。

たぶん、体育祭のメンバー割りがほぼ固まったんだろう。
最初の仕切りが大揉めにならずに済んで、ほっとしたんだろ
うな。

立水としゃらのコンビネーションは、実によく機能してる。
元々前に出たがらないしゃらには、ごりごり押す強気の姿勢
が最初からない。人当たりが柔らかい。
そういう低姿勢は善し悪しで、やる気のない坂上とのコンビ
だったら、しゃらは間違いなく矢面に立たされて使い潰され
ただろう。

だけど、ごちゃごちゃ言うなら最後に立水が出て来るぞとい
うのは、しゃらがわざわざ言わなくてもみんなに分かる。
その言わなくても分かるってことが、しゃらにはものすごく
楽なんだ。

しゃらの「ねえ、お願い!」は、しゃら単独だと足下を見ら
れるけど、立水がバックにいる限り『お願い』には強制力を
伴う。そして、反作用がしゃらに直接跳ねないんだ。

立水も、強圧的な人狩りがまずいってことは分かってる。
そこをしゃらが足で稼いでくれるのは、本当に助かると思う。

社長と秘書みたいなもんだな。

どれ。
探り入れてみっか。

「よう、立水。リレーもメンバー固まったん?」

「まだだ。それで最後さ」

なるほど。
じゃあ今日のロングホームルームは、それを決めて全部終わ
りってことだな。

ああ、忘れないうちに言っておこう。

「今日のロングホームルームは、体育祭のことだけか?」

「今のところはな」

「風紀委員から大事な報告がある。時間をくれ」

リラックスしていた立水の顔から一瞬で笑みが消えた。

「時間は?」

「十分から十五分くらい欲しい」

「後か先か?」

「後にしてくれ。もっと押すかもしれん」

「わあた」

この前片山に突っ込まれたけど、ああいう感情はまだみんな
が共通して持ってる。
結局学校側のいいようにされて、生徒会は骨抜き、風紀委員
会は問答無用で作られちゃった。
俺たち、全敗じゃないか!

みんな、そういう不満をたっぷり抱えてる。

無力感と行き場のない反発意識。
それがごっちゃになったまま、見かけだけは不気味に平静を
保ってるのが今の現状だ。

そして、学校側では生徒の不満感情への対応をまだ何もして
いない。
いや、してないんじゃなくて、僕らの心理状態を把握する手
段がそもそもないんだよね。
だから学校側は、風紀委員会をセンサーとして使おうとして
る。

それはいいんだけど。
センサーで計った結果を生徒の制御にどう使うかが、とんで
もなく難しいと思うんだよね。

校長が何から何まで直接さばくならいいよ。
でも、そんなの出来っこないじゃん。

結局クラス担任の先生が、ケースに応じて締めたり緩めたり
しないとならない。
だけど経験の浅い若い先生は、がちゃがちゃいじられて一番
ナーバスになってる僕ら三年を上手に制御出来ないと思うん
だ。

おぎちゃんのヘマや中沢先生の逃避。
僕らはおぎちゃんや中沢先生に近かったから直接どやしたけ
ど、先生のふらふらした頼りない姿勢に不信感を持ってるク
ラスは3E、3Gだけじゃないだろうからね。

対応をミーティングで詰めるって言った斉藤先生が、三年の
担任の先生たちにどういう指導をしたか、僕には分かる。
生徒から徹底的に距離を取れ、だ。

こびるな。馴れ合うな。事務的にやれ。
受験生特有のナーバスさに不用意に触らないようにするには、
それしかないもん。

めっきり口数が少なくなったおぎちゃんは、校長や瞬ちゃん
の指導を忠実に実行してるんだろう。
この前じんにへこまされた中沢先生が言ってたのも、そうい
うことだったし。

 



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