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三年生編 第20話(8) [小説]

「でもぉ」

心配そうに、しゃらが僕をちら見した。

「おぎちゃん、大丈夫?」

「さあね。チャンスとかなんとかくだらんこと言う前に、き
ちんと根性鍛えて欲しい。学生じゃないんだ。それでお給料
もらってるんだからさ」

「……」

「今日のロングホームルーム。じんのいる3Gも炎上したら
しいよ。当然、中沢先生を吊るし上げたのはじんだろ」

「ぎょ、ぎょえええっ!?」

ムンク状態のしゃら。

「まあ、中沢先生は先に僕らの総攻撃を受けていくらか免疫
が出来てると思うけど。それでも、瞬ちゃんが怒りまくって
たってことは、対応にまずさがあったんでしょ」

「ひええ……」

「瞬ちゃんから僕にイエローが出た。だから、僕はもうおぎ
ちゃんのサポートはしないし、出来ない。あとは先生たちの
自覚の問題。僕らはその姿勢を見て態度を決める。それだけ
さ」

「イエロー?」

「そう。瞬ちゃんが、僕のアクションを見逃すはずないよ。
僕がおぎちゃんに何を言ったのかは全部チェックしてる。僕
も、それは承知の上でおぎちゃんどやしたし」

「……」

「もう、職員のことに口を出すなとさ」

「そっか……」

「それでいいんだよ。瞬ちゃんはちゃんと分かってる。先生
が生徒と馴れ合ったら、逆に生徒を制御出来なくなる。瞬ちゃ
んの持論なんだけど、それは正しいと思う」

「……」

「敵視しろってことじゃないよ。でも、全然立場が違うんだっ
てことは意識しないと、どっちも不幸になる」

「うん。そうだね」

「瞬ちゃんは、おぎちゃんと中沢先生を二人並べて、骨にな
るまで説教するとさ」

「ぐわあ……」

べたっと机の上に潰れたしゃらが、ながーい溜息と一緒に漏
らした。

「はあああああっ……しんどそー」

「わはは。でも、そうしてくれる先生がいるってことは幸せ
だと思うよ」

「確かに……そうだね」

もう触るなと言われた以上、僕のアクションもこれで終わり。
後は結果待ちだ。

やれやれ……。

しゃらと二人してなんだかなあという感じで脱力してたとこ
ろに、どやどやと足音が近づいて来た。

「お? 鈴ちゃんたちかな?」

げらげらと派手な笑い声が混じってる。
四方くんや菅生くんの声じゃないなあ。
誰だ?

がらっ!
教室の扉を開けて、気持ち良さそうに入ってきたのは関口だっ
た。

「いやあ、傑作、傑作!」

上機嫌だな。

「おい、関口。部長会、出てたんか?」

「一応、工作部貸した経緯説明が要るかなと思ったからよ」

「お。そうか。で、なんでそんなご機嫌なんだ?」

「うけけけけっ!」

楽しくて楽しくてたまらないという顔の関口の後ろから、顔
を真っ赤にしてぶりぶり怒りまくってる鈴ちゃんが登場した。
四方くんと菅生くんは苦笑い。

「いやあ、すごかったっすよー」

四方くんが切り出した。

「どしたん? そんなにじんから突っ込まれたん?」

「いいえ、予想外のところから強烈な突っ込みが入ったんで
す」

ぴん!

「運動部系か」

「ずばり、剣道部ですよ」

どて。

「た、立水かあ……」

「えげつないですね。なんでおまえらのおままごとに五万も
出さなあかん。そんなのゼロでいい……ですから」

思わず頭を抱え込んだ。

「うがあ」

「僕の方から、美化委員会に筋を通してるし、学校からも許
可を得てる。そう説明したんですけど、それは美化委員会で
やることだろがの一点張り」

むー……それで鈴ちゃんがぶんむくれて、関口が大笑いして
るってことわ。

にやっ。

「いひ」

「ちょ、いっき! 笑ってる場合じゃないでしょ!」

「いや、大したもんだ。おぎちゃんに鈴ちゃんの爪の垢煎じ
て飲ませたいね」

「えっ!?」

もう辛抱たまらんというように、関口が腹を抱えて大笑いし
た。

「ぎゃはははははっ! ひぃひぃひぃ」

 


三年生編 第20話(7) [小説]

「いっきー、遅かったねー」

僕が教室に戻った時。
中にいたのはしゃらだけだった。

「あれ? ゆいちゃん帰ったん?」

「新聞部は前年並みで決着したって。ほっとしてた」

「ふむ。で、うちは?」

「……。まだ連絡ないの」

げ。
揉めたんか。

「いっきはなにしてたの?」

「おぎちゃんをどやしてたんだよ」

「えっ!?」

「今日のは……ほんとにまずかったんだ。最初のヘマ以上に
ヤバい」

「え? 何かしたっけ?」

しゃらは気付かなかったか。
みんながそうだといいんだけどね。
でも、立水のように感じるやつは他にもいるだろう。
しかも、そいつらはみんなとんがりくんなんだよ。

僕は、しゃらの真向かいの席の椅子にどすんと腰を下ろすと、
頭を抱え込んででっかい溜息をついた。

「はあああっ」

「??」

「しゃらは、おぎちゃんの最初のヘマは知ってるよね?」

「うん。沢渡校長の企みを見抜けなくて、結果として片棒担
いじゃったから、私は委員決めを指図する資格がない。だか
ら君らで決めてって無責任なことを……」

「そう。資格がないじゃだめなんだよ。失敗したから今度は
こうしようってちゃんと僕らを指揮しないと、せっかくの反
省がまるっきり無駄になる」

「うん」

「僕も立水もどやしたのはそこさ。先生なんだから、先生と
しての仕事をちゃんとしてくれ!」

「うん。でも、今日はちゃんとしてた……」

「してない」

「え!?」

しゃらも、口をあんぐり。

「だから、立水がぶち切れたんだよ。僕も血管切れそうだっ
たわ」

「ちょ……どこが?」

「あのさ。ロングホームルームは、僕らで勝手にやるってい
うことじゃないの。あれも立派な授業。先生はどう進行させ
るのかをきちんと指示する必要がある」

「あ……」

「してないでしょ? 仕切ってたのは誰?」

「そ……か。立水くんだね」

「だろ? 最初の失敗を繰り返さないなら、立水が何を言お
うがおまえは先生じゃないんだからだあっとれって、とっち
めないとならないの」

「……」

「でも、立水を怖がってるおぎちゃんは、立水のリードを最
初から許しちゃった」

「うん」

「それじゃあ、初めのへまは何も挽回出来てない。なんだ、
あいつは結局口先だけか。そうなっちゃうのさ」

「げー……」

「立水は、先生によるスケジュール説明を前に持って来た。
普通は先生からの連絡は最後にやるんだよ」

「うん。そうだね」

「立水は時間調整の都合上って言ったけど、違う。あいつは
おぎちゃんをちゃんと立てたんだ。先生なんだから、最初に
俺たちをきちんとシメてくれってね」

「……」

「それなのに、おぎちゃんは最初と全く同じヘマをしでかし
た」

「うー……へま、かあ。うーん」

しゃらが考え込む。
分かんないかなあ。

「学校の方針を、感情を交えないでストレートに説明する。
おぎちゃんはそうするだけで良かったんだよ。文句あるなら
校長に言ってくれ。それで済むんだから」

「うん」

「でも、最後の一言が余計だった。ってか、サイアクだった
んだ。あれで全部ぶち壊しさ」

「チャンスをくれ……ってとこ?」

「そう。チャンスもへったくれもあるかよ。僕ら学生と先生
と、どっちが立場が上?」

「あっ!!!」

しゃらも青くなった。

「失敗したと思ったら、失敗の再発防止が最優先さ。謝るの
なんかどうでもいい。先生として仕切る自覚がなかったって
のが大失敗だったんだから、次からは死ぬ気で仕切らないと
ならないの。それが先生っていう商売でしょ?」

「うん」

「空意地だろうが空元気だろうが、僕らをどやしつけて仕切
る。それしかないじゃん! なのにごめんなさい、許してく
ださいで、仕切れるの?」

「げー……」

「まあ、最初に爆弾落とす相手は中沢先生じゃなくておぎちゃ
んのつもりだったから、順序が逆になっただけ」

「それで……職員室に行ってたんだ」

「そう。ちったあ危機感持ってよ。先生としての自覚が足り
なすぎるってね」

 



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三年生編 第20話(6) [小説]

安楽校長にどやされた距離感の不具合。
先生の方にそういう意識がないなら、僕らの方からきちんと
突き放さないとならない。

馴れ合いはまずいと口で言いながら、先生は自分の努力を認
めてよってもう馴れ合おうとしてる。
言ってることとやってることが違うじゃん!
さっき立水がぶち切れたのはそのせいだよ。

安楽校長がおぎちゃんや中沢先生に言ったこと。

『私は結果しか見ないよ』

それは、僕らがおぎちゃんたちを見る時も同じだってこと。
僕らも、結果しか見ないよ。
懲りもせず同じ失敗を繰り返すと、僕らの中でのおぎちゃん
の位置付けはどんどん低下する。
生徒と先生との距離は、おぎちゃんの期待とは逆に離れていっ
てしまうんだ。

「先生はさっき言いましたね。職員室で僕が落としたでかい
爆弾を深刻に受け止めたって」

「……うん」

「本当ですか?」

「……」

「とてもそうは思えないです。そして、先生の決意はまだ口
先だけで、中身は緩んだままなんじゃないのって、クラス全
員が疑ってかかってるんです。僕だけじゃない!」

「そんな……」

「頼りないと信用出来ないは違う。頼りないは、行動ですぐ
に印象が変わります。荻尾先生のイメチェンの後、実際に変
わりましたよね?」

「う、うん」

「でも、信用を失ったら取り戻せませんよ? 生徒全員から
嘘つきでいい加減なダメ教師のレッテルをべったり貼られた
ら、先生としてやって行けるんすか?」

「う……」

「いいんすか? そんなことで?」

「……」

「あのね、先生は制度とか校則を突き付けて僕らを指導する
立場なんです。きちんと指導してください! 僕らにこびを
売る前に、行動で先生としての覚悟を見せてください!」

「……」

「それが出来ないなら、さっさと担任を下りて欲しいです」

「そ、そんな……」

がらっ!

進路指導質の扉が突然開いて、苦虫を噛み潰したような顔の
瞬ちゃんがのしのしと入ってきた。

「まあ、おまえのことだからただ説教されるだけじゃねえと
思ってたが、逆だったか」

「……」

きっと最初から扉の向こうで僕の話を聞いてたんだろう。
僕は瞬ちゃんをぎっと睨みつけた。

「あまりに緊張感がなさ過ぎです。先生は学校から全権預かっ
てるんだから、ちゃんと言うことを聞け。毅然としてそう言
えばいいんですよ。立水一人にびくびくしてるようじゃ、先
が思いやられます」

「ああ」

「いいですか!?」

もう一度雷を落とす。

「僕が一年や二年なら、こんなくだらないことになんか首を
突っ込みませんよ。でも、僕らは三年なんです。受験生なん
です!」

「ロングホームルームで先生は、学校側で補習はもうしない
よっていうアナウンスをした。僕らにもっと努力しろってプ
レッシャーをかけた。そう言った本人がよわよわだったら、
誰がそれをまともに受け止めます?」

「ぐ……」

「安楽校長の力技で、沢渡先生の暴挙の後始末は着々と進ん
でます。でも、今回のことで傷を負ったのは生徒だけなんで
す。そのことを……」

「もっと深刻に考えてくださいっ!」

「分かった」

瞬ちゃんが答えてもどうにもならないよ。
3Eの担任はおぎちゃんなんだ。
おぎちゃんがちゃんとこなせるか、こなせないか。

僕らの関心はそこだけさ。

「工藤の言うのはもっともだ。おまえのことだ。俺にも言い
たいことがたんまりあるんだろ?」

「あります。言うことは同じですけどね」

「だろうな。それは俺らがミーティングで詰める。おまえは
もうがちゃがちゃ口を出すな」

ぴしっと。
瞬ちゃんが僕を突き放した。

校長に距離の話を聞く前だったら、今の瞬ちゃんのセリフに
もぶち切れていただろう。そんなの、信用出来るかって。

でも、先生の姿勢っていうのは話し合いで決めることでも、
説得することでもない。僕らが先生の行動や言動を見て、そ
こから受け止めるものだ。
僕らは、結果を見て判断するしかない。

瞬ちゃんは、僕らの退出を急かした。

「さっさと出ろ。工藤、おまえはもうこの件に首を突っ込む
な。警告はしたからな」

ね?
おぎちゃん。これが、先生なんだよ。
瞬ちゃんは、最強の切り札をタイミングよく切る。

これで僕は、おぎちゃんにはもうアプローチ出来なくなった。
瞬ちゃんの警告を無視すれば、立水と同じで今度は脅迫になっ
ちゃうからね。

もちろん経験の差はあるだろうし、僕らもそれは理解出来る。
でも、経験不足を言い訳にはして欲しくない。
失敗の反省よりも、次にどうするかを見せて欲しい。
僕らの関心事はそこにあるし、それしか評価しないだろう。

進路指導室を出たところで、瞬ちゃんに背中をばしんと叩か
れる。

「工藤、とっとと帰れ。荻尾」

「……はい」

「骨になるまで俺が説教してやる。中沢も白井にこっぴどく
ぶちのめされてたから、二人合わせて説教だ」

あーあ……。3Gもか。
中沢先生も、プロジェクトとダブルだからしんどいだろうな
あ……。

「教師が生徒に足元見られてどうすんだよ。くそったれが!」

瞬ちゃんが忌々しそうに吐き捨てた。

うん。その通りだと思う。

 


三年生編 第20話(5) [小説]

「先生が修正してやり直したいっていう意欲は分かるし、僕
らもそれがウソだとは思ってません」

「うん」

「でも、もうちょい慎重に僕らと今の状況を確認してくださ
い」

「あの……どういう……こと?」

「3Eは、猛獣の巣なんですよ。先生は今、そのど真ん中に
いるんです。そういう認識がありましたか?」

「……」

「先生は、立水の態度に一喜一憂してる。先生だけじゃない。
クラスのみんながその状態でしょう」

認めたくないけど、それは事実。
そんな感じでおぎちゃんが一度頷いた。

「だけどね。猛獣はやつだけじゃない。やつばかり見てると、
足元をすくわれます」

「え? ええーっ!?」

何それって顔してる。全然見えてなかったって……ことか。
これだもんなあ。はあ……。がっくし。

「だから僕がぶち切れたんですよ。沢渡校長のやり方のあま
りのあくどさに。そして、先生方がそれになーんも気付いて
ないってことに。その鈍感さに」

「……」

絶句してる。

「いいですか? 荻尾先生。猛獣の筆頭は僕です。立水じゃ
ない。それをしっかり頭に叩っこんどいてください!」

「え?」

まるっきり予想外だったんだろう。
口をぱくぱく。池の鯉みたいだ。

「だから甘いって言ってるんです!」

「だ、だって……どして?」

「あのね。この学校で、校長辞めさせて停学食らった生徒は
一人しかいませんよ? それは誰ですか?」

がたっ!

弾かれたように椅子から立ち上がったおぎちゃんが、その後
ぺたんと腰を抜かした。

「先生は立水ばかり見てる。でも、最初に先生がしでかした
へまを指摘したのは立水じゃない。僕ですよ? 忘れたんで
すか?」

「……」

「学校側の生徒指導の方針。それに思いっくそ不信感を覚え
てて、そんなのおかしいじゃないかってがんがん噛み付いた
のは、立水じゃない!」

「あ……」

「それは、僕です。僕は荻尾先生をサポートするために、あ
あいう風に言ったんじゃない! どたまに来てたんですよ!
怒鳴らなかっただけで、気持ち的には立水と同じなんです。
ふざけるな!……なんですよ」

「……」

「僕は納得行かないことを押し付けられて、黙ってなんかい
ませんよ? 僕は鳩じゃない。熊なんです。それを、頭ン中
にがっつり叩っ込んどいてください!」

予想外の僕のどやしに、おぎちゃんが固まった。

「そして、とんがってるのは僕だけじゃない。めっちゃ粘着
質で根に持つ関口。自己中で超気分屋の黒木。悪名高いスケ
コマシの元原。新聞部の主筆で、真正面から学校を批判して
る佐倉。そして、生徒会の重鎮で生徒会長の右腕になってる
永見」

「それ以外にも、片山とか中堅クラスのうるさ型がごろごろ
います。沢渡校長は、そういうくせ者ばっかをセレクトして、
同士討ちさせるためにまとめて3Eとじんのいる3Gに押し
込んだんです」

「……」

「先生が他に目が行かないのは、立水一人が目立ってるから。
それだけです。騒動の種なんか、うんざりするくらい転がっ
てます」

おぎちゃんに指を突き付ける。

「3Eがそういうとんでもないクラスなんだってことを、もっ
と深刻に考えてください。僕らを制御し損ねて何か起こって
しまったら、責任を問われるのは先生なんですよ? 分かっ
てます?」

「……」

分かってなさそうだね。
呆然としてる。

「沢渡校長は、だから荻尾先生と中沢先生を担任に付けたん
ですよ。くそったれが!」

「そ、そんな……」

事態のヤバさをやっとこさ飲み込んだんだろう。

「3Eと3Gにとんがり君を全部集めて、そこに経験の浅い
若い女の先生を当てた。荻尾先生もまんまと沢渡校長の生け
贄になったんです」

「……生け贄」

真っ青になってる。

「ベテランの斉藤先生とかを担任にしたら、僕らは結局上手
に丸め込まれますから。沢渡校長は、先生じゃなくて僕らを
潰すために、あり得ない嘘をついてまであのクラス編成にし
たんですよ!」

「……」

「荻尾先生はその恐ろしさを何も分かってない。まあだ自分
のことだけに目が行ってる」

「う……」

「先生がどんなにドジこいたところでクビになんかなりませ
んよ。でも僕らが騒動起こしたら、僕らは最悪退学になるん
です!」

「あ!」

やっと分かったのか。
鈍過ぎ。

「中沢先生もぜーんぜん分かってなかったんで、徹底的にど
やしました。論外!」

しゅんとして俯いちゃうおぎちゃん。

 



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三年生編 第20話(4) [小説]

今までの活動の形をそのまま受け渡せるのなら、人数は多け
れば多いほど作業が楽になるし、凝ったデザインにも取り組
める。今年はコンテストへの応募があるから、なおさらだ。

でも、一度解体して作り直す作業と、巨大化した部をまとめ
る作業が同時並行っていうのは辛い。
しかも、これだけの大人数になると間違いなく学校の監視の
視線がきつくなる。ヘマが出来なくなるんだ。

部が盛り上がるチャンスと、崩壊するリスク。
それがいつも隣り合わせじゃなあ……。

「それでもさー。部員不足の心配しないくていいだけましだ
よー」

「まあね。そういやマカんとこは?」

「将棋部?」

「そう」

「ゼロ」

どて……。

「高人も大変だあ……。幽霊じゃ団体戦にエントリーできな
いから、人狩りするって言ってたー」

なるほどなあ。
多くても少なくても、苦労はあるってことだね。

「ねえねえ、くどーくんの筋でさあ、今年潰れそうな部って
知ってる?」

「予算獲り絡み?」

「もちろん! ぐへへ」

「ったく。そんなに知ってるわけじゃないよ。例年のように
文系のクラブで危険水準のところがいくつか」

「どこ?」

「僕らが乗っ取った工作部は、実質今年で消える」

「うん。一人部だったもんね」

「そう。手芸部も、三人目探して血眼になってる」

今まで協賛でプロジェクトを手伝ってくれてたから、なんと
かしてあげたいけどなあ……。

「あとは?」

「僕から聞き出すより、部長会の資料見た方が早いよ」

「え? どして?」

「去年生徒会で、活動実績のない部は部費配布をゼロ査定す
るって決定しただろ?」

「あ! それ見りゃ分かるってことか……」

「あのやり方はいただけないけどね」

「えげつないよなー」

さて。

「ちょい、職員室行って来る」

「え? 用事?」

「そう。部のことじゃなくてね。別件」

「ここで待機でいい?」

「うん。そんなに時間かからないと思う」

「分かったー。待ってるー」


           −=*=−


「おぎおせんせー」

職員室に入って、おぎちゃんの席を見る。
おぎちゃんは……まだどつぼっていた。

前みたいに泣いてないだけマシか。

「あれ? 工藤くん、何か用?」

「進路指導室、いいすか?」

「……」

僕は瞬ちゃんに声を掛けた。

「斉藤先生。進路指導室をお借りしてもいいすか?」

「なんだ、説教されに行くのか」

「そんなとこっす」

「ほれ」

ちゃりん。
鍵が放られた。

「がっちりねじ込まれてこい」

「ははは……」

ほんとは逆なんだけどね。


           −=*=−


進路指導室の鍵を開けて、先に入る。
灯りを点けて……と。

それから持ってた鍵をおぎちゃんに渡した。

「……え?」

「鍵を先生が持ってないと、後で変な誤解をされるので」

なぜかぼっと赤くなる先生。

いつも瞬ちゃんが座っていた丸椅子に、おぎちゃんがちょこ
んと座ってるのはなんとなく不思議な光景だった。
でも、そんなことを考えてる場合じゃない。
切り出そう。

「で、ですね」

「はい」

「このままじゃ……まずいっす」

「!!!」

勉強のことだと思っていたおぎちゃんは、ぴきんと顔をこわ
ばらせた。

 


三年生編 第20話(3) [小説]

さすがの出しゃばり黒木も、触れば爆裂しそうな立水の前で
ふざけたプランを示すことは出来なかった。

ラストのリレーは、エース級の俊足ランナーがいないうちは
優勝は狙えない。
中位がいいとこ。

テニスとバレーはそこそこいけるだろう。
ソフトはめんつが揃わない。
フィールド系は好きにして。

まあ、だいたいそんなところだろう。
盛り上がりもないけど、破綻もない。
次のロングホームルームで選手決めをすることにして、あら
かじめ希望を第三希望まで書いて委員長に提出し、前もって
調整しておくことになった。

僕はソフト、バレー、フィールドって感じかな。
テニスはもういいや。

時間が読めないって立水が言ってた割には、こっちは順調に
短時間で終わった。

最後。
最初と同じ石像に戻ったおぎちゃんが、力なく授業の終わり
を告げてふらふらと教室を出て行った。

どやどやどや……。
みんなも、あーやれやれって感じで教室を後にする。

「あったく、懲りねーなー」

僕がぼやいたら、ゆいちゃんがちょろちょろっと寄って来た。

「なーにがー?」

「おぎちゃんさ。言った端から矛盾することしてどうすんの
よ」

「まあねー。でも、おぎちゃんだしぃ」

ゆいちゃん、そんなもんでしょっていう乾いた反応。

しゃらは、立水と次のロングホームルームの進行を打ち合わ
せて、それから僕のところにぱたぱた走ってきた。

「いっき。部長会のサポは?」

「一応待機するけど、鈴ちゃんたちに任せるよ。大きな破綻
はないでしょ」

話している僕らの横を、仏頂面の立水がのしのしと無言で歩
き過ぎた。
そうか。あいつは剣道部の部長だから、そっちもあるんだな。

「ゆいちゃんは、部長なのに部長会に出ないの?」

「二年の副部長に任せてる。経験積まさないとならないし」

「だよなー。新聞部は部員さん増えた?」

「五人」

そんなもんか……。

「毎年、二、三人だったから、今年は多い」

「え? そうなの?」

「去年の特集が効いたみたい」

「力作だったからなあ」

「でも、善し悪しだわ」

「どしてー?」

しゃらが首を傾げた。

「路線がね……」

「ふうん?」

「去年のアレはたまたまだよ。今年はこれまでの路線に戻る
と思う。大ネタがあれば別だけどね」

「じゃあ、ゴシップ?」

ゆいちゃんが、ぎゅうっと顔をしかめた。

「そこさー……」

なるほど。
自分のイタい秘密を暴かれたくないゆいちゃんは、人の秘密
を暴いてネタにするゴシップにはもう突っ込めない。
矛盾を……抱えちゃったんだ。

「まあ、編集会議で詰める。うちの部じゃありえない部員二
桁に乗ったからね」

ゆいちゃんは、ひょいと話題をそらした。

「くどーくんとこは、何人来たの?」

「ありがたいというかー、ありがたくないというかー」

苦笑したしゃらが、僕の続きを言ってくれた。

「昨日までで、もう二十人超えちゃったの」

「ぎょええええっ!?」

ぎょっとしてのけぞるゆいちゃん。

「す、すご……」

「いや、それも善し悪しだよ。新聞部と同じだー」

「どして?」

「まとめ役がほんとにしんどいんだ」

「そうなのー」

しゃらは、心配そう。

 



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三年生編 第20話(2) [小説]

「わたしは……とんでもないミスを犯しました。春期講習の
案内は、先週のロングホームルームでアナウンスしないとな
らなかったの。ごめんなさい……」

もちろん。
それがおぎちゃんのミスじゃなくて、立水の圧力から逃げた
からだって言うのはみんな知ってる。
でも先生の立場では、立水が怖いから逃げたとは口が裂けて
も言えないだろう。

「もう……申し込み期限を過ぎてしまいました。これから説
明しても意味がないかもしれないけど。申し込みを済ませて
るみんなには、講習の意味と学校がする補習との違いを説明
しておきます」

何を今さら。完全にタイミングを外してるよ。
でも、そのまま何もしないよりはずっとましだ。
僕らへのアナウンスっていうより、自分自身へのけじめのつ
もりなんだろう。

おぎちゃんは、手元の紙に時々目を落としながら。
それでも話す時は真っ直ぐ僕らの方を向いて。
少し震えが混じった声で、講習の説明をした。

講習は三年に入ってからの内容ではなく、一、二年の履修範
囲全体が対象になること。
おさらいではなく、弱点の把握と要点の抽出が中心。

講習は学校の授業のような五十分単位ではなく、九十分単位。
密度が授業よりずっと濃いから、集中力が必要。
講習の時に配られる自己診断テストは、必ず解答するように。

まあ、ここまでは予想の範囲内だった。
でも、最後にものすごく重要なアナウンスがあった。

「学校では、今後いかなる種類の補習も実施しません」

えっ!?

俺たちそんなの受講しないしぃって、だらっとしてた子たち
が、慌てて体を起こした。

「昨年、沢渡校長が策定された新しい試験制度は、今後ずっ
と維持されます。基準点に満たなかった場合は、二度の追試
のどちらかを必ずクリアすること。それは今後も変わりませ
ん」

うん。

「そして、昨年は追試クリアに向けて生徒の方から補習を行っ
て欲しいという申し出があり、教師側でそれに対応しました」

うんうん。

「ですが補習を行ったことで、沢渡校長の経過措置を勘違い
した学生がいっぱい出てしまいました」

どういうこと?

「試験をクリアするために補習を受ける。それがいつの間に
か、補習を受ければ追試を甘くしてもらえるらしいという、
間違った解釈をされてしまいました」

誰だあ? そんなこと言ったの?
あふぉか!

「昨年、追試がクリア出来なくて処分が出された生徒はゼロ
でした。それは沢渡校長が経過措置としてそうしただけです。
だから新年度最初の校長挨拶で、救済はもうしないと明言し
ていたはずです」

うん。

「その方針は安楽校長も堅持します。安楽校長は、みんなに
そう宣言したはずです。今後、救済っていう考え方は一切な
いと思ってください。定期試験のハードルをクリアできなけ
れば、処分と学生としての権利の制限を厳格に行います」

「それが単なる口先だけの脅かしにならないように、教師側
では救済措置と受け取られる恐れがあるアクションは今後一
切行いません。補習はその最たるものです」

むー……。

「教師個人のレベルで、分からないことへの対応はいつでも
します。それにはこれまで以上に時間をかけます。ですが、
みんなの努力なしに、分からないから教えてくださいは、な
しです」

溜まっていたものを一気に吐き出すみたいに。
おぎちゃんは、そこまで勢いよく話し切った。

それから乱れた息が整うのを待って、僕の方を向いた。

「先週。工藤くんが職員室に来て、わたしたちにものすごく
大きな爆弾を落として行きました。わたしだけでなく、職員
全員が工藤くんの警告を深刻に受け止めました」

「だらけた生徒は、だらけた教師から生まれる。その通りで
す……」

おぎちゃんは、教卓の上でぎゅうっと両拳を握った。
白かった顔がみるみる紅潮した。

「わたしたちが口先でこれから厳しくするんだってどんなに
言ったって、言ってるわたしたちがこれまで通りのゆるゆる
じゃ話になりませんでした。ごめんなさい」

すぱっと。
おぎちゃんは、勢い良く頭を下げて僕らに謝った。

「安楽校長は、厳しい人です。教師が生徒に背中を見せるよ
うじゃ教師の資格なんかない。とっとと辞めろ。わたしたち
は、そう言われてます」

「きついけど……その通りですね」

おぎちゃんは、視線を僕から立水に移した。
立水は黙っておぎちゃんを睨み返している。

「わたしに覚悟が足りなかったのは事実です。それで、みん
なに迷惑をかけました。でも……」

おぎちゃんは、嗚咽の混じった震え声で決意を絞り出した。

「わたしは……教師っていう仕事が好きなんです。投げ出し
たく……ないんです。だから。チャンスをください。歯をく
いしばって……やりますから」

僕の後ろで、立水のきつい声が響いた。

「わあた! だが、今はロングホームルームであって、立会
演説会じゃねえ。決意表明は他の時間にしてくれ!」

ぐわ。
き、きっつぅ……。

どんと勢いよく立ち上がった立水は、その場でがつんと言い
放った。

「先生。工藤にど突かれたことが正論だと思うんなら、すぐ
に実行してくれ! いいか? 俺たちには時間がねえんだよ!
それでなくてもくだらねえことで振り回されて、いらいらし
てんだよ!」

「う……」

ぐっと詰まるおぎちゃん。

「だから俺は最初に言っただろ? 時間が読めねえから先生
の説明を先にするって! 俺の言うことを何も聞いてねえじゃ
ねえかっ!」

あーあ。
立水が噴火しちまった。
でも残念ながら、立水の言う通りなんだよね。

「せんせー」

挙手。

「は、はい」

「来週の講習の説明はそれで全部ですか?」

「……はい」

「じゃあ、委員長と交代してくださいー」

ったく。
僕が交通整理しないとならないってのは、どうよ?

意気消沈したおぎちゃんが隅っこの椅子にぽつんと収まると、
どすどすと前に出た立水が吼えた。

「黒木! 案、出してくれ!」

「おう」

 


三年生編 第20話(1) [小説]

4月30日(木曜日)

さすがに、たった一日ではぐだぐだ全部は解消しなかった。
でも、今日はそれなりにイベントがあるから気持ちを切り替
えよう。

イベント。
まずはロングホームルームだ。

先週は嵐になったけど、今日は委員長も決まってるし、やる
ことも決まってる。
今回は素案を出すだけで、実際に競技別のめんつを固めるの
は次以降になるだろうから、そんなに揉める要素はない。

だけど、波風一切なしというわけにも行かないだろう。

何せ、先週自爆したおぎちゃんがまだゾンビのままだ。
気心が知れてるしゃらとは職員室で普通に会話してるけど、
教室に来ると石像になってしまう。

立水は、それが気に障ってしょうがない。
もう校長から一枚イエローを出されてるから、正面からがり
がり噛み付くことは出来ないけど、絶対このままじゃ済まさ
んぞっていうオーラをばりばり出してる。

おぎちゃんにとっては、針のむしろだろなあ……。

でもここできちんとクラスを制御出来ないと、担任の意味が
なくなるよね。
根性が据えられるかどうか、正念場だろう。

それはおぎちゃんだけじゃない。
じんのクラスの担任である中沢先生もそうなんだよね。

プロジェクトの顧問である中沢先生がしでかした、信じられ
ないヘマ。
プロジェクトメンバーには、中沢先生のクラスの子もいるん
だ。先生に厳しい視線が向けられるのはしょうがない。

もちろん、僕が先生を吊し上げたことはじんの耳にも入って
いるだろう。
中沢先生のクラス運営にも、おぎちゃんと同じで根性が要る
と思う。

でも、本当の山場は受験だ。それは、ずっと後に来るんだ。
言っちゃなんだけど、今回のどたばたは僕らにも先生にも何
の意味もない。
だから、騒動の余波をいつまでも引きずるのはばからしい。

最初に立水が吼えた通りさ。

『受験勉強に専念したいから、俺に厄介事を持ち込むな!』


           −=*=−


ロングホームルーム。
最初やる気のない坂上がだらだらやってたのと違って、超硬
派の立水の仕切りは一切の無駄がないだろう。
緊迫感が教室に漂う中、のそっと前に出た立水が議題を切り
出した。

「今日は、二つ議題がある。一つ目は体育祭のプランニング
だ。運動部系の部活やってる連中で素案を作ってくれと言っ
てあったはずだ。提案してくれ」

し……ん。

「二つ目は連絡だ。今後のスケジュールについて、荻尾先生
から説明がある」

じろっ。
立水がみんなを見回す。

「一つ目の方が、時間が読めねえ。最初に連絡から片付けよ
う。先生!」

「は、はいっ!」

まるで立水に尻をどやされたみたいに、ぱっと立ち上がった
おぎちゃんが、慌てて教壇に上がった。
むすっとした表情の立水が席に戻る。

「ごめん……なさい」

おぎちゃんは……蚊の鳴くような声で、みんなにそう謝った。

立水の額に青筋が浮いたのを見て、やつが吼える前に釘を刺
した。

「荻尾先生」

「はい」

「聞こえません」

「……」

「せっかく取り戻したプライドを、どぶに捨てるんですか?」

はあっ……。

「なんのために命がけで舞ったんですか」

僕はそれだけ言って着席した。
その意味は、おぎちゃんにしか分からない。
みんなはきょとんとしてる。

おぎちゃんは、唇を噛んでじっと俯いた。

あの中庭封鎖の時。
半狂乱で糸を吐き出し続けたおぎちゃんは、トランス状態だっ
たから何も覚えていない。
でも自分が死力を尽くしたことで、あの儀式に立ち会った全
員が助かったことは聞かされている。

大怪我をした片桐先輩と先輩のお父さん。
先輩のお母さんも僕らもぼろぼろだった。
それを見て、自分がどのような場に居合わせたのかは分かっ
ただろう。

糸の呪縛を解かれて、押さえ込まれていた自我を出す。
おぎちゃんは儀式のあと自我の解放に正面から取り組んで来
て、それが成果を上げていた。
妙に醒めてる中沢先生より、もっとストレートに前向きだっ
たって言ってもいい。

当然、それは生徒や他の先生からの好評価に繋がる。
おぎちゃんは、地味過ぎっていう蔑視だけでなく、やる気が
見えないっていう悪評にも怯えなくて済むようになった。

でも、ここでしくじるとこれまでの努力が全部無駄になる。

それだけじゃ済まないよ。
だって、僕らはおぎちゃんの友達じゃない。
おぎちゃんは、僕らを制御しないとならない先生だ。
本当なら、立水の態度が悪いって叱らないとならない立場な
んだよ。

立水の圧力で簡単にへこんだら、僕らは先生をなめてかかる。
僕らの制御なんか出来なくなる。
担任が、ほんとにそれでいいの?

じっと俯いていたおぎちゃんが、ゆっくりと顔を上げた。
顔面蒼白だ。

でも……。

「ごめんなさい!」

さっきと違って、今度はしっかり声が出た。

 



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てぃくる 205 曲がる [てぃくる]


真っ直ぐだけが いいわけじゃないよ

曲がれなかったら どこかにぶつかって

そこで 止まっちゃうもん

自由に 曲がれること

自在に 曲がっていること

それはとても 大切なこと



nos.jpg
(斑入りヤブラン)


もし 君が

素直で従順なことを 真っ直ぐだと思ってるなら

誰に対してもそうしているかを 考えてごらん

君が嫌だなあと思いながら 従っているのなら

君はもう曲がってるのさ ぐにゃぐにゃにね






ええ。そうなんですよ。
カーブ(Curve)とベンド(Bend)は、違うんです。

野球のカーブ。曲がりますよね。
でも、あれは曲がるんじゃなく、『曲げる』。
意図して曲げる。曲げることで打開し、切り抜ける。

ベンドは、外からの力を受けて曲がる、意思に反して曲げら
れるというイメージが強いですね。
曲げられても、元に戻りたくてしょうがない。

でも、わたしたちはカーブとベンドを区別しません。
どっちも曲がる、曲がっていると見なしてしまいます。

曲げている自分。曲がっている自分。
それを深く考えるってことがありません。

真っ直ぐな自分なんて、本当はどこにもないのにね。






  椀氷曲がらぬはずの光曲げ








Strong Enough To Bend  by Tanya Tucker

 


三年生編 第19話(6) [小説]

「んだな。こっからだ。あっきーは講習受けるの?」

「受けない」

「えっ!?」

それは……思い切り意外だった。

「どして?」

「日体大も国際武道大もAO入試の枠があるの。実技と面接。
そこで学びたいっていう意欲を見せて、採用してもらうって
感じ」

「へー!」

「それは、わたしに向いてる。勝ち負けじゃなくて、わたし
のやる気を見せる。そうしないと合格させてもらえないって
ことだから」

「すげえ!」

「体じゃなくて、心を鍛える。そのために何を見せることが
出来るか。面接までに、それをテーマにして自分なりの答え
を探すつもり」

「うん。会長が、安心したって言ったのがよーく分かる」

「そう?」

「迷いが消えた」

「あはは……かっこいいこと言ったけど、まだ迷ってるし、
弱いままだよ」

「……」

「でも、ぼやっとしてても強くなんないもん」

「だな」


           −=*=−


ヘーベ。

こんもりと白い小花を付ける灌木。
清涼感があっていいなあと思うけど、暑さにも寒さにも弱い。

去年の夏にトレマで買って来たのを見事に枯らした母さんが、
性懲りもなく会長から挿し木苗を分けてもらったらしい。

でも、きっとまた枯らすだろう。

ヘーベは勇者ヘラクレスの奥さんで、青春の女神さまだそう
な。
強いヘラクレスを支えるには、少し線が細いような気もする
けど、いつでも強くなくてはならない勇者には、きっと穏や
かな安らぎの時が必要なんだろう。

強さだけでは世界を作れないこと。
繊細で優しいヘーベは、強いヘラクレスにそれを教えたのか
もしれないね。

やる気も、ヘーベみたいなものかもしれない。
やる気がいつも全身から放出されていて、誰にでも見えるっ
ていう必要はないんだ。
だって、実際にそうするのは大変だもん。

それよりも、やる気が増えたり減ったりしてもいつも自分に
寄り添ってくれること、自分を前に進めてくれることの方が
大事なんじゃないかな。
受験ていう長丁場を乗り切るなら、その方がきっといい結果
を生むと思う。

僕もしゃらも、やる気がないわけじゃない。
いや、やる気は人よりいっぱいあると思う。
でも、今はそれが騒動と模試の惨敗のせいですり減っちゃっ
てる。
そう言う時に、無理にやる気を絞り出そうとしなくてもいい
よね。

一日か二日したら、僕らはまた歩き出すんだから。

あっきーのやる気だって、静かなやる気だ。
それは、いつも一緒にいる会長だから気付いたこと。
クラスメートやプロジェクトメンバーには、分からないかも
しれない。僕だって気付かなかったし。

でも、それが穏やかでも激しくても。
あっきーは、やる気を絶対に無駄にしないだろう。

僕は。
リドルのぐだぐだなウエイトレスの人を思い出した。

誰の目にもやる気がないことが分かるおねーさん。
でも、きっとあの人にもどこかにやる気スイッチがあるはず
なんだ。それがなけりゃ今頃生きてないんだから。
寝太郎だってそうさ。

それが、ほんのわずかでも。すっごい見えにくくても。
どこかで自分のやる気を人に見せるチャンスがあれば、きっ
と周りの視線が変わる。自分をプラス評価してもらえる。

だけど、そのチャンスは自分で作らないとならない。
外から与えられるのを待ってるだけじゃ……。

やる気は見えないよね。





hebe.jpg
今日の花:ヘーベ ”グリーンフラッシュ”(Hebe diosmifolia cv.'Green Flash')