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三年生編 第11話(12) [小説]

「そこまで突き放して見られるものなんですか?」

「もちろん、本当に敵対行動を取られたらプロジェクトがが
たがたになる。でも、あいつは僕に、プロジェクトを観察す
ると言ったんだ」

「へー」

しのやんが身を乗り出して来た。

「なんでまた。あの許容度の低そうなマニアックな奴が?」

「簡単なことさ。あいつは、須山先輩を見返したいんだよ」

「あああっ! そうかっ!」

ぱんぱんぱん!
しのやんが、興奮して机を何度も叩いた。

「いや、正直、須山先輩のやり方は強引でいかがなものかと
思うよ。僕らが須山先輩にそう言わなかったのは、僕らが工
作部の部員じゃなかったからさ。人ごとだったんだ」

この時点で、全員関口の意味に気が付いた。

「そうかー! プロジェクトの中に居れば、今度は黙ってる
必要がないってことか」

四方くんが、感心してる。

「そう。あいつは須山先輩に逆らえずに煮え湯を飲まされた。
そう思ってるはず。でも、今度は先輩はいない。自分は最上
級生なんだ。しかも部を貸してやってるっていう優越感もあ
る。必ず口を挟んで来るよ」

「……」

「僕はそう仕向けるつもりだし」

「ひええ……」

部としての資産を使う。
それが、僕らに直接役に立つものでなくたって別に構わない
んだ。

異分子を加えること。
それは、自家受粉しにくいオリーブやブルーベリーによく似
ている。

自分たちとは違うカラー、個性、価値観を持つものを一緒に
植える。
そこから刺激や批判を受けて、自分たちの姿を見直していか
ないと、実が生らない。

おいしい実は……手に入らないんだ。

「細かい、しつこい、うるさい、粘着質の関口には、そうい
う性格じゃないと見えない貴重なポイントがあるはずさ。そ
れは、部の中にいる僕らには見えにくいんだ。今回、中庭使
用権のことで致命的な見落としをしたみたいに、ね」

しのやんが、しばらく考え込んだ後でこそっと言った。

「かっちんじゃ……だめなん?」

「あいつは優しすぎる。僕にはきついことを言えても、他の
メンバーの前では遠慮して、筋論を押し切れない」

「あ、そういうことか……」

「関口は、プロジェクトの内容には一切興味がないって言っ
た。役や当番を受けるってこともないだろ。でも、口は出す。
必ずね。うるさい幽霊だ」

「……」

「でも、うるさい幽霊が嫌だって遠ざけるんじゃなくて、物
を言う幽霊って珍しいじゃん。使わなきゃ。そういうタフさ
が要るんだ。鈴ちゃん。それを意識して」

「は……い」

えらいことになったと思ってるんだろうなあ……。

「まあ。関口のことはあんまり警戒し過ぎなくてもいいよ。
あいつはむっつりすけべだ」

どてっ。
みんなが一斉にこけた。

「プロジェクトに女の子が多いってのを知って、鼻の下を伸
ばしてたからね。でも、それはそれ、これはこれだ」

ぱん!
思い切り手を叩いて、雰囲気を締め直す。

「で」

「はい!」

「明日のプレゼン。今の話を元に、鈴ちゃん、菅生くん、四
方くんの三人を中心に二年生で話し合って、大至急中身を練
り直して」

「先輩は……手伝ってくれないんですか?」

鈴ちゃんが不安そうに顔を伏せた。

「手伝わない。だから、今僕がべらべら一方的にしゃべった
んだよ。僕はもう部長じゃない。一部員さ。ただ、鈴ちゃん
たちよりは経験と情報を持ってる。それだけ」

「だから、僕の話や意見を鵜呑みにしないで、もっともだと
思うところを使って、それはないでしょってところは捨てて」

「んで、プレゼンの時までに、鈴ちゃんたちがしっかり旗を
振れるように調節してね」

とん。
机を指でタップする。

「僕も、もう関口と同じ立場になったんだ。そういうことさ」


           −=*=−


本当は、鈴ちゃんたちに最後まで道筋を付けてあげたかった。
でも、僕が沢渡校長の圧力を押し返したのも、本当は越権行
為だったんだ。

沢渡校長が鈴ちゃんにプロジェクトの死刑判決を言い渡して
からじゃ間に合わないっていう焦りがあったから、部として
の合意をまとめる前に僕の判断で動いた。
でも、それがさっきの鈴ちゃんの反応みたいに、まだ僕らに
頼れるっていう甘えに繋がってる。

僕らには、部の舵取りをする上級生はいなかった。
片桐、恩納、酒田の三人の先輩たちは実務に専念して、舵取
りには一切口を出さなかったから。
でも、鈴ちゃんたちには僕らがいる。

自分たちで、本当に好きなようにやっていいんだろうかって、
なんとなくまだ腰が引けてる。
それを今、きちんと解消しておかないとならない。

そうじゃないと、バトンが繋がっていかない。

真っ暗になった通学路を、しゃらと並んで無言で歩いた。
しゃらは、硬い表情のままの僕を不安げに時々見上げた。

「ねえ、いっき」

「ん?」

「心配?」

「そりゃあね。でも、プロジェクトは僕のものじゃない。こ
れから活動の中心になる二年生と新入部員で工夫して、僕ら
が失敗したり未達成で終わったところを解決して、もっと前
に進んで欲しいんだ」

「うん」

「そのためには支えるだけじゃなくて、突き放すことも必要
だと思う」

「そっか……」

「まあ、明日。オリエンテーションで、鈴ちゃんがどういう
風に活動をピーアールするか。お手並み拝見と行こう」

「あはは」

目の前に広がる漆黒の闇。
それがよく熟したブルーベリーの実に見えるようになるまで
には……まだまだかかるんだろうなあ。

「ふう」



blueb.jpg
今日の花:ブルーベリーVaccinium spp.)

 


三年生編 第11話(11) [小説]

今度は四方くんに声を掛けた。

「ねえ、四方くん。組織を組み直した時に、一つだけ足りな
い重要パーツがあったんだ。何か分かる?」

返事をせず、腕組みしたままじっと自分の書いたメモを凝視
していた四方くんが、声を絞り出した。

「いいえ……分かんないです。なんだろう?」

「しのやんは?」

諦めたように、しのやんが一発で正解を出した。

「ああ、確かにものっすごく重要なパーツが最初から今まで、
ずーっと欠けてたね。大失敗だ」

「うん」

「監査だろ?」

「そう!」

「そっか……」

しゃらが、自分の前に開いてあったノートに素早くシャーペ
ンを走らせた。

「そっか。確かにそうだね。反省会はこれまでもやってたけ
ど……それと監査は違うもんね」

「そうなの。反省会じゃあ身内での傷のなめ合いになるだけ。
厳しい突っ込みなんか最初から期待出来ないよ」

ふう……。

「フェアウエルパーティーの時に、中沢先生が強い口調で僕
らに警告したこと。その真意は、そこにあったんだ。おまえ
ら、全部お手盛りになってるぞってね」

「うん……」

「でも、その中沢先生だって、立場は顧問だもん。僕らの活
動を全否定するような突っ込みなんか入れられるわけないじゃ
ん。先生には監査は出来ないんだ」

鈴ちゃんが、僕の顔を凝視する。

「そういうのって、他の部もやってるんですか?」

「まーさーかー」

思わず苦笑いする。

「部活は、普通自分たちの楽しみのためにするんだよ。お金
の使い道以外に監査の必要がそもそもないもん」

「あ、そうかー」

「活動内容に監査が必要なんてのは、僕らだけさ」

「委員会は、どうなんですか?」

四方くんに確かめられる。

「委員会活動は、基本的に学校が主導するの。委員会の中で
何をどう決めたところで、最後は学校側の意向が通る。委員
の権限は最初から制限されてるんだよ」

「あ、確かに」

「公益性をうたった僕らのプロジェクトは、委員会活動じゃ
ないから学校が直接コントロール出来ない。でも、普通の部
活の枠にも収まりきらない。だからこそ、安楽校長も沢渡校
長も僕らを極度に警戒してきたんだ」

「はい」

「僕らはそれがうっとうしかったけど、もし僕らが校長の立
場ならやっぱり警戒するよ」

「誰もチェックできないから……ですね」

「そう。だからこそ暫定的に、顧問だから口を挟むぞって中
沢先生が釘を刺したんだ。でも、それはさっき言ったように
あくまでも暫定さ。先生自身が、プロジェクトに組み込まれ
ちゃってるからね」

「そっか……」

「会社じゃないんだから、監査役を置こうなんてことにはな
らないけど、そういう視点は少なくとも要るし、適任者がい
るならそれを利用しない手はない」

「ってことは……その関口って人に監査してもらうってこと
ですか?」

「そう。別に関口に役を頼むつもりはないよ。でも、自然に
そうなると思う」

「なぜですか?」

今いちよく分からないって風に、鈴ちゃんが首を傾げた。

「さっきも言ったけど、あいつはプロジェクトのことをよく
思っていない。最初から僕らを見る目が尖ってる」

「……」

「でも、それなら僕らの一番対極にある意見や感想をただで
手に入れることが出来る」

「すげー……」

四方くんが呆れた。

 



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三年生編 第11話(10) [小説]

じっとノートを見つめていた四方くんが、ふっと顔を上げた。
表情はずっと変わらない。厳しい……表情だ。

「工藤先輩、その関口先輩っていう人は……くせ者なんです
よね?」

「間違いなくくせ者だよ。須山先輩と親しげに絡んだ僕らに
敵意を持ってるって言ってもいい」

「大丈夫……なんですか?」

「さあね。それはやってみないと分からない。でもさ」

「はい」

「僕らは、仲良し過ぎたんだよ。三月のフェアウエルパー
ティーの時に、中沢先生にがっつりどやされた通りさ」

「あ!」

「確かに、中庭で何かやるぞっていうモチベーションは今ま
でずっと変わってないし、だからこそみんなが建設的にプロ
ジェクトを考えてきたよね?」

「はい!」

「でも、僕ならわたしならこうするのにっていう対案や反論
が出にくくなってる。誰かの考えに反対する、それを批判す
るていうアクションがメンバー間でスムーズに出来なくなっ
てる」

「自分ではなんか違うなーと思っていたアイデアや推進の方
針。それに心底納得出来てなくても、みんながいいと思って
るならそれでいい。そういう流れになって来てる。違う?」

みんなが黙り込んじゃった。

「だから中沢先生が吼えたんだよ。それは違うだろって。で
こぼこを押さえ込むな。あるのが当たり前なんだから、ちゃ
んと吐き出してから調整しろ。そういうことだよね?」

「はい」

「僕があえて、くせ者の関口を取り込んだ理由。それは、僕
らの中に異分子を置くため。そして、それは絶対に必要なん
だよ」

おどおどと、鈴ちゃんが確かめた。

「どうして……ですか?」

「今日の生徒会役員選挙。三割の無効票が出たでしょ?」

「え?」

いきなり話が飛んだから、鈴ちゃんがびっくりしてぽとんと
シャーペンを落とした。

「え、えと?」

「じんが、去年から僕らのためにどれだけ身を粉にして走り
回ってきたか、二、三年生はみんな知ってる。知ってるのに、
それでもなおかつ三割の批判票が出たんだ。それが紛れもな
い現実なんだよ」

「……」

「プロジェクトは結束が固い。それは、大いに誇っていいこ
とだと思う。でもね」

鈴ちゃんの手帳をぽんと指で弾く。

「おまえらの活動は偽善だ。ばからしい。それに何の意味が
ある。もしそういう反論が来たら、鈴ちゃんは、それにどう
答える?」

「……」

鈴ちゃんだけじゃない。
みんながじっと黙り込んだ。

「普通の部活なら、そんなん知らんわ。僕ら好きでやってる
んだしぃって言える。でも、プロジェクトはそうじゃない」

「そうですよね……」

「僕らは、本来学校がすべきことを横取りしてる。横取り出
来るように、公益性を高らかにうたってる」

「はい」

「それを看板にはっきり掲げている以上、僕らのやり方に不
満がある、おもしろくない、意味を見いだせない、そういう
人たちにきちんと説明して理解を求めないと、活動がたこ壷
になる。部員だけで固まっちゃう。僕らの団結力が、かえっ
てあだになるんだ」

僕は、すかさずしゃらに声を掛けた。

「しゃら。イベント班の仕切りで、調整で駆けずり回ってた
だろ?」

「うん」

「当然、反応は好意的なものばっかじゃなかったよね?」

「確かにそう」

ふうっと溜息をついたしゃらが、ぼそっと答える。

「でも、そこをなんとかしないとじり貧だもん」

「うん。調整役を持ち回りにしたのは、そういう外の風を感
じてもらうという意図もあるの。ねえ、四方くん」

「はい!」

「でもね」

しゃらと四方くんを交互に見る。

「それでも……まだ足りない」

鈴ちゃんが突っ込んで来る。

「どこが……ですか?」

「僕らは、プロジェクトに批判的な部や個人を説得対象から
外してきた。唯一外せなかったのが沢渡校長だったんだ」

し……ん。

「美化委員会に集まった意見を活動に取り入れる。でも、生
徒全員が意見を出してくれるわけじゃない。関心がない子の
方が圧倒的に多い」

「う……」

「美化委員会の中ですら、僕らの活動がよその出来事になっ
てるんだ。それで、普通の生徒に僕らの活動の公益性を納得
してもらえる? おまえらが好きにやりたいだけなんだろっ
て思われちゃう」

言ってる僕自身が、自分の言葉の苦さに顔をしかめちゃう。
でも、今のうちに膿みは出しとかないとならない。

拳で、机をとんと叩く。
ここで一度リセットしよう。

「だけど、全員のニーズを汲むのは無理。全員の理解を得る
のも無理」

「はい……」

「そうしたら、少なくとも僕らが自分しか見ていないという
状況だけは解消しておかないと、僕らが自己矛盾で壊れちゃ
う。沢渡校長のことなんか言えないよ」

 


三年生編 第11話(9) [小説]

「でも、校長は全てのルールを白紙に戻して見直すって言っ
たんだ。それは決してネガティブなことじゃない。既得権を
取り上げられることばっか恐れてたんじゃ、実を取れない」

「だけど、安楽校長がうんと言うわけないじゃん」

「そうか?」

じんが、顔をしかめる。

「いっき。甘いぞー」

「そんなことはないさ」

「なんで?」

「中庭を使わせない理由を、校長が説明しないとならないか
らだよ」

「!!!」

「僕らが持ってた既得権をそのまま残してくれという場合、
その説明義務は生徒側にある。でも、現在の禁止事項の解除
を求める場合、その説明義務は僕らじゃなくて学校側にある
んだ」

「そうだ。確かにそうだ」

「職員室やトイレを部活の場所に使わせろっていうなら、そ
れは非常識さ。でも、中庭は違う!」

「……」

「学生に部活で中庭を使わせない合理的理由は、僕には思い
付かないよ。茶華道部の野点、軽音のミニコン。ごくごく普
通に部活で中庭を合法的に使いたいという要求は出るはず。
それを拒む理由はなに?」

「ないな」

「だろ? 今の規定で、部活での使用可能施設の一覧から外
されている中庭を使えるようにして欲しい。だめならその理
由の開示を。僕らのお願いはそれだけだ」

「わあた。理解した」

よし。
賽は投げられた。


           −=*=−


中沢先生に生物実習室の鍵を借りて、僕、しゃら、しのやん、
鈴ちゃん、菅生くん、四方くんの新旧執行部六人で、反省会
と明日のオリエンテーションに向けたスタンスの確認をする。

「明日がヤマかあ……」

しのやんがでかい溜息をつきながら、何度も首を振る。

「まあね。でも、僕は楽観視してる」

「いいの?」

「だめなら最初からやるだけさ。今までが順調過ぎたんだよ」

「うーん……」

二年生も、全員複雑な表情をしてる。
くす。

「ねえ、鈴ちゃん」

「はい」

「今年は、あくまでも暫定措置。来年はもう一度ばらして、
組み直してね。それが今年、鈴ちゃんたちが取り組まないと
ならないこと。これから来る新入部員に、がっちり叩き込ま
ないとならないことだよ」

ええーっ!?
しゃらも含めて、全員が立ち上がって僕を凝視した。

「ど、どうしてですかっ!?」

「部を続けるために、制度の裏や穴を利用する。そういうよ
くない前例を残して欲しくないから」

「あ……」

「分かる? 来年は、僕らがこのプロジェクトを立ち上げて
から三年になるの。ちゃんと三年ルールに則って、堂々と部
への昇格申請が出来る」

「校長が認めた特例でもなく、三年ルールの変則適用でもな
い。これまで、どの同好会も部活化の時に踏んで来た手続き
を僕らも堂々と使える。だから、きちんと使って欲しい」

「そういうことか……」

四方くんが、開いたノートをじっと見つめた。

「応急措置で工作部を借りた。そう、借りたんだよ。決して
乗っ取ったわけじゃない。手間がかかる中庭の世話を続ける
のに、最初の頃みたいなボランティアじゃもう保たない。部
にこだわる理由はそれだけだよ。工作部を一年間貸してよ。
後で返すから。そういうこと」

「うーん……」

しのやんが、まずいなあという表情を見せた。

「それでも、結局形の上では乗っ取りだよね……」

「そう。だから、オリエンテーションの時にしっかり説明す
る必要があるの」

鈴ちゃんが、しゃらとメモを見せ合って何かぶつぶつ話し合っ
てる。それから……。

「工藤先輩。具体的にどうやるんですか? このままだと、
来年わたしたちがプロジェクトを新規に立てた時に、プロジェ
クトが二つ出来ちゃいますけど……」

「工作部から変わった残骸。そして、新生プロジェクトって
ことでしょ?」

「はい!」

「残骸にしなければいい。うちの部は掛け持ちを認めてる。
後始末のために、三人旧プロジェクトに残ってもらって、来
年の部長会の時に、旧名のフィギュア部に戻すこと。活動内
容も、元の形に戻す事を提案する」

「その後も……いないとだめ、ですか?」

「いやあ。今だって、受験生の関口しかいないし、関口は工
作部なんかやるつもりはない。僕らがするのは、あくまでお
掃除だけ。部を貸してもらったから、きれいにお掃除して返
しますって言ってね」

「ふうん……」

「来年、晴れて三年ルールを満たして部を立てられれば、き
ちんと名前と受け皿が出来る。もし部員不足で潰れても、僕
みたいにやりたいって人が出てくれば、すぐに受け皿に出来
るでしょ? そういう筋を通したいの」

「フィギュア部もそうだってことですね」

「そう。だから中沢先生が生物部を受け皿にするのを拒否っ
たでしょ?」

「あ、そういうことかあ!」

鈴ちゃん、納得。

 



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三年生編 第11話(8) [小説]

これで二人。

沢渡校長が、僕と敵対させるために同じクラスに持って来た
スペシャルとんがりくんのうち、立水と関口を中立のところ
まで戻した。

立水も関口も、決して僕らの味方の側に立つことはないだろ
う。でも、それはそれ、これはこれだ。
直接ぶつけられる敵意がなければ、理不尽な批判や攻撃をい
つも警戒しなければならないっていうストレスをうんとこさ
減らせる。

あとは……黒木と元原だな。
まあ、ぼちぼち行こう。

鈴ちゃんに、工作部を受け皿として使うことを残党の関口に
了承してもらったと伝え、全員工作部に入部してもらって、
看板をプロジェクトに付け替えることにする。
須山先輩と繋がりがあった現部員たちは、それに大きな違和
感を持たないだろう。

ただ……僕は工作部からの鞍替えだとは言わなかったし、み
んなにそう思って欲しくもない。
ハートガーデンプロジェクトの名前をそのまま残したんじゃ
なく、工作部のスピリットも入った新生プロジェクトとして、
新規に立ち上げ直したんだという意識が欲しい。

それは明日だ。
今日は、急いで手続きを進めなければならない。

放課後、鈴木、菅生、四方の三人と僕とで生徒会室に出向く。

「うーす」

「ああ、いっき。来たか」

うんざり顔のじんが、山のような書類の中に埋もれて、その
底から声を出した。

僕は鈴ちゃんを促す。

「あの、会長。工作部に旧プロジェクトのメンバー全員が入
部しました。それから、工作部の名称をハートガーデンプロ
ジェクトに変更します」

「ほい。了解。あ、書類そこに置いといて」

「はい」

部の名称変更は届け出制で、生徒会の決裁が要るわけじゃな
いから、じんの返事はそれだけ。

「活動内容の変更は、部長会の時に説明お願いね」

「分かりました」

こちらも、説明だけで済む。特に説得とか決を取るとか、そ
ういうのはない。同じ内容の活動にして対立するような部を
立てようとするケース以外は、しゃんしゃんだ。

問題は、もう一つの方だ。
そっちは鈴ちゃんからじゃなく、僕の方からじんに当たるこ
とにする。

「じん」

「ん?」

「もう一つ、僕の方から請願がある。これは、校長との話し
合いの時に、きちんと議題に上げて欲しい」

「請願……か」

「そう。あくまでも学校の決裁事項だから、要求には出来な
いんだ」

はあっと。
大きな溜息の音が聞こえた。

「中庭の管理権、だろ?」

「いや、違う」

「え?」

てっきり管理権のことだと思っていたらしいじんは、慌てて
立ち上がった。

「違うのか?」

「僕らは、管理権には手を出せないよ。今日のじんの言い方
じゃないけど、あくまでもそれは学校側のマターさ」

「じゃあ……何を取りに行こうってわけ?」

「使用許可の方だよ」

「それは、今でも出てるだろ?」

そうか。
じんも知らなかったんだな。

「出てない」

「なにぃ!?」

じんが吹っ飛んで来た。

「嘘だろ!?」

「嘘じゃない。学校の管理規則のコピー。部活関係のとこ、
よく読んでみ」

僕の手から引ったくるようにして紙片を取り上げたじんが、
コピーを隅々まで見回して。

……頭を抱えた。

「しくったあ……」

「ってことさ。三年ルールなんてのは、しょせん生徒会と部
長会とで決めた内規だよ。部の乱立防止のために作った自主
ルールだから、校長決裁なしでもいつでも変えられる。大し
たことじゃない」

「ああ」

「でも、管理権、使用許可、その仕切りが僕らにきちんと理
解出来てなかったのは致命的なんだよ」

じんが、コピーを見ながらぶつぶつと復唱する。

「中庭は、部活で使える校内施設には含まれていない。部活
以外、例えば個人や同好会では使用申請出来るのに……」

「……ということ。だから、じんがいた時には問題がなかっ
たのさ。プロジェクトを部活化した時に、とんでもない大ど
じをこいちまった」

僕はそのコピーをぴんと指で弾いた。

 


三年生編 第11話(7) [小説]

「おまえが気に入らなかったのは、そういうことだろ?」

「ああ!」

「確かに部は、受け皿と三人の部員、顧問の先生が居れば作
れるさ。でも須山先輩は、その形だけを使って中身を捨てた」

「間違いなくそう」

「だろ? 僕は中庭のイベントで須山先輩にすっかりお世話
になったから、あからさまに悪口は言いたくない。でも、あ
のやり方は……いただけない」

じっと俯いていた関口が、ふっと顔を上げた。

「で、それと工作部を乗っ取ることとどう関係があるんだ?」

「看板の架け替えだけで終わらせないやり方を、模索したい
んだよ。おまえがさっき言ったみたいに、幽霊部の看板だけ
を付け替えれば、三年ルールは回避出来る。でも、それは回
避であって、本来邪道なんだよ」

「ああ!」

「原則を軽視して、いい加減なまま存続のためだけに幽霊部
を使えば、まあた校長に突っ込まれるだけさ。三年ルールな
んて意味ないからさっさと撤廃しろってね」

「……」

「工作部でもフィギュア部でもプロジェクトでもない、新た
な発展型の受け皿として、逃げではなく攻めるために部を再
生したい」

「そのためには、実体のない名前だけの部は極力使いたくな
いんだよ。既存の資産はちゃんと使いたい。当然、資産の中
にはおまえが含まれる」

「だからか……」

「そう」

腕組みして、関口が考え込んだ。

「……」

「なあ、関口」

「ああ」

「僕は、おまえがすっごい粘着質のしつこいやつだって聞い
てる」

「……」

「だけど、それは僕もじんも同じだ」

「え……?」

「僕は、すぐに諦めるやつは嫌いだ。もちろん、目的を完遂
するために手段を選ばないじんは、もっと強烈さ。あいつは
恐ろしいくらいしつこい。徹底的に根回しして校長を叩きの
めすくらいだからな。究極の粘着質だよ」

「む」

「それをポジで使うか、ネガで使うか。その違いだけさ」

「……」

「須山先輩のやり方が気に食わない。それは絶対に許せない。
そういう感情が消えないのはしゃあないよ」

「なるほどな。それを……別の形で示せってことか」

「ああ。だったら、先輩に、ざまあみろって言える形を示す
しかないじゃんか。もう先輩はいないんだから」

「ふっふっふ」

関口が、顔を歪めて小さく笑った。

「なるほどな。話には聞いてたけど、おまえも一筋縄では行
かねえな」

「ったりまえじゃん。一々ぶるってたら、ゼロから何か作る
なんて出来ないよ。ただ……」

「ああ」

「やるぞっていう意欲ばっか強過ぎて、雑になった。それを
もう修正しておかないと、僕一人の問題じゃ済まなくなる」

「分かった」

関口が、ひょいと片手を上げた。

「工作部は、部長がいねえ、皮しか残ってねえ部だ。おまえ
らがどう使おうと勝手だ。そして、俺は庭にはまるっきり興
味がねえ」

「ああ」

「ただな」

「おう」

「庭には興味はねえけど、おまえはおもしろい。フィギュア
いじるより楽しいかもしれん」

ずべ。

「とりま、抜けずにそのままいるさ。おまえらのやり方。じっ
くり見させてもらう」

「くっくっく……」

立水とはそっぽを向き合った。
だが関口とは皮肉を擦り合った。
でも、いいじゃん。それで。

何がなんでもおともだち、仲良くしましょ、なんてのがおか
しい。
敵味方で雑に分けるんじゃなく、どこが受け入れられ、どこ
が合わないか、それを冷静に見るってことも必要だと思う。

「じゃあ、そういうことで手続きを取らせてもらう」

「ああ、その前に」

「ん?」

「部長はおまえか?」

「いや、もう初代のメンバーは実質引退さ。二年から部長、
副部長が出てる」

「誰だ?」

「部長が鈴木、副部長が菅生だ」

「部長は……女か?」

「もち。新入部員は、たぶんほとんど女の子だよ。男トップ
じゃ仕切りがうまく行かん」

にへ。

関口が目を細めて笑った。

「……天国だ」

やれやれ。

まあ、いいじゃん。
いろんなやつがいる。
そういうのがいるということをちゃんと受け入れて行かない
と、しきねやてんくの時と同じ失敗をする。

いつも批判的なやつが同じ部にいるっていうのは、すごく大
事なことだと思う。
反対側から見ないと見えないものが、必ずあるからね。

プロジェクトは、みんなが同じ方向を見過ぎたんだ。
だから甘々になった。危機感が薄くて、対応が後手に回った。
でかい……反省材料だよ。

 



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三年生編 第11話(6) [小説]

「だけど、ひょんなことから僕の企みはクラスに漏れて、ク
ラスの連中が全員やるやるって騒ぎ出しちゃったんだよ」

「ふうん……」

「つまり、校長が絶対に出来ないだろうと思ってた組織化が
あっという間に進んで、保岡さんの説得も成功しちゃった」

「ああ、校長は慌てたんだ」

「そう。自分が約束したことだから、今さらだめだとはもう
言えない。プロジェクトはそこから始まったんだけどさ。そ
れが……」

だん!

壁を拳で思い切り叩いた。
関口がびっくりしてのけぞった。

「大失敗だった!」

「なんで?」

「おまえさ。いきなり四十人からのメンバー抱えて、部をコ
ントロール出来る?」

「ありえんだろ」

「そうさ。僕が神様だとしても絶対に無理だよ。プロジェク
トはいきなりカオスから始まっちまったんだ」

「……」

「普通の部みたいに、最初何人かの友だちが集まって、同好
会でわいわいやって、盛り上がってきたから、じゃあ部にす
るかってのとわけが違う」

「でも、運動系はみんなでかいだろ?」

「スポーツは大会や勝ち負けっていう目に見える目標がある
からね。顧問の先生とは別に監督が付くし」

「ああ……そうか」

「僕らには、そういう先生による指導もなかった。無目的の
有象無象の大集団。安楽校長は安請け合いして、とんでもな
い化け物を作っちまったんだよ」

「……」

「それはヤバすぎるぞって最初に僕に警告したのは、校長や
先生じゃない。じん、さ」

「じん……て。白井か?」

「そう」

唇を噛み締める。

「園芸なんかにまるっきり関心がないじんが、なんでプロジェ
クトに加わったか。あいつは、集まって騒いでる僕らがあま
りにお気楽能天気なんで、ヤバ過ぎるって心配したんだ」

「外から見て、きちんと統制が取れている集団に急いで整備
しないと、僕一人の問題じゃ済まなくなるぞ。そういうきっ
つい警告が突き付けられた」

「……」

「じんは、それを警告するだけじゃない。ちゃんと、組織を
作る道筋を作って、それから生徒会に出るためにプロジェク
トを辞めた」

「最低限の下地を作ったってことだな」

「ああ。でも、それは本当に最低限だったんだよ」

「……」

「確かに、プロジェクトは班体制を整備し、責任者を決め、
作業のスケジュールをきちんと定めて、整然と動き出した。
外見的には見事に統制が取れたんだ」

「ああ」

「でも、一番肝心のところがゆるゆるのままだったんだよ」

「肝心のところ? なんだ?」

「中庭は本来生徒にはいじれないという規則を無視して、活
動してきたこと。そこが、あまりにいい加減だったんだ。そ
れを今回、沢渡校長に見事に突っ込まれたのさ」

「……」

「最初に言った歴史と人。プロジェクトには部としての歴史
がほとんどない。最初はボランティアでスタート。一年経っ
て、校長に特例を飲ませて条件すっ飛ばしていきなり部にし
ちまった」

「ふむ」

「だから、部になるまでの熟成期間が全然足りない。みんな、
部なんかすぐに出来るんだって甘く見てる。すっごいヤバい
橋を渡り続けてるのに、誰にもその危機感がないんだ」

「なるほどな」

「人だってそうさ。本当に好きな連中で集まって同好会から
始めたってという歴史がない。最初からクラスベースで、部
というよりはイベントの乗りで動き出して、そのまま行っち
まった。だから意識がばらばらのままなんだ」

「!!」

「それが自己崩壊しないで済んでいたのは、僕らが内規をゆ
るゆるにしてたからなんだよ。部活の掛け持ち全然おっけー。
上級生、下級生の縛りもない。がたがたを丸めるために、調
整役を置いてトラブルを防いでる」

「……」

「居心地が良過ぎて、部を作る苦労やそれを維持する厳しさ
が全然認識出来てないんだよ。もちろん僕もその一人さ」

「そうか……」

「そして、それは須山先輩もそうだったってことさ」

ぱん!

関口が平手で壁を叩いた。
まるで、我が意を得たりと言わんばかりに。

 


三年生編 第11話(5) [小説]

昼休みになってすぐ。
僕は、マンガ本片手にパンをかじっていた関口に声を掛けた。

「関口。ちょっと、いいか?」

露骨に嫌な顔をした関口が、のろのろと立ち上がった。
秘密の話ってわけじゃないので、教室を出てすぐの廊下で立
ち話にする。

「なんだよ。俺になんか文句があるのか?」

ぶすくれた顔で、関口がそっぽを向きながら吐き捨てた。

「頼みがあるんだ」

「はあ? 頼みだあ!?」

そういう言葉が僕の口から出るとは思っていなかったらしい
関口は、ぎょっとしたような顔で振り向いた。

「な、なんだよ」

「おまえ、須山先輩がフィギュア部から工作部に鞍替えした
時に、部を辞めなかっただろ?」

「……」

おもしろくないんだろう。
顔を歪めて、関口が俯いた。

「須山先輩が卒業して、工作部は幽霊部になってる。乗っ取
らせてくれ」

「へっ?」

関口の声が裏返った。

「須山先輩が工作部に鞍替えした時に、おまえ以外の二人は
辞めてるんだ。今、公式に工作部に在籍してるのはおまえだ
けなんだよ。僕は筋を通したい」

「……」

訳分からんという顔でじっと考え込んでいた関口は、ゆっく
り振り向いた。

「三年ルール対策か?」

お。
やっぱ、分かったか。
ま、そうだろな。きっと須山先輩も同じ手を使ったんだろう。

「そう。プロジェクトは解散した。沢渡校長に狙われ、その
流れで今もヤバいんだ。作り直さんと話にならん」

「幽霊部なんざ、他になんぼでもあるじゃん」

「もちろん。だから保険はかけてる。でもな」

「……」

「僕は部の資産を無駄にしたくないんだよ」

「資産?」

「そうさ」

「何が資産なんだよ」

「人と歴史さ」

「……」

「プロジェクトにはまだ二年しか歴史がない。本当なら僕が
在籍してる間には部に出来ないんだ」

「ああ」

「きちんと筋を通すなら、もう一年同好会で引っ張って、そ
の活動の総決算として部に上げる。そうしないとなんないん
だよ」

「でも、工藤はそうしなかったんだろ?」

「まあね。でも、それはそもそも僕らの活動が最初から歪ん
でたからなんだよ」

「どういう意味だ?」

「中庭は、本来生徒は誰もいじれない。部活で使える指定区
域には入っていないし、美化委員会の活動範囲にも組み込ま
れてない。中庭に公式に手を入れられるのは、学校がお金を
払って管理を委託した業者さんだけだったんだよ」

「……」

「つまり、僕が荒れ放題だった中庭を手入れしたいと言い出
した時の校長、今の安楽校長が、そんなのだめって言えばそ
れまでだった。プロジェクトどころか、何も動かなかったん
だ。それが規則だからしゃあないさ」

「ああ」

「でも、僕は入学早々他校生と街中で騒動を起こしてる。安
楽校長は僕を中庭で泳がせることで、僕のガス抜きをしよう
と考えたんだ」

「げ……」

関口は、プロジェクトの背景にそんなことがあるとは思って
いなかったんだろう。
唖然としてる。

「僕に中庭を触らせる条件として校長が出したオーダー。そ
れが、一人でやるな、組織しろ。そして、中庭管理の権限を
握っていた事務長を説得しろだった」

「事務長って、あの石頭の保岡じじいか?」

「そうだよ」

「……」

「まあ、僕がもうちょい頭が良ければすぐ分かっただろね。
でも、僕はその時いっぱいいっぱいだった。中庭で何かした
い。それしか頭になかったんだよ」

「何が分かってんだ?」

「安楽校長が、僕を潰そうとしてたってことさ」

「!!」

「中学の時にぼっちだった生徒が、組織化も大人の説得も出
来るわけないじゃん。安楽校長の狙いは僕を叩き潰して、大
人しくさせることだったんだよ」

「本当か?」

「校長が直接僕にそう言ったからね」

「ぐ……えー」

関口が、しゃがんて頭を抱え込んだ。

「しゃれになんねえ」

「だろ?」

ふう……。

 



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三年生編 第11話(4) [小説]

二時間目から、生徒会役員立候補者の立会演説会が行われた。

いつもなら、どの役にも複数の候補者が立って競争になるん
だけど、今年は定数ぴったりの候補者しかいなかった。
しかも、その顔ぶれが異様だった。

新入生はゼロ。二年生もクラス選出の立候補者はゼロで、じ
んが個別に口説き落とした子ばかりだ。
そして、いつもは会長一人しかいないはずの三年生が三人も
入っていた。もちろん、じん、永見さん、大前くんの三人。

会長以外の候補者は、坦々と抱負を書いた原稿を棒読みした。
演説に割り当てられた時間の大半は、最後に演説するじんに
割り当てられていた。

そして会長候補として最後に登壇したじんは、苛立ったよう
に早口で話し始めた。

「みなさん。生徒会会長候補の白井です。最初に……」

ぐるっと僕らを見回したじんが、露骨に顔をしかめた。

「新入生のみなさんにお伝えしておきます。今年は異常です。
異常事態なんです」

「こんなのが当たり前だって思わないでくださいね。生徒会
でがんばりたいっていう候補者が複数立って、意見をぶつけ
合って、それを聞いて投票で選ぶというのが原則です。僕は
その原則は決して崩して欲しくありません」

「ですが、退職された沢渡校長が恣意的にクラス候補を指定
したせいで、その原則が歪められました。僕は……本当に残
念です!」

じんの顔色は、赤を通り越して青ざめていた。
本当に腹を立ててるんだろう。

「去年生徒会を率いた大村先輩に、貴重な助言をいただきま
した。一刻も早く生徒会本来の活動に戻せ、と」

「生徒会の仕事は、部長会や委員長会の仕切り、体育祭や学
園祭の仕切り、そして、生徒から特別強い要望があった場合
に限り、学校側と意見交換をすることです」

「いいですか? 元々生徒会には、学校側と交渉する権利な
んかないんです。なぜか? もし、僕らが交渉を元に学校側
の姿勢を変えさせたら、その責任は僕らも負わないとならな
いからです」

「合議で決めたことに大きな欠陥があったら、僕らがそれを
後輩に押し付けることになるんですよ?」

し……ん。

「学校が直接タッチできない部長会やイベントの仕切り。生
徒会の活動は、それをこなすだけで手一杯なんです。だって、
学校側は文句だけ言って、何も手伝ってくれませんから。そ
れだけが、僕らに公式に認められている自主独立なんです」

「その現実を……よーく頭の中に叩き込んでおいてください」

固く拳を握りしめたじんが、身を乗り出して僕らを睨みつけ
た。

「去年大村先輩が生徒会を動かしたのは、それしか学校側と
交渉する窓口がなかったから。それが当然なんじゃなくて、
異常なんです。校長が三年生の有志とちゃんと話し合ってく
れれば、生徒会が出しゃばることなんかなかったんです」

「これから安楽校長と校則や許認可のことで話し合いを持ち
ますが、校長からきちんと説明がなされる限り、生徒会では
校長の方針に異議を唱えません。風紀委員会での活動内容策
定の話し合いからも、撤退するつもりです」

ざわざわざわっ!
生徒がどよめいた。

「すでに安楽校長から、学生による相互監視はさせないとい
う方針が示されています。それが明文化されれば、生徒会の
出る幕はありませんから」

確かにそうだ。

「学校運営のことは学校側できちんと責任を持ってやっても
らいたい! それは生徒会の仕事じゃないです!」

じんは、棘のある声を張り上げた。

「生徒間の自主的な活動、例えば部活、例えば学祭などのイ
ベント。それをサポートしてしっかり盛り上げるのが、本来
の生徒会の仕事です。そして、僕は一刻も早くその正常な状
態に戻したい!」

「三年間しかない高校生活なんです。しっかり楽しみましょ
うよ。生徒会は、そのための手伝いは何でもします。それ以
外のことは勘弁してください! 生徒会は、警察でも裁判所
でも国会でもありません!」

「僕の主張は以上です」

さっと頭を下げたじんが、足早に壇から下りた。

「うーん……」

信任投票だからいいけど、対抗馬が居たらきつかっただろう
なと思う。

じんの言う事はもっともだ。
でも、もっともではあるけど、それは逃げに見える。

対面式の時のじんの挨拶は強気で挑戦的だった。
あれはウソか?
新入生も在校生も、そう思ってしまうだろう。

ウソなんかじゃないさ。
ただ、あの時から事態が大きく動いてしまってるんだ。

沢渡校長の露骨な抑圧が全開になろうとしていた対面式の時、
じんは一切緩むことが出来なかった。
校長をきっちり牽制し、生徒に強い自覚と行動を求めること
が必要だったんだ。

だけど、去年大村会長が沢渡校長を吊るし上げた時に言った
こと。それを今、思い出さなければならない。

『本来生徒会で扱うことがらではない。なぜ、生徒会に余計
な仕事をさせるんだ!』


そう。
さっきじんが言ったように、生徒会にはそもそも学校側との
交渉権限がない。
意見を言うことは出来ても、それには何の拘束力もなかった
んだ。

大村会長が生徒会を窓口にしたのは、あくまでも緊急事態へ
の対応というやむを得ない手段であり、その必要がなくなれ
ばすぐに本来の生徒会の形に戻すべき。
じんは、そのタイミングをずっと見計らってきたんだ。

だけど、沢渡校長はそういう生徒会の原則をずっと踏みにじっ
てきた。
生徒会を交渉相手にしないのなら、それを徹底してくれれば
よかったのに、突き放すことも建設的な協議もしなかった。
じんは、そのことにずっといらいらしていたんだろう。

生徒会が異常な立場にいる弊害が、極限まで来てたんだ。
でも校長との対立が長期化する中で、みんながその異常性に
慣れてしまった。
生徒会は、学校に楯突くための組織。
校長だけでなく、生徒すらそう思い込んでしまったんだ。

安楽校長が、立て直しのために全てをリセットすると宣言し
たこと。
当然、その中には生徒会のリセットも含まれている。

安楽校長は、関係を以前の形に戻そうとするだろう。
生徒会がそれを受け入れるのは当然で、後退でも、妥協でも、
逃げでもない。

でも。
沢渡校長の姿勢に不信感を募らせていた生徒は、学校側の運
営方針に極端に批判的になってる。
それは校長が沢渡先生から安楽先生に代わっても同じだろう。
安楽校長の姿勢も沢渡校長以上に強硬だからだ。

そして、沢渡校長が生徒の批判を受けて辞めてしまったとい
うことが、まるで生徒側の勝利のように受け止められている。

勝った? 勝ってなんかないよ。
僕らは、逃げ出した沢渡校長のがらくただけを押し付けられ
て、本当に困ってるんだ。戦利品なんか何もない。
アドレナリンが切れて騒動が落ち着いたら、みんなその事実
に気付くだろう。

そうしたら、その不満は生徒会に理不尽にぶつけられる。
おまえらがだらしないからだって言ってね。
だから、不自然に持ち上げられてしまった生徒会を今のうち
に本来の位置まで強制的に下げておかないと、今後誰が生徒
会を引き継いでも保たなくなる。

じんがシビアな演説をしたのは、生徒会の限界を改めて示し
て、なんでもやってくれるっていう意味のない期待に釘を刺
すため。
弱腰って批判され、不人気になることは覚悟の上で泥を被っ
たんだろう。

短時間で終わった立会演説会のあと、そのまま投票が行われ、
クラス委員によって開票が行われた。

信任投票だったから、全員過半数以上の有効票数を獲得して
当選にはなったけど、三割っていう異例の数の白票、無効票
が出た。

前途多難だよなあ……。

 


三年生編 第11話(3) [小説]

じっと僕を見つめていた安楽校長が、慎重に探りを入れて来
た。

「なあ、工藤くん」

「はい」

「君は……中庭でこれまで何があったかを知ってるのかい?」

「僕が入学してから中庭で遭遇したことは、全て知ってます。
僕自身が当事者ですから」

「……」

「校長。僕がプロジェクトを具体的に立ち上げようと動き出
したきっかけ。それは、夏に台風が直撃して中庭の木が全部
倒れたことでした」

「ああ、そうだったな」

安楽校長が、懐かしむように目を細めた。

「でも、あの時大量に窓ガラスが割れたのは中庭に面したと
ころだけ。それを……おかしいと思われませんでした?」

「……」

「誰かがいたずらするなら、最上階のガラスは校舎の中から
外に向けて割るしかありません。でも実際は、割れたガラス
は校舎の中にも大量にちらばっていましたよね?」

「ああ」

「台風が原因なら、校舎の外側のガラスも無被害じゃ済まな
いはず。人がやったのなら、割れ方がおかしい」

「何を言いたい?」

「中庭に何かある……ってことなんです」

「それは……それこそフィクションだろう?」

「僕が体験者じゃなければ」

首にいつもかけているロケットを引っ張り出し、それを校長
にかざした。
鬼にくちゃくちゃに噛み潰されている銀貨が見える。

「これは僕の身代わりになりました。僕がこうなっていたか
もしれないんです」

「!!!」

「僕もしゃらも、中庭で非常に危険な目に遭ってます。それ
も一回じゃありません」

「……」

ふうっと大きな息を吐き出す。

「校長」

「ああ」

「忌み地だった中庭。その凶事の原因を、去年の秋に片桐先
輩とそのご両親が命がけで祓って封鎖しています」

「その時は、プロジェクトメンバーの四人、僕と中塚くん、
篠崎くん、マイアーくんが祓いの補佐を担って儀式に立ち会
いました。封鎖が成功したので、中庭はこれまでよりずっと
安全な状態になってます」

「でも、それはとても信じてもらえない話。僕らは中庭のヤ
バさを主張することも、証明することも出来ません。ただ、
過去に何があったのか。なぜ中庭が長い間使われなかったの
か。それだけは示せるんです」

「なるほど……そういうことか」

「学校側が不自然に使用を制限していた中庭を、部活での利
用可能区域に含めて欲しい。僕らは生徒会を通じて要望を上
げるつもりです」

「校長がそれを許可するかどうか判断される時に、中庭のこ
れまでとこれからをきちんと理解して欲しいなと。僕のお願
いはそれだけです」

「ふふ……」

にやっと笑った安楽校長が、僕を横目で見た。

「騒動が収まっても、のんびり弁当を食って、新聞を読んで
る暇はなさそうだな」

わははっ!

「確かに、中庭の扱いがひどく不自然だったのは事実だ。片
桐くんのまとめたもの、そして学内の書庫に残されている公
文書なんかを読み漁ってみることにするさ」

「ありがとうございます!」

予鈴が鳴るまで、少しだけ時間があった。
僕は校長室の時計でそれを確認して、一言だけ付け加えた。

「安楽校長」

「ん?」

「忌み地としての危険な中庭。その最後の犠牲者になったの
が……」

「……」

「もしかしたら、沢渡校長だったのかもしれません」

安楽校長は、それには何も言わなかった。

 



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