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三年生編 第65話(5) [小説]

母さんの舌鋒は、今度は実生に向いた。

「実生。あんたは家事がなんでもこなせるから、その点は心
配ないね」

「えへへ」

「でも、そういう子はオトコにこき使われる」

「う」

「自分を安売りするんじゃないよ!」

ぐっさり。
僕も実生に同じことを言ったけど、会話の流れの中で自然に
話するのと当て付けるのとじゃ、全然違うからなあ。

母さんの怒りスイッチが入ると、言うことがいつも以上にえ
げつなくなる。
僕も、そういうところが母さんに似ちゃったかも知れない。
やばやば。

「で、説教してきたの?」

「出来ないよ。弓削さんがいるからね」

母さんが空気を読んで自主規制した?
いや、刺々しい表情や言動を弓削さんの前で出さないでくれっ
て、伯母さんに最初に釘を刺されたんだろなあ。

「その分、後で百倍返しにしてやるっ!」

ぐわわわわ。

ぶりぶり怒りまくったまま、どすどすと足音を立てて母さん
がキッチンに入った。
思わず、実生と顔を見合わせる。

「触らぬ神に祟りなし、だよな」

「うん……大激怒モードのお母さんて、久しぶりに見たー。
こわ……」

「そっとしとこうぜ」

「だね」


           −=*=−


それだけで済むはずないだろなーと思っていたら、やっぱり。
午後に伯母さんから僕の携帯にかかってきた。

「いつきくん、今大丈夫?」

「今日は完全休養日なので、大丈夫です」

「じゃあ、ちょっといい?」

「出ます?」

「そうしてくれると嬉しいかな」

「リドルにします?」

「いや、あそこは人の目があるからね。人払いしたい」

「じゃあ、伯母さんの方で場所を指定してください」

「ええとね。タルボットの並びに、ジャスミンていう小さな
喫茶店があるの」

知らないなあ。

「僕にすぐ分かりますか?」

「看板出てるし、分かるよ。カウンターだけの小さな店なん
だけど、奥に一つだけ個室があるの」

あ、そういうことか。

「分かりました。すぐに出ます。あ、弓削さんは?」

「さっき恩納さんが帰ってきたから、任せる」

ほっ。
じゃあ、大丈夫だね。

「よろしくね」

「はい!」

ばたばたと外出準備をして家を出ようとしたら、背後から母
さんの声が掛かった。

「あれ? いっちゃん、どっか行くの?」

「買い物してくる」

「スーパー寄れる?」

「分からん。僕のが済んだら電話入れるわ」

「あ、それは助かるー」

伯母さんとこの用事がぽんと入ったから、うちの分の買い物
は後回しになったんだろう。

「じゃあ、行ってくる」

「気をつけてね」

「へえい」

外に出たら、雨雲が一掃されてて、空は完全に真夏の装いだっ
た。ぎんぎらぎん。

「ぐえー。こ、これは暑そう」

慌てて家に戻って、服を替えた。
うんとこさ軽装にしないと体が保たん、

Tシャツ短パン姿で部屋から出てきた僕を見て、母さんがう
んざり顔をした。

「外、暑くなってる?」

「もう真夏だわ」

「かなわないなー」

「行ってきまーす」

「ほい」

ばたん!


           −=*=−


ジャスミンという喫茶店は、伯母さんが言ってた通りですぐ
に見つかった。

でも、外見はとても喫茶店には見えない。
きれいな雑居ビルの隙間に挟まった細長いお店で、奥行きは
あっても幅がない。
そして、とてもじゃないけどきれいな店とは言えない。
古ぼけた、時代に取り残されたお店って感じだ。

店先には、枯れたままの花がごちゃっと残ってるトロ箱が置
いてあって、緑に見えるのは全部雑草だ。
元々はそこに植わっていたらしいアップルミントが、箱の底
から逃げ出してあちこちで茂って、ぽよぽよと花を上げてる。

伯母さんは、なんでまたこんな古臭いお店を指定したんだろ
う?

僕が店の前で中に入るのをためらっていたら、後ろから伯母
さんの声が聞こえた。

「ごめんね、待たせて」

「いえ、ここですよね?」

「そう」



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