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三年生編 第65話(1) [小説]

7月19日(日曜日)

「うわっ」

朝カーテンを開けたら、熱と威圧感を感じて思わず後ずさっ
た。

梅雨明け近いってことがダイレクトに伝わってくる、強い日
差し。
空にはまだ雨雲がうろうろしてるけど、その隙間から落ちて
くる日光は間違いなく真夏の強さだ。
そのパワーを見せつけるように、朝からぐんぐん気温を押し
上げてる。

今日は、日中30度を越すんちゃうかな。

一、二年の時にはなんだかなんだ言って夏休みに期待感があっ
たけど、受験生に何か期待しろっていうのは無理だよね。
暑さに耐えて、厳しい夏を乗り切るしかない。

週明けから終業式までの間には、プロジェクト関連の集会が
あったり、えびちゃんに進路相談に乗ってもらったりと、短
い間にすることがいっぱいある。

終業式のあとすぐに夏期講習の合宿が始まるから、実質お盆
明けまでは一直線。
余計なことをしたり考えたりする暇は、まるっきりないだろ
う。考えようによっては、割り切って集中しやすい。
のんびり出来るのは、昨日今日が最後になるかもな。

窓際に立って、目を瞑っても目蓋を通り抜ける日差しを浴び
ていた。

こんこん。

部屋のドアをノックする音が響いて、実生の声がした。

「お兄ちゃん、起きてる?」

「起きてるよー。どしたー?」

「ちょっと、教えて欲しい」

がちゃっ。
ドアを開けてひょいと顔を突き出したら、実生が手にしてい
たのは数1の教科書だった。

「お? 赤出したか?」

「う……」

「まあ、しゃあないよ。中間より期末の方がずっとしんどい
し」

「甘く見たわけじゃないんだけどなー」

「実生たちの学年は、受験のどさくさで平均学力が上がって
るからね。そういう影響もあるかな」

「うー」

「追試はいつ?」

「水曜日」

「すぐだな。一発クリアしろよー」

「もちろん。夏休み、無駄に出来ないもん!」

「だな。何かバイトやるん?」

「そのつもり。お母さんと交渉中」

「追試クリアせんと、学校の方の許可が出ないからなー」

「そうなの。ぴーんち!」

「まあ、がんばれ。どれ?」

「あ、わたしの部屋でいい?」

「かまんけど?」

ジャージ姿のままのそっと自分の部屋を出て、実生の部屋の
前ではたと気付いた。

そういや。
ここに引っ越してきたばかりの頃は、何度か実生の部屋に入
ることがあったんだ。
でも、去年からあいつの部屋には一度も足を踏み入れてない。

中学までは二人で同じ部屋。
狭い宿舎じゃしょうがなかったし、僕らもあんま気にしてな
かった。

でも父さんがここに家を建てて引っ越してきてからは、僕と
実生の生活空間が極端なくらいにきっぱり割れた。
僕や実生のどっちかが、部屋に入れることをすごく嫌がった
わけじゃない。
それでも、自分の場所でないところに足を踏み入れるのがな
んとなく怖かったんだ。きっと実生もそうなんだろう。

この前伯母さんにも指摘されたけど、僕には人のプライベー
トに踏み込むことをすごく警戒する癖がある。それが芯まで
染み付いちゃってる。
その相手がたとえ妹であってもね。

だからこそ、僕の部屋にしゃらを気軽に呼べるし、しゃらの
部屋にも気軽に寄れることが……すごいなあと思う。

「おじゃましやーす」

「ちょっと、お兄ちゃん! 何言ってんの!」

「だって、生JKの部屋だぜ? ぐひひ」

ばきっ!
遠慮なく実生の鉄拳が飛んできた。

ぐえっ!

「いや、冗談抜きに、実生の部屋に入るのは久しぶりだよ」

「あれ? そだっけ?」

「ここに越してきた年に、部屋で熱中症でひっくり返っただ
ろ?」

「あ、そうだった」

「その時以来だよ」

僕の顔をおずおずと横目で見た実生が、小声で聞いた。

「お兄ちゃん、なんか……遠慮してた?」

「遠慮はしてないけど、部屋に入り込む理由がないもん」

「ううー」

「そっかー。すっかり女の子モードになるもんだなあ」




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