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三年生編 第64話(5) [小説]

僕らが小声でこそこそ話してたのが聞こえたんだろう。
寝返りを打った五条さんが、僕らに気付いた。

「見にきてくれたの?」

「はい。めっちゃかわいいですー」

「うふふ。でも、このかわいい顔でねー」

「はい」

「泣く時は、タカなの。全力」

うわ。
タカクラスの夜泣きっすか。きつそー。

「授乳の間隔が空いてくるまでは修行ね」

「大変ですね」

「でも、それが赤ちゃんだから」

「はい。体調はどうですかー?」

「大丈夫よ。寝不足だけかな。食欲もあるし、悪露も思った
ほどじゃない」

そっとベッドから降り、千広ちゃんを覗き込む五条さんの顔
は、本当に聖母のようだった。

「ああ、そうそう」

「はい」

「元原って子。どうなった?」

しゃらと顔を見合わせて、思わず溜息。

「うちの校長と長友さんとで対応を協議したらしいです」

「うん」

「転校になりそうです」

「休学じゃなくて?」

「はい。あいつのメンタルのこと以前に」

「うん」

「親父が……」

五条さんが唇をきゅっと噛んだ。

「また……バカ親の犠牲か」

「元原が荒れるのも分かる気がしました」

「うん。身元は?」

「児童福祉施設に一時身を置くって聞いてます」

「ああ、それで転校か。とりあえず高校出るまではサポするっ
てことね?」

「はい。そこからはぽんいちには通えないので」

ふうっと。
五条さんが細い溜息を漏らした。

「今回問題になって、運が良かったのか悪かったのか分から
ないわね」

「うん……確かに」

「まあ、いい方に考えましょ。学校から重い処分が出るか立
件されてたら、確実にアウトよ。おまえみたいなやつは、とっ
とと学校やめて働けって放り出されてた」

「そっか……」

「とりあえず、治療の名目でも猶予期間が出来たということ
を前向きに捉えるしかない」

「あと半年ですもんね」

「そう。そこから先は欲しくても庇護がなくなるんだから、
今のうちにいろいろ備えておかないとさ。施設の先生や長友
さんが彼の相談に乗ってくれるでしょ。ラッキーよ」

「ラッキーって思ってくれりゃいいけど」

「まあね。でも、どのみち今のままじゃ受験どころじゃな
かったでしょ。進学を諦めないのなら、親父抜きのプランを
立てていかないとどうしようもない。彼が、そう割り切れる
かどうかね」

そうか……。

もう一度千広ちゃんの顔を覗き込んだ五条さんが、ふうっと
小さな溜息を漏らした。

「どんなに愛情を注いでも、親子の間にズレが出来ちゃうこ
とはあるし。毒親の子供がみんな歪んでるってわけでもな
い。何でもかんでも親子の因果関係で済ませるわけにはいか
ないね」

うん……。

「自分の子供が出来たから、わたしもこれから毎日勉強よ。
決して人に偉そうなことは言えないわ」


           −=*=−


帰り際、タカからどっさりトマトをもらった。

商店街の八百屋さん、八百坂さんから、出産祝いだって言っ
て立派なトマトが箱で届いたらしい。
でも、かっちんちは全員トマト嫌い。

お祝いものだから突っ返すわけにもいかないし、千広ちゃん
の顔見に来るお客さんに、お礼代わりに景気良くばらまいて
るって。
わははははっ!

うちは逆に全員トマト好きだから、このおみやはすっごい嬉
しい。
ほくほくほく。

そんな僕の表情をじっと見てた五条さんが、こそっとこんな
ことを言った。

「ねえ、工藤くん」

「はい?」

「トマトってさ。そのまま生で食べる時と料理に使った時と
で味が変わるでしょ?」

「あ、そうですね。僕は生で丸かじりが好きかなー」

「わたしもー」

「人っていうのも、そういうものなのかもね」

「??」

「そのままの時。何かあって変えられちゃった時。その人の
印象はがらっと変わっちゃう」

あっ!
思わず、しゃらと顔を見合わせた。

「元は……同じトマトなのにね」





tomato.jpg
今日の花:トマトSolanum lycopersicum



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コメント 2

JUNKO

立派にお花ですね。いい黄色しています。
by JUNKO (2017-07-31 11:06) 

水円 岳

>JUNKOさん

コメントありがとうございます。(^^)

トマトの花。ミニから大きいものまで、果実と同じくらい
いろいろありますね。その個性が楽しいです。(^^)

by 水円 岳 (2017-08-01 23:08) 

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