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三年生編 第64話(4) [小説]

「自分が選んだ進路先に後悔しないためにも、自分で調べる
だけでなく、わたしたちもしっかり利用してください」

「それはね、わたしたちも残せる財産が欲しいからなの。み
んなが、自分のことだからって一方的に決めて突き進んでし
まうと、わたしたちがフォロー出来ないだけじゃなくて、わ
たしたちの経験や指導力も育たない」

「お願い。わたしたちを鍛えてやるんだっていう気持ちで、
面談には積極的になってください」

「足りない資料や情報が欲しいということなら、わたしたち
の方で最短時間で揃えますから。高校の進路指導ルートでし
か手に入らない情報もあるからね」

おおおーっ!
みんなは大げさに驚いたけど、確かにそうなんだろう。

さっと手を挙げたのは光岡だった。

「先生、これから相談、いいっすか?」

「いいわよ。今日は午後が全部空き。下校になるけど、わた
したちは待機。面談で使って」

光岡の他にも何人かの子が次々にアポを入れて。
定期試験が終わったっていう安堵感より、緊張感が上回った
まま解散になった。



           −=*=−


「なるほどなー」

「いっき、何感心してるの?」

「いや、沢渡校長になってから最初は三者面談が、最後は三
年生の面談そのものが廃止になっちゃったでそ?」

「うん、あれは……ひどいと思う」

「僕も、そりゃあないよって思ってたんだけどさ」

「うん」

「そうでもないのかなと」

「えー? どしてー?」

しゃらが、ぷうっと頬を膨らませた。

「受験を回避する方針立てちゃった子には、面談の意味がな
いからさ」

「ああっ! そっかあ!」

「でしょ? 機械的に面談組んじゃったら、ほんとに相談が
必要な子に割ける時間ががったり減っちゃう」

「なるほどなあ……」

「これからみんなの地力が上がって、大学を受験しようとい
う子がもっと増えてきたら、すぐ面談を復活させるんじゃな
いかなあ」

「そっか。今のはあくまでも現状に合わせた経過措置ってこ
とね?」

「僕はそう思うんだけど」

「そうかもね」

試験や面談の話をしながらゆっくり歩いているうちに、いつ
もの坂口の分岐点に到着。

「いっきは真っ直ぐ帰るの?」

「うーん、五条さんとこの生赤ちゃん見たいけどなー」

「きゃははっ! 生赤ちゃんて」

「まだ写メしか見てないからさー」

「そっか。見てく?」

「え? いいの?」

「タカが自慢しまくってる」

「わはははっ! じゃあ、そうすっかな」

「行こ、行こ!」

しゃらにぐいぐい腕を引っ張られて、かっちんの家に。
店番は元広さんだった。

「あれ? 元広さん、大学はいいんですか?」

「今週は代返頼んである。もうすぐ夏休みだしね」

「試験は?」

「大学は前後期制だからね。9月頭さ」

「あ! そうなんだー」

「千広だろ?」

「そうですー。見れますー?」

「大丈夫だよ。かわいいぞー」

クールな元広さんが、目尻を下げてにやついた。
本当にかわいいんだろう。

裏に回って。

「ちわー……」

こそっと声を掛ける。

のそっと出てきたタカが、口に指を当てた。
ちょうど寝付いたとこなんだろう。

「ありがとな」

「いえいえー。ぜひ生顔を……」

「ははは。まあ、上がれや」

「おじゃましますー……」

しゃらと二人で、こそっと階段を上がる。
前に宴会をやった居間じゃなく、タカと五条さんの寝室に案
内された。

ベビーベッドとその上のメリー。
白で統一された小さな世界。

その真ん中で、白いケープですっぽりくるまれた千広ちゃん
がすやすや眠っていた。

「うわ……かっわいい!」

「でしょー」

しゃらが、食べちゃいたいって顔で赤ちゃんの顔を覗き込む。

「どっち似かなあ」

「五条さんの方ちゃう?」

「でも、口元とか、まんまタカだよー」

「そっかー」



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