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三年生編 第64話(1) [小説]

7月16日(木曜日)

「おわた、おわた」

「きっつー……」

「もうお腹いっぱい」

「しんどー」

ラストが英語。
ボリュームも内容もたっぷりで、定期試験にしては大盛りサ
イズだった。
逆に言えば、それだけ僕らの英語の地力が全体的に足んないっ
てことなんだろう。

こなせなくて基準点を割れば、容赦なく追試。
夏休みに食い込ませないよう、来週の火曜には一発目が来る
から、まだ試験が全部終わったっていう開放感はない。

これから続々と帰ってくる答案用紙に一喜一憂する日々が、
しばらく続く。

実生はどうだったんかしらん。

「しゃら、どやったー?」

「たぶん……赤は一つもないと思う」

「おおー! 盛り返したなー」

「だって、まだ特待諦めたわけじゃないから」

「だよな」

「あとは、全体がどれくらい上がったかだよねー」

うん。しゃらもちゃんと見てるね。
そうなんだ。がんばってるのは僕らだけじゃない。
目標が決まってくれば、みんなそこから一斉にエンジンの回
転数を上げ始める。

とりあえずクリア出来ればいいというレベルを、みんなが越
えようとして来るんだ。
うちの学校の中でさえ、僕らが他の子よりもがんばらないと
上に行けない。ましてや……ね。

まあ、それはそれ。
とりあえず期末をクリアしたから、来週末の模試までは少し
ギアを落とそう。
ずーっと全開で回しっ放しじゃ、本番前にエンジンが焼き付
いちゃう。

「しゃらは、休み前におぎちゃん……でなかったえびちゃん
に、チェック受けるんでそ?」

「うん。今回の結果を見て、また進学先を練り直さなきゃ」

「そか。だんだん気合い入ってくるもんだなー」

「ほんとにー」

とか。
試験が終わった開放感でのんびりしゃらと話をしてたら。
ものごっつきっつい視線がずぶずぶと頭に突き刺さった。

う……立水かあ。

「工藤、どうだったんだ?」

「出来?」

「ああ」

「だいぶ盛り返せた。最初がひどかったからね」

「数学は?」

「満点は無理だと思うけど、9割は越してると思う」

「くそっ!」

散ったか……。

確かに、今回の問題は相当意地悪かった。
問題作ったの、瞬ちゃんだもん。そらあ、手ぇ抜くわけない
でしょ。
引っ掛けあり、時間かかるのあり、多設問で消耗するのあり。
下手な模試よりごつかった。

理系選ぶならこのくらいはこなさんか、馬鹿者ども!!
瞬ちゃんの罵詈雑言が、問題用紙からどくどくと流れ出てた
からねい。

「なあ、立水」

「なんだ!」

「瞬ちゃんの出題の意図に、ちゃんと気付けよ」

「はあ!?」

「あれは、ただの定期試験用の問題じゃない」

ささっと関口が寄ってきた。

「ああ、俺もそう思う。あの先公、やっぱただもんじゃねえ
な」

「だろ?」

関口は気付くだろうと思ってた。
やっぱ、な。

「さすが、ぽんにから来た先生だよ。無駄がない」

「どういうことだ?」

立水は問題だけに集中してて、そんなことに気付く余裕はな
かったんだろう。

「一般入試組は、定期試験はパス出来りゃいい。赤取らなきゃ
いい。それ以上の意味はないんだ。それは、僕らにとって無
駄だと思わんか?」

「ああっ!」

カバンから、鷲掴みで数学の問題用紙を出した立水が、目を
血走らせて問題文を見回した。

「そうかっ!」

「だろ?」

関口が、立水が机の上に広げた問題用紙を何度か指差しなが
ら解説する。

「穴埋め型の小問はセンター試験のシミュ。ごつい枝問は、
二次試験のシミュ。これ自体が立派に模試なんだよな」

「そう。問題の配置や時間配分。そういうのを戦略を立てて
から解かないといい点が取れないように組まれてる。恐ろし
く手の込んだ試験問題なんだ」

立水が額に青筋を浮かべたまま、問題用紙を隅々までチェッ
クしてる。

「ぬうう!」

「つまり瞬ちゃんは、僕らの苦手なところがどこにあるのか、
取れた点数だけじゃなくて、解けなかったパターンからもそ
れをチェックしろよって言ってるわけ」

思わず腕組みしちゃう。




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