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三年生編 第63話(5) [小説]

「ああ、そうか。なるほどな。元原だけでなく、在校生への
影響も最小限に抑えたいってことか……」

「そう。処分カードは最後の手段さ。乱発すると、効果がな
くなる。そして、もうすでに二枚切っちゃってるでしょ?」

「いっきのと、ホッケー部のやつだな」

「そう。それ以降は極力出したくないんだよ」

「あのさー、なんで出したら効果が低くなるわけー?」

永見さんが首を傾げた。

「処分を出さない方が、最初に出した処分の効果があったと
生徒に受け止めてもらえるから」

ぱちん!

しゃらと永見さんが同時に指を鳴らした。

「くうー!」

「そうかあ!」

「校則の機械的な運用はしない。沢渡校長が口約束したこと
を、安楽校長は実際の約束として守ってくれそうってことだ
よね」

「だな」

じんが、さっと席を立った。

「じゃあ」

「うす」

「解散ね」

「試験は始まったばっかだよ。そっちに集中しよ」

「うん!」


           −=*=−


試験は午前中だけだから、雨の上がった少し蒸し暑い道を歩
いて帰ることにした。
しゃらは、スーパーに寄るからと早足で先に帰った。

「ふう……あじー」

カバンを肩に担いで、きょろきょろとあちこちを見回しなが
らゆっくり歩く。そして、元原のことをあれこれ考えた。

自分がいなくなったことを歓迎されてしまうなんて。
それは……すっごく悲しい、寂しいことだと思う。
僕ならとっても耐えられない。

当たり前だけど、元原だってそんなことはこれっぽっちも望
んでいないだろう。
でも、それならばどうして自分の行動を振り返れない?
自分がクラスの女の子たちに総すかん食らってるってことに、
どうして気付かない?

ああ、そうだよね。
それが病気ってやつなんだろう。

穂積さんがどん底までへたれ切っていた時。
僕や伯母さんやレンさんが、どんなにどやしてもなだめても
浮上しなかったこと。
それで……分かるじゃん。

自力でどうにかなるようなら、そもそも病気なんかじゃない
んだ。

ろくでなしだけど、いないと困る存在だった父親からぽんと
切り離されて。元原がどんな感情を覚え、どんな行動に出る
のか、全く予想が付かないんだ。
少なくとも、前向きの発想にはならないような気がするんだ
よね。

あいつが見るからに粗暴だとか、悪知恵が働くとか、そうい
うやつなら、僕らはあいつがしでかしそうなことに用心しな
いとならない。

でも……。
唯一の武器だった図々しさを取り上げられたあいつには、何
かしでかすリキはもう残っていないと思う。

校長が言ってたみたいに、学校も警察もあいつにチャンスを
提供しようとしてる。
あいつを潰そう、叩きのめそうとしてるわけじゃないんだ。
それを……あいつがちゃんと理解出来ているだろうか?

僕は、それがどうも気になる。

足を止めて、雲が薄くなった空を見上げる。
梅雨明けが近くなってきて、雲の隙間から差し込む日差しが
痛く感じられるようになってきた。

夏が……近い。

夏の日差しを待ち焦がれるもの。
夏の日差しを嫌い、萎れるもの。
季節の移り変わりに応じて、植物は栄え、衰退する。

それは僕らと何も変わらない。
僕らだって、いいことがあれば気分が高揚するし、嫌なこと
があれば何もする気がしなくなる。
環境に応じて、僕らの心身の状態も刻一刻と変わっていくん
だよね。

じっと見下ろしている足元で、ベビーサンローズが真っ赤な
花を次々に咲かせ始めていた。

五条さんとタカとの間に、新たな生命が誕生した。

自分が受けられなかった愛情の分まで、その子に。
五条さんは、千広ちゃんにこれでもかと愛情を注ぐだろう。
それが溢れることはあっても、足りないなんてことは絶対に
起こらないと思う。

咲き始めたばかりの小さな花は、生命の息吹ときらきら輝く
愛情の熱さを強く僕に印象付ける。

でも。
もし今、元原がこの花を見たら、その印象は僕とは全く違っ
たものになるのかもしれないなと。
ふと思った。

誰からも、そう親からすらこの小さい花ほどの愛情も受け取
れず、その寂しさに心がひどく歪められている。
歪んで出来た傷口から血が滲んで、それが心のあちこちに丸
い血溜まりを作る。

ぽつぽつと。




babysunr.jpg
今日の花:ベビーサンローズAptenia cordifolia



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コメント 4

yakko

お早うございます。
ベビーサンローズの花 可愛いですね(^^)
by yakko (2017-07-26 09:35) 

JUNKO

鮮やかなピンクに目が覚めました。
by JUNKO (2017-07-26 10:46) 

水円 岳

>yakkoさん

コメントありがとうございます。(^^)

小さな花なんですが、小さくてもきらりと光ります。
丈夫な植物ですし、夏の鉢物としては重宝しますね。(^^)


by 水円 岳 (2017-07-26 23:52) 

水円 岳

>JUNKOさん

コメントありがとうございます。(^^)

ぎっちり咲くと目が慣れてしまうんでしょうけど、ぽつぽつ
と滲むように咲くのは、記憶に残ります。(^^)

by 水円 岳 (2017-07-26 23:53) 

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