So-net無料ブログ作成

三年生編 第63話(4) [小説]

「今回のケースも、出来るだけ穏便に済ませたい。つきまと
いとセクハラの事実があったにせよ、まだ永見さんと御園さ
んに関しては軽微な被害で済んでいる。現時点では、無神経
なアプローチがうっとうしい、気味悪いというだけだろ?」

「はい」

「そうですー」

「被害の再発、拡大防止を着実に行うには、彼に厳しい処分
を出してしまうのが一番手っ取り早い。だが、それでは彼の
矯正には結び付かん。難しいと思うが、学校側としては処罰
以外の対応策を何とか考えるしかない。第二、第三のこんな
ケースを作りたくないからね」

「はい」

「まず、彼には期末試験をちゃんと受けてもらう。今日も、
欠席ではなく校長室で試験を受けさせてる」

「!!」

「クラスにその事実を知らせるわけにはいかないからね。江
平くんには、急病という形で公表してもらった。実際、病気
なんだよ。ウソはついてない」

そうか……。

「その後の夏休み期間中にカウンセリングプログラムを受診
するよう、学校と警察の両方から彼に強く勧めてある」

「強制ではないんですか?」

思わず聞き返してしまった。

「強制は出来ない。だが、彼の行動に対して学校も警察も強
い警告を出した。彼はそれを無視出来ない」

うん。五条さんの言ってた通り。
処分を食らうか、治療を受けるかの二択にしたってことだ。

しゃらが、おっかなびっくり聞いた。

「あの……夏休みの後で戻って来るんですか?」

「戻れん」

え!?

四人そろってびっくり!

「ど、どうしてですか?」

永見さんも、口あんぐりで絶句してる。

「それは彼の事情ではない。彼の親の事情でね」

思わず顔を見合わせちゃった。

「工藤くんには前にちらっと言ったが、彼の父親は残念なが
ら極めて倫理観や社会責任の意識が乏しい」

「はい」

「そういう人は、いろいろなところでトラブルを起こしやす
い。それで察してくれ」

「彼は放置されるということですか?」

「そうは行かないさ」

椅子に座り直した校長が、眉間に深いしわを寄せた。

「諸事情を鑑みて、児童福祉施設に一時寄宿してもらうこと
になった。施設が我が校の近くにはないので、施設から通え
る高校に転校してもらわざるを得ない。カウンセリングもそ
こで受けてもらうことになるね」

そうか……。

「あと半年だからな。石にかじりついてでも高校を卒業しな
いと、その後の不利益が甚大になる。彼も割り切るしかない
だろう」

ゆっくり椅子から立ち上がった校長が、僕らに背を向けた。

「君らにとっても他人事ではないよ。もし君らの親が突然病
気や事故で他界すれば、彼のような厳しい立場はすぐに現実
のものとなる。そして社会は、そういう児童に対して決して
優しくは出来ていない」

ぞっと……した。

「今、君らが学べるということ。それがとても幸せであると
いうことは、君らがそれを当然と思っている間はなかなか分
からないんだ。こういう機会に、自分のこととしてもよく考
えてみてくれ」

「はい!」


           −=*=−


校長がぼかしたところの擦り合わせをした方がいいだろうと
思って、中沢先生に生物準備室の鍵を借りて四人で短時間の
延長戦をやった。

「なあ、いっき。元原の親父に何があったんだ?」

ダイレクトにじんが突っ込んで来た。

「それは分からんわ。でも想像はつく」

「警察に捕まったんでしょ?」

永見さんが、一発で正解を出した。

「そうじゃないかな。父子家庭で父親が動けなくなれば、す
ぐにギブアップだろ」

「そうか……」

「転校の挨拶とかは?」

しゃらからの質問。

「ないと思う。父親の突然の転勤で夏休みに合わせて転校。
それが一番勘ぐられない」

「勘ぐる?」

「あいつは悪い意味で有名過ぎるもん」

「あ、そういうことかあ……」

「学校がこっそり自主退学させたんじゃないかって思われた
ら、どんな連鎖反応が起きるか分かんないからね」

じんが、こんと机を叩いた。



nice!(54)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 54

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0