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三年生編 第63話(3) [小説]

こんこん。

「工藤くんかい?」

「はい。御園さんもいます」

「入りたまえ」

「失礼します」

校長室にはすでにじんと永見さんが居て、僕らを待ち構えて
た。

「まあ、座ってくれ」

四人してソファーに座ったところで、校長が事務的に話を切
り出した。

「元原くんのことだ」

やっぱりな。

「永見さんと御園さんが一番の被害者なので、校長の私から
経緯と今後の方針を説明する。ナイト役をお願いした白井く
んと工藤くんにも聞いておいてもらいたい」

「はい」

「それと、ここでの話はオフにしておいてくれ。あくまでも
被害者とそのサポーターへの対応説明が目的であって、決し
てゴシップの提供ではないからね。まあ、全員しっかりして
いるので、その心配はないと思うが、一応念のため」

「分かりました」

「工藤くんが迅速に警察関係者に対応を相談してくれたこと
で、私は最悪のカードを切らなくて済んだ。まず、それに深
く感謝する」

校長が僕に向かって、深々と頭を下げた。

「田貫署の長友さんというベテランの方から、今後の彼への
対応についての協議打診があり、さっそく出向いてきた」

「どうでした?」

僕の問い掛けを、校長が手を上げて制した。
きちんと話を聞いてくれということなんだろう。
僕は頷いて、校長が話し終わるまでは口をつぐむことにした。

「今回は、苦情が正規に訴えられていた永見さんにではなく、
御園さんへのつきまといという形で出たが、彼は女性への性
的執着が極めて強い。それは、比較的風紀がゆるい我が校で
も到底看過出来ない悪質なレベルだ」

「その行為だけを見れば、長期の停学措置もやむを得ないん
だよ。だが、彼のその性癖には背景がある」

校長が、ぐるっと僕らを見回した。

「最初に私が彼に警告を出した時、彼は露骨に不服の表情を
顔に出した。それは立水くんがぶちかますような論拠があっ
てのものではなく、多分に感情的なものだ」

「女なんてものは、しょせんその程度の存在だろう? そう
いう歪んだ女性観が最初から剥き出しになっている。そして
奇妙な女性観を彼に植え付けたのは、どう見ても彼の父親だ」

校長が、もう一度僕らを見回した。

「彼の両親は彼が幼い頃に離婚していて、父親が彼を引き取っ
ている。だが実際は子供の取り合いではなく、押し付け合い
をやったんだよ。彼は奥さんの実子じゃないんだ」

げえっ!
四人揃って、目が点になっちゃった。

「母親にとっては、夫が浮気して他の女に生ませた子供の面
倒なんか誰が見るものか、そういう感情が先に立つ。それは
無理もない。父親は自分のことしか考えていない。足枷の子
供が居れば女を漁りに行けない。彼は邪魔者だ」

もう……何も言えない。
校長にとっても、そこまでぐっちゃぐちゃだったっていうの
は予想外だったんだろうなあ。

「気の毒なのは、間に挟まってしまった彼だよ。彼には女性
への思慕と嫌悪がぐちゃぐちゃになって放り込まれてしまっ
た。父親が怖いから感情発現が抑制気味で大人しそうに見え
るんだが、中身は暴君なんだよ」

ふうっと太く息を吐き出した校長が、ごほんと咳をしてから
話を続けた。

「彼がまだ小さい子供なら、父親だけでなく私たち教師の制
御も効いたんだろう。だが、横暴で勝手な父親のことを憎ん
でいる彼は、男性の権威者に対する反発が極めて根強いんだ。
だから、私の警告をつらっと聞き流す」

「すでに大人の入り口にいる彼を制御できるのは、今は経済
的な制限だけさ。もし彼が学校をやめて自力で稼ぎ始めたら、
父親に輪をかけて倫理観の乏しい、困ったやつになるだろう」

僕らは、顔を見合わせてしまった。

「ただな。彼は、幸か不幸か自立心に乏しい。だから、学校
という庇護のある世界から切り離されることを病的に恐れて
いる。当然、停学は受け入れても退学は絶対に嫌なんだよ。
そこで、学生生活が強制終了になるからね」

なるほど……。

「工藤くんは例の事件で知っていると思うが、無期停学とい
うのは、実質自主退学を促す手段だ。学校が課す退学処分と
実質なんら変わらん」

「はい」

「だから、私はよほど大きな理由がない限りはそのカードを
切りたくない」

じんが何度も頷いた。




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