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三年生編 第63話(2) [小説]

そう。今日から期末試験が始まる。

とっ始めから、いきなり数学だ。
物理ほどじゃないけど、今でもそんなに好きじゃない。

「ふうっ……」

入学した時には定期試験なんか大っ嫌いで、そんなもん世の
中から滅びちまえって思ってた。
さっさと終わっちゃわないかなあって。

でも。

この期末が終われば、もう定期試験は二回しか残ってない。
二学期の中間と期末。

それだけだ。

容赦なく、高校生活終了に向けてカウントダウンが進んでいっ
てる。
まだそんなにあるのか、じゃなく。
もうそれしかないのか、なんだ。

一分一秒を無駄にしたくない。
こういう試験も含めて、通り過ぎてしまった高校生活はもう
二度と戻ってこないんだ。
そのちくちくするような痛みを、しっかり心に刻み込むこと
にしよう。

「はじめっ!」

ざっ!

問題用紙を裏返し、名前を書き、設問を見回す。

さあ、やるぞっ!


           −=*=−


「いっきぃ、初日どうだったー?」

「予想してたよりは良かったかな。今日の科目は追試は考え
なくても良さそう。しゃらは?」

「わたしも、なんだかんだばたばたあった割には盛り返せた」

ほっとする。

「よかったなー」

「うん。前にリョウさんがさあ」

「うん」

「直前をうまく使えって言ってたでしょ?」

「ああ、そうか。記憶する系は直前が一番頭に入るって言っ
てたもんな」

「なの。今回は、それがうまくはまった感じ」

「なるほどー」

とか。
試験の手応えの話をしながら帰り支度していたら、事務のお
姉さんが僕らの姿を見つけて嬉しそうに声を掛けてきた。

「あのー、工藤さん、御園さん」

「はい」

「なんですかー?」

「ああ、帰ってなくて良かった。校長が、ちょっと来てくだ
さいって」

「分かりましたー」

ヤスがすかさず寄ってきた。

「おい、いっき。なんかやらかしたんか?」

「いや、この前の中庭の審査のことだと思うよ」

「ああ、そっちか」

安心したんだろう。ヤスが、さっと撤退した。
こういう時に、合理的な言い訳のネタがあるのはありがたい。

プロジェクトの話のわけないじゃん。
それなら、校長は部長の鈴ちゃんを呼ぶよ。役から降りた平
部員の僕を呼ぶわけない。
しかも、しゃら込みでなんて絶対にありえない。

きっと元原絡みのことだろう。

期末試験初日のホームルーム。
えびちゃんからクラスのみんなに、元原が急病で試験を全欠
するっていうことはもう伝えられてた。
そして、それに対するクラスメートの反応は恐ろしく醒めて
いた。

あいつも運が悪いよなあと口々に言いながら、でも素行の悪
いあいつを本気で心配するやつが誰もいない。
あの元原とは仲がいいはずの黒木でさえ、だ。

俺たち、ケツに火が着いてる受験生なんだぜ?
いつまでもバカやってねえで、そろそろマジメに進路を考え
ろよ! おまえだって受験組だろが!
あの黒木ですら、元原の傍迷惑な行動にはそういう嫌悪の表
情を向けていた。

元原は、黒木の感情が読めなかったんじゃない。
黒木にすら突き放されて、クラスの中に自分の置き場がどこ
にもなくなってるってことを、どうしても認めたくなかった
んだろう。

しゃらや永見さんへのつきまといと同様に、あいつは黒木に
もなれなれしくつきまとってた。
でも、ナルシストの黒木の目が自分自身に向いたら、他の子
以上に元原の方なんか見なくなるよ。
黒木がそういうやつなんだってことを、元原が甘く見てたん
だと思う。

元原のあの人迷惑な性癖は、自分に自信が持てないところか
ら来るのかなと思ったりする。
女の子へのナンパを繰り返すっていうのもそうで、駆け引き
に勝って女の子を征服するっていう形でしか、自分と人とを
繋げない。

……ってことなのかな。

それにしても。
とんがりくんばかりを集めると、こういう弊害が出るってこ
となんだなー。

とんがれるってことは、みんなそれぞれに自分はこれだって
言えるものを持ってるってこと。
そこにはプライドがあるから、簡単には人に触らせない。
どうしても一人一人の独立性が高くなるんだ。

それでなくても受験を突き付けられて、目が自分にしか向か
なくなるのに、こういうクラスだとそれが増幅されて、みん
なのドライさが一層ひどくなるんだ。
今ならドライさ100パーセント増量、当社比……って感じ
だよなー。

そこに群れていたい平凡な子が混じっちゃうと、普通ならす
ぐみんなになじむはずなのが、逆に浮いてしまう。
それも……なんだかなあ。

「いっき、なにぶつぶつ言ってるの? 早く行かなきゃ」

「あ、わりぃわりぃ」




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