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三年生編 第62話(7) [小説]

「親も相当ダルみたいだけど、そんなの知ったこっちゃない
わ。親子合わせてがっつりどやす」

「五条さんの同僚の方がこっちに来たんですか?」

「生活安全課じゃなくて、すでに刑事課案件なの。軽微だっ
て言っても、犯罪は犯罪。今朝はここに刑事さんに張り込ん
でもらってる」

「そこへ、のこのこと、ですか」

「つきまといくらいで警察が動くはずないって思ってたのか
しらね。あほたれ」

「でも、さすがに逮捕ってわけには行かないんですよね?」

「傷害とか強制わいせつとか、そこまでは行ってないから
ね。刃物を持ってなくて、ただつきまとうだけなら、せいぜ
い指導止まりよ。でも」

「はい」

「今回のことは、警察の警告を無視した再犯なの。それは口
頭注意じゃ済まない。学校に違反行為を報告し、処分を考え
てもらうことになる」

やっぱりか。校長が警察沙汰にするぞって警告したのが、警
告じゃ済まなくなっちゃった。あーあ。

「ぐえー、それじゃあ絶対一発レッドじゃん」

「でしょ? 彼も、さすがにそれは回避したいよねえ」

「!!」

こ、巧妙だあ。さすが五条さん。

「どう考えても、彼の行動は常軌を逸してる。理屈でいくら
してはいけないことだと分かってても、欲求を自分で制御出
来なくなってるの」

「ええ」

「だったら、それを彼の性格の問題に落としてしまう前に、
一度きちんとメンタルをチェックした方がいいでしょ?」

「そうか! すげえ」

「わたしを刺した男の子みたいに、精神のバランスを崩し
ちゃう子は必ず一定割合出てくるの。そして学校は生徒に、
おまえアタマおかしいから精神科受診しろっていう直接の命
令はなかなか出せない」

「どうしてですか?」

「もし教師の見立てがハズレてたら、それは生徒の人権を侵
害することになっちゃうから。とてもじゃないけど無理よ。
教師は精神科医ではないんだし」

「うーん、そうかあ」

「生徒に、受診したらどうかっていう勧告を出すのがいいと
こ。そして受診するかどうかの決定権は学校にはない。生徒
側にしかないの」

「どうしても、手遅れになりますよね?」

「そこがねー、面倒なところね」

「はい」

「でも今回の場合、彼はすでに犯罪行為をしでかしちゃって
る」

「はい」

「もし彼の精神が正常なら、それは意図して行った犯罪行
為。学校はそれを見過ごせないから、当然重い処分を下す」

「そうか。処分を回避したいなら、自ら受診するしかないっ
てことなんですね?」

「そゆこと。診断の結果を確かめてから、次の手を打った方
がいいでしょ?」

「なるほどなあ」

「彼が、自分はなんともないという診断書を持って学校に来
たら、今度何かやらかした時点で即処分」

「ですよね。校長の警告通りで」

「でも、自分の症状を言い訳に使いたいなら、少なくとも精
神科医の診察を受けて、医師の指示を守らないとならないの」

「どっちにしても重石が付くっていうことなんですね?」

「そう。うちとぽんいちの校長先生との間で、うまく連携が
取れそうってことね」

「丸く収まってくれりゃいいけどなあ」

「そうあって欲しいと思うけど、現実にはなかなかね」

五条さんが、ふうっと溜息をついた。

「今回は、学校ではなくて警察の方で彼にちゃんとメンタル
チェックしなさいって指導したの。それには前科が絡むから、
学校よりもずっと強制力が強い。受診拒否は出来ないでしょ」

「はい」

「でも、即日で結果なんか出ないよ」

「あ」

「クリニックに通うか、措置入院の形にするかは別にしても、
きちんと診断してもらえるまで、最低でも一、二週間はかか
るでしょ」

「じゃあ……」

「その間異常行動を抑えられるという保障がない以上、彼は
学校には出てこれない」

「そうか。その間に何かしでかしたら」

「学校の方も警察の方も確実にアウトだからね。彼は自主的
に謹慎するしかないの」

うーん、そういうことか。

「幸い、すぐに夏休み。それはラッキーなように見えるけど」

「受験対策に影響しちゃいますね」

「そう。彼が進学をまじめに考えてるかどうか、分かんない
けどね」

うう、確かに。

「このままなら期末試験も受けられない。追試も含めてアウ
トだと、いくら校長が救済措置を講じてあげられるって言っ
ても厳しいわ。留年覚悟の休学になっちゃう」

そうか……。

「まあ、そこらへんは関係者で最善策を協議します。とりあ
えず、御園さんと永見さんの警戒は解いていいよ」




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