So-net無料ブログ作成
検索選択

三年生編 第62話(6) [小説]

今楽しいことがなければ、先に楽しいことを用意しておこう。
文句言うのはすぐ出来るけど、楽しいことはこっちで作らな
いと向こうからはやって来ないから。

「工藤さん?」

買い物の荷物を冷蔵庫に入れにいったしゃらと入れ替わって、
またお母さんが顔を出した。

「はい」

「これね、この前のほんのお礼」

お母さんが差し出したのは、ピンクの大きな蕾がついた鉢花。

「わ! なんか豪華そう。いいんですか?」

「ほほほ。商店街の七夕イベントで配り損ねたのが一つ残っ
てて、それを頂いてきたの。うちでは今育てるスペースがな
いから」

確かになあ。スペースだけでなくて、育てる余裕もないと思
うし。

「ええと」

お母さんが、ごそごそとエプロンのポケットを探った。
取り出したメモ紙を見て、うんざり顔。

「わたし、こういう横文字苦手なのよねえ」

わははははっ!

「クリヌム・パウエリーって言うんだって」

「へえー。これから花ですよね?」

「そうね」

「楽しみですー」

「もらいものでごめんね」

「いえいえ、母もすごく喜ぶと思います」

「ほほほ。ならよかったわ」

うん。
心配事も、欠点も、ノルマも、いろいろある。
でも。ものすごーく先でなくても、楽しみに出来ることはあ
るし、それで今のしんどさを乗り切れる。
この花がもうすぐ咲くのを、楽しみに待てるように。

よし! 気持ちを切り替えよう。

「じゃあ、また明日の朝迎えに来ます。しゃらー、またねー」

「はあい! お願いねー」

「うす。じゃあ、失礼しますー」

「お買い物ありがとう、お母様にもよろしくお伝えください」

「はい!」

ばたん!


           −=*=−


てっきり、まだ元原がうろうろしてるんだろうと思ったんだ
けど、その姿はなかった。あれだけ執着してたのに。
雨だからいやになったか? そんなわきゃないよなあ。

僕が商店街の通りの真ん中で首を傾げていたら、よっこらせっ
て感じで五条さんが寄ってきた。

「ちょ! 五条さん、出歩いて大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。この分だと予定日ぴったりって感じね」

「すげえ! やっぱり十月十日って合うってことなんですね」

「生命の神秘だよねえ」

五条さんが、お腹に両手を置いて微笑んでる。

「ああ、そうだ」

「はい」

「昨日の男の子」

「ええ。五条さんが警告したのに、今日もうろついてました
ね」

「とっ捕まえて、今がっつり絞ってるから」

げえええええっ!?
のけぞってびっくりした僕を、五条さんがにやにや笑いなが
ら見てる。

「警察なめたらあきまへん」

は、はええ……。
仕事が早い。

「学校の中のことは、あくまで学校で」

「はい」

「でも一歩学校を出たら、それはわたしたちのマターよ」

「そうか」

「昨日わたしが彼に出した警告は、ちゃんと御園さんの被害
届を受理して行った形になってるの」

「あっ! 手続きを……」

「そう、済ませてる。彼の行為は現行犯。だから、言い逃れ
は出来ない。つきまとわれた方が止めろと警告したにも関わ
らず、それを無視してつきまとえば脅迫行為よ。立派な犯罪
になるの。県の迷惑防止条例違反」

「昨日のわたしのは、単なる形式的な警告じゃない。管轄署
から彼に、御園さんへの接近禁止の命令をちゃんと出しても
らってるの」

「ひゃあ」

「その命令を無視した時点で、再犯。今度はお情けなしよ」

きっちり包囲網が敷かれてる。さすが五条さんだよなあ。



nice!(62)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 62

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0