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三年生編 第62話(4) [小説]

「あのさ」

「ああ」

「プロジェクトで、お兄ちゃん、中沢先生をすっごいどやし
たんでしょ?」

「うん」

「あれって、絶対にやっちゃいけなかったと思う」

「どして?」

「中沢先生が悪いのは分かるよ? お兄ちゃんがアタマに来
たのもよく分かる。でも、お兄ちゃんがあれやらかした時点
で、わたしたちは中沢先生を低く見ちゃうの。ああ、そうい
う人なんだって」

「う……」

「お兄ちゃんが卒業した後も、そういう見方が在校生に残っ
ちゃう。中沢先生はずっと浮上出来ないよ。お兄ちゃんがそ
うしちゃったの」

ぐうう。実生の指摘は容赦ない。

「お兄ちゃんが先生を嫌ってそうやったわけじゃないのは、
よーく分かってる。先生の逃げ癖を心配したからだって」

「……ああ」

「でも、それならもっと慎重にやらないとダメだったと思う」

返す言葉がない。
それは、実生からじゃなく、本当は同じプロジェクトの他の
子から出てこなければならない諌め。
でも、それを出てこなくしてしまったのは、僕の偉そうな態
度のせいなんだろう。

「偉そう、か」

「プロジェクトはもう鈴木先輩が引っ張ってるし、お兄ちゃ
んも受験に専念になるから、あんまり偉くても偉くなくても
関係ないと思うけどさ」

「うん」

「お姉ちゃんに対する態度だけは、ほんとに気をつけてね。
見てて怖いよ。はらはらする」

「分かった。確かに実生の言う通りだわ」

僕が怒らなかったのを見て、実生が苦笑した。

「ほらあ。そうやって、さくっとこなしちゃうでしょ?」

ぐっさあ……。


           −=*=−


僕がいっちゃん最初に、会長や五条さん、母さんにどやされ
たこと。
ポーカーフェイスで本心を隠すな。気持ちをちゃんとダイレ
クトに言葉に、表情に出せ。
それがうまく出来ないと、誤解されて友達を失うよ。

うん。
僕は、努力して気持ちを出せるようにしてきたと思う。
でも、見える感情で今一番くっきりしてるのが怒りや苛立ち
なんだ。それ以外の部分がどっかに隠れちゃってる。

中沢先生に、偉そうに劣化してるって言ったけど。
僕も、そこが劣化したかもしれない。

いろいろあっても、一、二年の時は楽しいね、愉快だねって
いうことがいっぱいあって、それは笑いや会話に素直に出て
たと思う。

だけど、その在庫が尽きちゃったんだ。

今、僕の周りにあるのは嫌なこと、不愉快なことばっかで、
僕はそれに対する悪感情だけをいつも剥き出しにするように
なってる。
だから、必要以上に攻撃的で偉そうに見えてしまう。

確かに素直に感情を出すっていうのは大事なこと。
何でも飲み込んで耐えてしまってた時期にはね。

でも、今はちゃんと気持ちを出せるんだ。
嬉しいことは嬉しい。嫌なことは嫌だって。
そうしたら、今度は何でもストレートにぶちまけるんじゃな
くて、出し方をもうちょっと工夫しないとならない。

我慢でも出しっ放しでもない、第三の出し方を考えないとね。

そぼそぼと雨の降る中、しゃらの仮住まいのアパートに買い
物した荷物を運ぶ道すがら。
僕は、そんなことをぼけーっと考えながら歩いてた。

「ん?」

校長や五条さんの度重なる警告にも関わらず、元原がアパー
ト近くの空き店舗の庇の下で携帯をいじってた。

確かにびょーきだわ。どうしたもんかなー。
まあ、この雨ならしゃらが外に出ることはないし、今日はス
ルーするしかないか。

向こうが僕に気付いたかどうか知らんけど、僕は元原を無視
してしゃらんちのドアホンを鳴らした。

「工藤さん?」

「そうですー」

「今開けます」

お母さんがゆっくり出てきた。
一時体調を崩してたって聞いたけど、今日は調子良さそうだ。

「お母さん、具合はどうですか?」

「あはは。ありがとう。様子を見ながら、ぼちぼちね」

「無理なさらないでくださいね」

「分かってます。沙良に迷惑かけるわけにはいかないから、
自重します。あ、この前は筑前煮をありがとうございました」

「いえー」

「おいしかったわ。なかなか他のご家庭のご飯をご馳走にな
る機会がないから」

「そうですよね」

お母さんの背後から、疲れた表情のしゃらがひょいと顔を出
して、僕の渡した買い物袋を無言で受け取った。
お母さんが部屋の奥に下がって、しゃらと入れ替わる。

「まだ、いる?」

聞かれる。

「いる。外に出ないでね」

「うん。勘弁してほしいなあ」

「昨日五条さんからも警告が出たのに、今日も変わらずこの
調子だと、ただの警告では終わらないよね。どうなるかだな
あ」

「ううー」


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