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三年生編 第62話(2) [小説]

「いつきは僕ですが」

「ご無沙汰しております」

「お久しぶりですー」

「ご案内したいことがありまして、ご迷惑かとは思いました
がお電話させていただきました」

ご案内? なんだろ?

「実はですね、8月の後半に当学のオープンキャンパスの催
しが実施されます。いつきさんは理系専攻と伺っております
ので、当学への進学は考えておられないと思いますが、どな
たかお友達で当学にご興味のある方がおられましたら、ぜひ
お越しいただければ」

わお! すごおい! 直々のお誘いだ。

「差し支えなければ、当学のパンフレットとオープンキャン
パス開催の案内を、そちらに送付させていただけませんか?」

「あの、いいんですか?」

「もちろんです。田貫市内の高校には全て配布させていただ
いているんですが、他校の案内掲示と一緒にされてしまうと
宣伝効果が薄いものですから」

うう。ちゃっかりしてるわ。
でも、でかーい大学ってわけじゃないんだから、そのくらい
がつがつ行かないと売り込み出来ないよね。

「分かりました。今年は進学コース別のクラス編成になって
ないので、うちのクラスでも行きたいってやつがたぶんいる
と思います。宣伝しときます」

「ありがとうございます!」

と言った後ですぐ、奥村さんから質問が飛んできた。

「あの、工藤さん」

「はい?」

「コース編成されていないというのは?」

「今年の四月に、校長がクラス編成を恣意的にいじったんで
すよ。その、とばっちりです」

「うわ、そんなことありえるんですか?」

「僕も信じられないですよー。いくらぽんいちがのんびり
だっていっても、これまでは三年で文理を分けたクラス編成
にしてましたから。大騒ぎになりました」

「どういう理由だったんですか?」

「理系の進学希望者が少な過ぎて、一クラスも組めなかった、
です」

「あり得ないですよね?」

「あり得ません」

「親から苦情が?」

「いえ、その前に僕がぶち切れました」

どてっ。
奥村さんが向こうでひっくり返ったんだろう。

「それは……」

「あまりにやり方がひどかったんで、直接吊るし上げたんで
す」

「でも、相手は校長ですよね?」

「標的が僕じゃなければ我慢しましたけど、僕個人の狙い撃
ちは絶対に許せません!」

「うわあ」

「理系志望の子の概数なんか、一日か二日ですぐ分かります」

「ああ、それを突きつけたんですね」

「はい。嘘を暴くだけ。それで済みますから」

「なんとお粗末な」

奥村さんも呆れてる。

「いい迷惑ですよ。僕だけじゃなく、三年生全員とばっちり
食うことになっちゃいましたから。毎時間教室移動になるの
で、慌ただしくてしょうがないです」

「そうですよねえ。その校長先生は?」

「僕が吊るし上げた直後に、お辞めになりました」

しばらく返事が返ってこなかった。
とても信じられなかったんだろう。僕だってそうさ。

「投げ出したんですか!」

「そうです。引き継ぎも謝罪も、何もなし。無責任もいいと
こです!」

「そうですか。それは大変でしたね」

「後任の校長先生も苦労されてます」

「でしょうね」

「授業のカリキュラム自体は去年よりずっときつくなってる
ので、みんな進路選びは去年よりシビアに考えてると思いま
す。奥村さんに情報提供していただけるのは、ほんとにあり
がたいです」

「ははは。そう言ってくださるのは嬉しいですね。工藤さん
も、もしお時間がございましたら気楽に見学にいらしてくだ
さい。オープンキャンパスの日には公開講座も予定されてい
ますし、大学での講義の雰囲気なども事前に把握出来るかと
思いますので」

「ありがとうございます!」

「それでは、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

「失礼いたします」

ふう。
本当に腰が低くて、丁寧な応対をする人だよなあ。
母さんがクレーム処理のプロだって言ってたけど、ほんとに
そんな感じがする。
上から目線っていうのを全く感じないんだよね。

もちろん、上辺だけ繕ってて中身は分かんないよっていう見
方も出来るけどさ。
でも大学の先生とかじゃなくて職員さんなら、僕ら高校生相
手に威張ったところでどうしようもないじゃん。


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