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三年生編 第60話(12) [小説]

「対応をしくじって校長から厳しいダメを出されたら、学園
祭のイベントはJVでも組めなくなります。うちは、イベン
トから完全撤退せざるをえません」

ざあっ。
血の気の引いた先生が、慌てて室内を見回す。

「絶対にそうさせないためにも、まず僕らがしっかり襟を正
さないとだめです」

「分かった。それは鈴木さんとしっかり打ち合わせる」

「お願いします。それと……」

「うん」

「イベ班の班長は、しゃらじゃない。黒ちゃんなんですよ」

「そうだな」

「黒ちゃん自身はちゃんとやってくれる子なんですけど、な
にせ天然のんびり屋で押しが弱い」

「うん」

「今のイベ班のメンバーですら制御出来てません。イベント
盛り上げるのは好きだけど、地味などさ回りや御用聞きはや
りたくない……そういうわがままを班長としてどやし切れて
ません」

「ああ」

「今回はしゃらやちっかが我慢出来ずに手ぇ出しましたけ
ど、もう僕らは実質引退です」

「ヤバいな」

「でしょ? やる気ばっか吹き出して、誰も調整しない。地
味な仕事や作業、チェックをまじめにやらない。それじゃ
……ねえ」

「なるほどな。工藤くんが深刻に考えてるのはもっともだわ」

「僕だけじゃなくて、三年のメンバーは結構気付いてるはず
です」

僕が視線を送った後を、先生の視線が付いていく。

そうなの。一、二年生はほんとに嬉しそうなんだけど、三年
生は苦笑なんだ。しのやん、うっちー、ももちゃんの旧調整
役としゃら、ちっかはぐったり疲れ果ててる。
成功の余韻だけじゃなくて、結局誰が動き、誰が調整したの
か、そういうのもちゃんと見て欲しいの。

全部自分たちがやったから満足だって思われちゃ困る。
イベントを実際に仕切ったのは、しゃらとちっかだ。
一、二年生は結局お客さんになっちゃったんだよ。

それをつらっと見過ごされて、ただきゃっきゃ喜ばれたん
じゃほんとに困る。

今日は、いいよ。
なんだかんだあっても予定通りにイベントをこなして、審査
員の先生やJVを組んでくれた部長さんたちに満足してもら
えたから。
でも、それがイコール自分たちの満足じゃいけないの。

「次、だな」

ぼそっと、中沢先生が呟いた。

「はい。次、ですね。三年の僕らは、そこで実質引退になり
ます。会合への出席率もがっくり下がる。当番や仕事も手伝
えなくなる。そういう厳しい現実を、鈴ちゃんたちで工夫し
て乗り越えて欲しい」

拳を固めて、机をとんと叩いた。

「最初の嵐はアクシデント。立て直せます。でも、これから
は、欠陥を抱えた船を修理しながら航海しないとならない」

「いい表現だ」

中沢先生が、すっと席を立った。

「具体的にどうしろってことじゃない。いつもそういう船に
乗ってるっていう危機意識。それが欲しいってことだね」

「はい!」

「同感だ」

先生も、僕の目の前でぎゅうっと拳を固めた。

「それは、わたしもそうさ」

「先生も、ですか?」

「そう。今日のは……本当にうれしかったけどね。でも、あ
れはほんの一点。実際は、まだ何もかも藪の中さ」

藪の中、かあ。

「これからなんだよ」

先生は、顔を伏せて小声で話し続けた。

「そろそろ……転勤の話が来るだろう。わたしとおぎちゃん
の結婚のタイミングが揃ってしまったからね」

「あ……」

「どっちかは近々動かされると思う」

「どうしてですか?」

「妊娠、出産のタイミングも重なりやすいからさ。いくら公
務員の福利厚生が整っているって言っても、同時に二人育休
取ったら周りに迷惑がかかるからね」

「そうか」

「それがなくても、ここでの勤続年数を考えればそろそろ次
なんだよ」

「はい……」

「かんちゃんは、勤めの関係で坂口を動けない。わたしの転
勤先いかんでは、わたしがどうするかを考えないとならない
んだ」

「どうするか……って?」

「辞めるか、どうかさ」

先生が、膝の上で揃えた両手をじっと見下ろした。

「専業主婦になること。それは決して逃げなんかじゃないと
思ってる。主婦業と先生業を同時にこなせるか。それは、自
分のポテンシャルとの相談だから」

「両方ともだめにしない、ってことですね?」

「そう。そして優先順位は、かんちゃんの妻の方が先なんだ
よ。わたしにとってはね」

うん。
それは……責められない。

「でも収入を考えたら、そう簡単に辞めるなんて言えないよ。
愛情だけじゃ食ってけないから」

なるほど。

「船出はしたけど、わたしたちの船は最初からぼろぼろだ。
それを修理しながら……」

先生が、すぱっと顔を上げて背中を伸ばした。

「荒海に挑まないとならない。プロジェクトと全く同じさ」

「そうですか」



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kiyo

>「でも。校長が、あのサプライズをどう評価するかが心配な
んです」
やっぱり、なんか引っかかっていたのが、そこでした。
流石、いっきは気づきますね。
せめて、校長にお祝いのサプライズありますと言っていないと、拙いですね。
by kiyo (2017-07-04 06:31) 

水円 岳

>kiyoさん

コメントありがとうございます。(^^)

四角四面にかっちかちにやりたくはないんですが、中庭での
プロジェクト主導イベントを禁じられたとゲストの前で
言った以上、名目がなんであれ、やったらアウト。
サプライズは、その中でも最悪なんです。(^^;;

でも、その危うさに気付いてるのは三年の一部だけ。
そこがねー。
負の遺産を後輩たちに引き継ぎたくないいっきは、当然
全力でどやしに行きます。(^^;;


by 水円 岳 (2017-07-04 23:58) 

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