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三年生編 第59話(3) [小説]

ふうっ……。
しゃらが小さな吐息を漏らした。

これも、比較の問題。
僕もしゃらも、今するべきこと、こなさなければならないこ
とがあって、それは決して簡単なことじゃない。

でも今目の前に血塗れで倒れている人がいたら、やっぱその
人を助けようとするじゃん。
それが当たり前だと思う。

ケアに関わる以上は全力で。
言うのは簡単。でも、実際にそうするのはすっごく難しい。
これが……間違いなく現実の苦さなんだろう。

森本先生が言ったこと。
五条さんや中沢先生、恩納先輩のケアがうまく行ったのはた
またまであって、決して必然の結果ではない。
サポートする側がどんなに全力を尽くしても、望んだ結果に
ならないことの方が多い。

でも。
思うようにならない現実を見て目を逸らしたり逃げたりすれ
ば、チャンスがあってもそれを生かせなくなる。

オールオアナッシング。ゼロか百か。
そういう考え方は、こういう福祉のケースでは害にしかなら
ないんだろう。

ゼロでなく、1でも0.1でもいい。
それがゼロでない限り、まだチャンスはある。
そういう考え方が、どうしても必要なんだろう。

だからこそ、僕が安易に伯母さんに話を振ったことはまずかっ
たんだよね。
伯母さんは、ゼロか百かなら限りなく百に近付けようとする
人だから。

「ねえ……」

重たい沈黙に耐えかねたように、しゃらが小声で言った。

「わたし……どうすればいいの?」

「伯母さんか妹尾さんから声が掛かるまでは待機。僕もそう
する」

「それで……いいの?」

「それしかないもん」

「うん」

「一番怖いのは、共倒れなんだよ」

「共倒れ……かあ」

「弓削さんとのやり取りには、ものすごーく神経を使わない
とならないの。だからこそ、伯母さんが専任の人を付けるた
めに妹尾さんをレンタルしたんだから」

「うん。でもさ」

「ああ」

「いっきは、昨日伯母さまに、わたしをケアに当てるなら前
半て言ってたじゃん」

「そうしないと、伯母さんにしゃらの状況が伝わんないもん」

「あ……」

「伯母さんは、弓削さんの状況としゃらの状況を並べて見る
の」

「そうか……」

「でしょ? そしたら、しゃらの方がずーっとマシに見え
ちゃう。それくらいこなせるよねって思っちゃう」

「……」

「もちろん、伯母さんは僕らが受験生だってことには最大限
配慮してくれると思うよ? でも、それ以外の部分の深刻さ
が全然分かってない。僕は伯母さんに、しゃらの今の状況を
全部説明してるわけじゃないもん」

「うん」

「そこは僕からじゃなくて、しゃらが直接言って欲しい。は
んぱなくしんどいって。それを僕が言うと、まあたしゃらを
囲い込んでって思われちゃう」

「昨日。言ったじゃない」

「本当は言いたくなかったんだよ。でも言っとかないと、伯
母さんにブレーキがかかんないんだ」

あーあ……。
僕は思わず頭を抱え込んじゃう。

「伯母さん、強過ぎるんだよね。その物差しでいろいろなも
のを見ちゃう」

「うん」

「矢野さんとかリックさんみたいのが理想で、自力で出来る
んだからばりばりやんなさいよって、そういう考え方だもん」

「……」

「そんなだから、穂積さんを扱い損ねたんだよね」

「あっ!!」

がばっとしゃらが立ち上がった。

「強い人に対抗したり、立ち上がろうとする人にエールを送
るのは本当に上手なの。でも、へたってる人をうまく触れな
い。それが伯母さんの弱点。見た目ほど完成されてる人じゃ
ないと思う」

しゃらが、伯母さんのところでのやり取りを思い出してる。

「そうか。欠点を抱えてるって……」

「自分で言ってたでしょ? そんなに器用な人じゃないよ」

ふうっ。





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