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三年生編 第59話(1) [小説]

7月5日(日曜日)

「ぐえええ……」

よれよれの状態で、模試の会場から這い出した。

やっぱり……。
記述式の模試は、ものすごく消耗するなあ。

覚えたことを、引出しを開けてぽこんぽこんと引っ張り出し、
それを穴に入れてくのがマークシートだとしたら。
引っ張り出した後で、そいつでパズルを組まなきゃならない
のが筆記。

パズルは嫌いじゃないけど、限られた時間内に正解まで持っ
ていかないとならないのは、ものすごく疲れる。

レベルの高い大学ほどただの物知りじゃダメで、知ってるこ
とをどう組み立てられるかの応用力を見るってこと。
もちろん受験にはテクニック的なものがあるから、試験での
出来不出来がそのまま頭の良し悪しってわけじゃないんだろ
うけど、要求されることのレベルはぐんと高くなるよね。

「はあ……」

今出来ることを犠牲にして、それを大学っていうハードルを
越すためのエネルギーに換える。
条件が誰にとっても同じである以上、そのシステムがいいと
か悪いとか言っても仕方ない。
でも……。

なーんとなくすっきりしない。
予備校の玄関のところでもたくさしてたら、背後から声がか
かった。

「工藤さん、どやったー?」

あ、武田さんだー。
なんか、顔見るとほっとするなー。

「ちわー。今回は準備期間も長かったし、まあまあかなと」

「まあまあ、かあ」

「なかなかばっちりっていうわけには行かないっすね」

「まあね」

「武田さんは?」

「俺も、まあまあだなー」

そう言いながら、表情は冴えなかった。
手応え的には、目標設定したところまでは届かなかったんだ
ろう。

「武田さんは、夏期講習どうするか決めたんですか?」

「決めた。王文館の合宿」

「東京ですね?」

「そ。予備校の宿舎に缶詰だー」

「一か月?」

「いや、さすがにそれはきつい。二週間コース」

「同じかあ……」

「工藤さんも?」

「僕は合宿じゃなくて、通い。世ゼミの二週間コースです」

「通えんの?」

「ここからじゃなくて、都内のお寺に二週間住み込みます」

ずどおん!
武田さんが、派手にぶっこけた。

「うわあお!」

「そこ、すごいらしいです。勉強関係以外のものは一切持ち
込み禁止で、朝は五時起き」

「ぐわあ……それは修行じゃん!」

「ですね。でも、気合い入りますから」

「料金は?」

「一泊500円」

武田さん、口あんぐり。

「だ、大丈夫かあ?」

「食費入ってませんから」

「それでも安すぎだろー」

「一応学校公認のところなので、定評があるんでしょうね」

「そっかあ。そこは工藤さんだけ?」

「今のところ、僕の他に立水が」

ぶるぶるっと首を振った武田さんが、もう一度同じことを言っ
た。

「間違いなく、修行やなあ」

「ははは。でもそのくらいじゃないと、なかなかエンジンが
回んないです」

「確かにね」

「武田さんとこも、期末はまだなんでしょ?」

「来週」

「うちと同じだ。そっちもあるんだよなあ」

「ああ、そうか。ぽんいちはきつくなったって言ってたもん
なー」

「そう。科目数が多いから、受験でてんぱってる子には辛い
ですよ」

「乗り切るしかないね」

「はい。期末終わってちょっとしたらすぐ夏休みで、講習突
入。あとは完全に受験専念モードですね」

「そやね。そっからどこまで追い込めるかだー」

「がんばりましょう!」

「んだ。26日のセンター試験模試は受けるんだろ?」

「受けます」

「じゃあ、またその時に」

「うっす! じゃあ、またー」

「ばい」

ぐだぐだ感一切なし。
武田さんも、きっちりギアが上がってきたなあ。
うん。身が引き締まる感じがする。僕も頑張んなきゃ!