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三年生編 第58話(8) [小説]

しゃらが……さっき僕が言ったのをどう受け取るかだよなあ。

今さら伯母さんに文句を言ったところで始まらない。
僕は言ってしまったし、しゃらは聞いてしまったんだから。
僕はしゃらに過剰な負荷がかかることを心配してああ言った
つもりだけど、しゃらに意気地なしとバカにしたって取られ
たらしゃれになんない。

それは、がっつり根に持たれるだろう。

僕としゃらとの間で一生懸命築いてきたつもりの信頼関係。
それは好き嫌いの前にあるもので、簡単には崩れないと思っ
てきた。いや……そう思い込んできたんだ。

そんなこと、ないね。

伯母さんが試したこと。
弓削さんのケアに携わる資質を確かめる他に、あんた方カッ
プルはほんとに大丈夫なのって心配も入ってるんだろう。

そんなの伯母さんの余計なちょっかいだと思うけど、だった
ら僕らは余裕でクリアしないとなんないんだ。
それなのに、こんな状態じゃなあ……。

しゃらだって、ほんとは分かってるさ。
僕がどんなに弓削さんのケアに入れ込んだところで、それが
僕やしゃらには何も影響しないってことはね。

万に一つも、僕が弓削さんによろめくシチュエーションなん
かないよ。
あるとすれば逆のパターン。弓削さんが僕に恋愛感情を持っ
ちゃうかも……しゃらが心配するとすれば、それしかないと
思う。

でもね。弓削さんが誰かに恋愛感情を持てるようなら、そも
そもケアの必要なんかないの。
そんな当たり前のことすらしゃらには見えてない。
しゃらの視野が極端に狭くなってるのは、嫉妬癖のせいじゃ
なくて、今のしゃらの心理状態が弓削さん並みに良くないか
らだ。

さっきの電話でも伯母さんに言ったけど、しゃらが何もかも
一人で背負うにはしんどい状況が続いてる。

最初の危機の時は、みんなで寄ってたかってしゃらを支えた
んだ。
僕、会長、りん、かっちんとなっつ、中沢先生、五条さん。
それぞれの役回りを決めて、全力でね。
崖っぷちだったしゃらも、素直に僕らの手を取ってくれた。
だから立ち直りがすっごい早かったんだ。

でも今回は、あの時に比べて条件がうんと悪い。
だって、しゃらはあの頃と違ってずっと強くなってるもの。
しかもしゃらの負荷を増やしてることがらは、決して悪いこ
とばかりじゃない。
前向きにこなせるっていう意識があると、しゃらは素直にし
んどいって言いにくいんだ。

誰にもぶつけようのないストレスが、しょうもない愚痴や嫉
妬に形を変えて吹き出しちゃってる。
それに理屈なんかないんだよね。

しゃらがそういう状態の時には、面倒事には関わらせたくな
い。
だから僕は、弓削さんの件からしゃらを切り離したかった。
でも、お兄さんの暴挙からしゃらの意識を逸らさせるには、
弓削さんのケアを口実にするしかなかったんだ。

そう、あくまで口実なの。
受験を控えてる僕らが弓削さんのケアに関われるところなん
か、実際にはほんの少ししかないんだから。

でもしゃらはともかく、僕は弓削さんのケアから逃げられな
いんだよ。
だって、弓削さんのケアに伯母さんを巻き込んだのは僕だ。
その僕があとはよろしくってとんずらするのは、しゃらのお
兄さん以上の極悪行為だもん。

僕は、無責任に放り出すのだけは絶対にやだ。

そういう僕の立場をしゃらが本当に理解できてるのかが、分
かんないんだよね。

弓削さんとの関係が出来ちゃったけど、道義上はケアに加わ
る義務がなくて、やれる事もやる気もあんまりないしゃら。
弓削さんとは関係がないけど、伯母さん絡みで道義上ケアに
加わる義務が出来て、やれる事はないけどやる気はある僕。

微妙にあちこちがズレてて、しゃらがそれをしっかり把握し
切れてない。

さっき、伯母さんが僕との通話をしゃらに漏らしたのは、そ
ういうズレを今のうちに補正しておきなさいってことなんだ
ろう。

でも、伯母さん。あのやり方は……逆効果なんだよ。

だって僕の説明は、聞きようによってはしゃらがヘタレでだ
らしないからケアに参加するなっていう風に聞こえちゃう。
僕の発言が気遣いなのか、情けないっていう軽蔑なのか、区
別出来ないんだ。

それも……しゃらがものすごーくしんどくて、べっこりへこ
んでるタイミングでさ。

「ふう……」

伯母さんの力や影響力は絶大。
そして伯母さんが力を行使する時には、ちゃんと背景や先行
きを考えてる。
でも、力にはいつも反作用があるんだよね。

親子関係のリセットにしては過激過ぎる手段を取ってしまっ
たりんのケース。
糸井夫婦の悪巧みを、それ以上の力技で完膚なきまで叩き潰
しちゃったこと。

もちろん、どっちもそうする必要があったことはよーく理解
出来る。理解出来るけど……反作用が強すぎるんだ。
結局、りんとこも糸井先生んとこも、親子関係を木っ端微塵
にしちゃったでしょ。
母さんが伯母さんのことを警戒してるのは、そこんとこだと
思う。

伯母さんだから出来ること。
そして、伯母さんがしたから起こること。
することは伯母さんがコントロール出来る。
だけど起きてしまったことは、伯母さんにはもうどうにもな
らないんだよ。

それが、いくら伯母さんの想定内のことだとしてもね。

でも、起きた結果を伯母さんのせいにして責めることは一切
出来ない。
だって僕は伯母さんの性格をよーく知ってて、その上で助力
を頼んでるんだもの。
弓削さんを伯母さんに結び付けたのが僕である以上、僕はそ
こから来るいかなる結果にも責任を持たないとならない。

……しゃらとのことも含めて、ね。

「はあ……めんどくさいことになったなー……」

とりあえず、しゃらのアクションを待とう。
伯母さんは僕が何でもしゃらの先回りをしちゃうことを危惧
してるし、僕もしゃらもそれはまずいと思ってる。

それなら僕は待つしかない。
しゃらが今回のことをどう受け止め、考え、処理するかをね。

「ふう……」

明日の模試の準備をしながら、ふと思い出す。
七月に入ってからあちこちで咲き出した、アガパンサスの花
を。

アガパンサスの花火。
勢いよく咲き広がって、ばんばんと四方に火花を散らす。
それは大輪ですっごい派手なはずなのに、僕には咲いてるん
だなっていうぼんやりした印象しか残らない。

変な話。
伯母さんのところでも僕の部屋でも、僕としゃらとの意識や
感覚の違いが派手にぶつかって赤い火花を散らしたなら。
そうジェニーの件でがっちゃあんとぶつかっちゃった時のよ
うに、感情が赤熱すれば。

それで火傷することはあっても、お互いの気持ちがどこから
出ているのかはっきり見える。
目を逸らせる場所も時間も、どこにもないからね。
その方がずっとましなんだ。

今日みたいに、感情が微妙にずれたままでうやむやになっちゃ
うと、後で疑心暗鬼ががんがん膨らむ。
それはヤバ過ぎ。

青白い花火なんか見たくない。
そんな幽霊みたいなのは……何の役にも立たないよ。

花はなんでも好きなんだけどさ。

「あの花だけは……どうしても好きになれないんだよなあ」




agaps.jpg
今日の花:アガパンサスAgapanthus spp.)



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コメント 2

majyo

そういえばアバガンサスあったはずなのですが・・・・
消えちゃったかなあ? 
by majyo (2017-05-21 19:19) 

水円 岳

>majyoさん

コメントありがとうございます。(^^)

鬼のように丈夫なアガパンサスですが、球根ものは突然
消えることがあるんですよね。(^^;;

by 水円 岳 (2017-05-22 23:18) 

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