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三年生編 第58話(7) [小説]

夕食の後、またねじり鉢巻での勉強態勢に入った。

そろそろ切り上げようと思った十一時くらいに、しゃらじゃ
なくて伯母さんから電話が入った。

「伯母さん? どうしたんですか?」

「いや、いつきくんが説教してくれたの?」

「え?」

「いや、御園さんが八時過ぎに突然来て、泣きながら土下座
したからびっくりしてさ」

ずどおおん!

「あわわわわ」

「まあ、確かにあれじゃ怖くてサポートを頼めないから、ど
うしようかなあと妹尾さんと話してたんだけどね」

「やっぱりかあ」

「やっぱり?」

「そう。伯母さんたちは、他のケアメンバーと同じように、
僕らがちゃんと覚悟してるかどうか、確かめようとしたんで
しょう?」

「ははは。お見通しかあ」

「伯母さんは、シェアハウスの同居人でなくてもしゃらを入
れてケアスタッフを組みたいって言いたかったはず。弓削さ
んのケアが、しゃらのお兄さんや田中のことに関わってます
から」

「うん。そう」

「でも、僕が絡んだ途端に即ガキに戻っちゃうんじゃ、とて
もじゃないけど怖くて関わらせられないですよ」

「……」

「慌てて、君らの出番はもっと後だよって予防線張りました
よね?」

「あーあ、いつきくん相手だと全部ばれちゃうね」

伯母さんの苦笑の声が漏れた。

「まあ、良くも悪くもそれがしゃらなんです。しょうがない
ですよ」

「……」

「ただ、今の状態のままでしゃらを弓削さんに関わらせるの
は、どう見ても危険過ぎます。だから、がっつりどやしまし
た」

「どうやって?」

「自分がしてもらう時には真剣さを要求して、自分がしてあ
げる時にはてきとーなの……って」

「ああ、それが一番分かりやすいね」

「僕は」

「うん」

「ギブアンドテイクは、ギブの方がずっと大きくないと成り
立たないと思ってます」

「どして?」

「もらう時っていうのは、本当にぎりぎりの時。だから、も
らえるものがどんなに小さくても、ささやかでも、本当に嬉
しいんですよ」

「うん」

「でも、あげる時っていうのは、相手がどれくらいで満足し
てくれるのか分かんない。だから、相手がもういいって思っ
てくれるまでは全力で与えないと意味がないと思ってます。
中途半端に止めちゃって、相手にまだ足りないって思われた
ら、それまであげたものが全部無駄になっちゃう」

「そうなんだよね……」

「ねえ、伯母さん」

「なに?」

「今日の話だと、自我が出て来た後の弓削さんのケアをしゃ
らに分担して欲しいってことでしたよね?」

「そうね」

「僕は逆の方がまだましだと思うんですけど」

「どうして?」

「自我が出るってことは、きっとマイナス面もいっぱい出て
来ますよ。不満、苛立ち、絶望感……それを弓削さんから理
不尽にぶつけられたら、同じ感情をまだ自力でこなし切れて
ないしゃらは潰れちゃいます」

「……」

「実家の建て替えやお母さんの看護、自分の進路問題、お兄
さんがやらかしたことの後始末……今、しゃらにはいっぺん
に難題が押し寄せてる。正直僕は、しゃらの状況が少し良く
なるまでは弓削さんのケアに関わらせたくないんです」

「うん」

「配慮を……どうかお願いします」

「分かった。いつきくんの心配は当然ね。妹尾さんと相談し
ます」

ちょっと間が空いて、伯母さんが少し大きな声を出したのが
聞こえた。

「御園さん、聞こえた?」

げええええええっ!?
しゃ、しゃらが向こうに居たのおっ!?

腰が抜けそうになった。

伯母さああん、それは反則でしょう!!

ぷつ。

僕が猛抗議する前に電話が。

……切れちゃった。




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