So-net無料ブログ作成
検索選択

三年生編 第58話(6) [小説]

「心っていうのは……」

伯母さんは、大きな溜息を漏らしながら僕らを見回した。

「本当にめんどくさく出来てる。誰も、これが一番いいって
言えないの。誰もが欠点も、傷も、負い目も抱え込んでる。
もちろん、私もね」

そうだよな……。

「神様なんてものはどこにもいない。私はそれだけは断言出
来る」

きっぱり言い切った伯母さんが、拳でとんと膝を叩いた。

「だからこそ。神様が何もしてくれないからこそ。自分の心
は最後は自分で作らないとならないの。どんなに不恰好でも、
汚くてもね」

うん。

「弓削さんが自分でそう出来るようになるまで、私はがんば
ります」

伯母さんががんばると言った以上、絶対に中途半端に投げ出
さないだろう。

すっと立ち上がった伯母さんが、僕らを追い出しにかかった。
これから、妹尾さんや森本先生と突っ込んだ打ち合わせをす
るんだろう。

長居は無用だ。
察した僕らも、さっと腰を上げた。

「そういうことで、二人とも、これから協力よろしくね」

「はい!」

「分かりましたー」


           −=*=−


しゃらがそのまま帰ろうとしたから、ちょっとだけ僕の部屋
に寄ってくれって誘った。

「なに?」

「まあ、いいから来て」

僕にしては強引に部屋に引っ張り込んだ。

ドアを閉めてすぐ、苦情をぶちかます。

「はああ……。しゃらも、オトナになってきたなあと思った
のにさあ。あれじゃ、全部ぶち壊しだよ」

「……」

察してはいたんだろう。
ぶうっとしゃらが膨れる。

「今から言っとくね。弓削さんが外に出られる状態になって
も、しゃらには絶対声が掛からない。あれは伯母さんのリッ
プサービスだよ」

「えっ!?」

しゃらが呆然と立ち尽くす。

「ど、どしてっ!?」

「とてもじゃないけど、怖くて任せられないからだよ。患者
二人じゃさあ……」

ぐっと。
しゃらが詰まった。

「いい? 第三者の位置に自分を下げて客観視して、自分の
感情をきちんとコントロールしなさい。それが、妹尾さんの
アドバイスなんだろ?」

「うん」

「それ、全然こなせてないじゃん」

「……」

「弓削さんが全く僕に関わらないのなら、しゃらはきっとこ
なせるでしょ。でも今のままじゃ、僕が絡む限り絶対にこな
せない。ジェニーの時の二の舞になるだけ」

「く」

「だから、僕にもしゃらにも絶対に声は掛からないよ」

「じゃあ! なんでわざわざわたしたちを呼んだの!?」

しゃらが食ってかかった。

「僕らを試したのさ」

「う……」

「今の僕らが、どこまで負荷に耐えられるかをね」

「……」

「そして、しゃらはテストに失格。当然、しゃらとセットの
僕にも声は掛からない。絶対にね」

「く……」

腰が砕けたように床にしゃがみ込んだしゃらが、悔し涙を流
し始めた。

「弓削さんに関わるには、僕らに自分を殺す覚悟が要るんだ
よ」

「……」

「いい? しゃら」

「……うん」

「今のしゃらは、中学の時の高遠先生と同じ」

「!!!」

ばっ!
跳ねるように立ち上がったしゃらが、よろけてドアに倒れ込
んだ。

どん!

「他人事なんだよ。どんなに今の弓削さんがひどい状態だっ
て言ってもね」

「……」

「それでもいいさ。確かにぼくらにとっては他人なんだから。
だったら最初からそう言えばいい。わたしには、ケアなんて
無理ですって」

「う」

「でも、やるって言ったんだろ?」

「うん……」

「口に出す以上は、もう覚悟しないとダメなんだよ」

「……」

「弓削さんが、信頼を預けようとした人から裏切りを食らっ
たら、その打撃は百倍にも千倍にもなる。しゃらは当事者
だったからよく分かるだろ?」

「う……ん」

「しゃらのお祖母さんが亡くなる前後の、一番しんどかった
時。僕がしゃらの家庭状況を知って腰が引けて逃げたら、
しゃらは僕の裏切りを許した?」

力なく、しゃらが横に首を振った。

「だろ? 同じことさ」

「……」

「助け合い。それはきれいごとじゃないよ。出来る範囲で。
確かにそれしかないんだけど、その範囲内は全力でやんない
となんない。いい加減じゃ出来ないんだ。そこに奢りや余計
な感情が混じってしまうなら、最初から手を出さない方がい
い。僕の言いたいのは、それだけ」

しゃらの肩を掴んで、くるっと反対側に向ける。

「さあ、帰った、帰った」




nice!(56)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 56

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0