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三年生編 第57話(7) [小説]

まあ、ちょっと微妙なやり取りはあったけど、すっごいめで
たいことじゃん。
五条さんとタカの時みたいなどっかあんというインパクトは
なかったけど、ゆっくりじっくり煮詰めてきた味はこれから
もっともっとしみてくるんだろう。

なんか……そういうのもいいかなと思っちゃった。

先生の家を出る時に、門柱の横の植木に花が咲いているのが
ぼやっと見えた。
白っぽい、地味な花。

「あれ? これって先生が植えたんですか?」

「まーさーかー。この家の庭にもともとあったやつだよ」

「ふうん……花咲いてますね」

「地味だよな」

「これはなんですか?」

「モッコクだよ。ぽんいちの中庭にも最初あったぞ」

「えー!? 全然知らなかった」

「成長は遅いし、花も地味だし、鑑賞用としては今いちかも
ね」

「ふうん」

「でも、モッコクはツゲやモチノキと並んで、昔から庭木と
しては上ものなんだってさ」

「どうしてですか?」

「成長に時間がかかる分、庭に合わせてじっくり育てること
が出来るだろ?」

「あ、なるほどなー」

しゃらが、その木の幹に手を伸ばしてすりすりと撫でた。
先生も同じように手を伸ばして、幹を撫でる。

「わたしらも……慌てないでゆっくり行くよ。ここがゴールっ
てのはないんだからさ」

「そうですよね」


           −=*=−


帰り道。
しゃらが何度も首を傾げてた。

「どした?」

「いや……中沢先生、何でわたしたちを呼んだのかなあと思っ
て」

「ああ、姓の話は口実って感じだよね?」

「うん」

「たぶん……」

「うん」

「婚姻届の署名をするのに、立会い人が欲しかったからじゃ
ないかなあ。決心を鈍らせないために」

「立会い人かあ……」

「大野先生は、かんちゃんの性格をよく知らないでしょ?」

「あっ!!!」

しゃらがぴたっと立ち止まって大声を上げた。

「そ、そっか!」

「うん。かんちゃんと中沢先生の両方を、余計な色を付けな
いで公平に見ることが出来るのが僕らだけだったから……
じゃない?」

「そうだ。確かにそうだー」

「それだけ、中沢先生はまだ不安なんだと思うよ。年配の人
に何か言われたら、そこで足が止まっちゃいそうで」

「だよねー」

しばらく考え込んでたしゃらだけど、すぐに笑顔が戻った。

「でも、もう踏み出したんだよね」

「うん。僕はそれでいいと思う」

「わたしもー」

臆病な中沢先生と物静かなかんちゃん。
どちらかがどちらかをぐいぐい引っ張って行くってことはな
いと思う。
でも、先生がかんちゃんの寂しさを埋め、かんちゃんは先生
の受け皿になれる。

五条さんとタカの出会いが劇的な運命だとすれば。
先生とかんちゃんの出会いは、ゆっくりと縒り合わされてき
た糸のようなものなんだろう。

そのどっちかがよくて、どっちかが間違ってるなんてことは
ない。
それぞれのカップルの形、なんだ。

はしゃいで僕の前を駆けて行くしゃらの背中を見ながら。
僕はこっそりと思う。

僕らの形は……どうなるんだろうな、と。




mokk.jpg
今日の花:モッコクTernstroemia gymnanthera



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コメント 4

JUNKO

モッコク、この名前も初めて耳にします。
by JUNKO (2017-05-14 20:53) 

水円 岳

>JUNKOさん

コメントありがとうございます。(^^)

モッコクは、関東以西だと庭園樹として結構普通に見かけ
るんですが、花や実がない時にはこれと言った特徴があり
ません。地味な木ですね。(^^;;


by 水円 岳 (2017-05-16 00:04) 

風来鶏

工藤君と御園さんの将来像、未だヴィジョンがはっきり見えてないんじゃないかな?
でも私の知っている範囲内だと、同い年のカップルの離婚率は高いですよ(^^;;
by 風来鶏 (2017-06-09 08:55) 

水円 岳

>風来鶏さん

コメントありがとうございます。(^^)

そうなんです。
自分『たち』の将来像どころか、自分自身の将来像すら
まだ不定形ですから。

二人とも、まず自分の足元を固めるのが先。
でも、この先どこに視点を置くのかが、いっきとしゃら
との間で微妙にズレてます。
そこをどう調整するか、ですね。(^^;;

by 水円 岳 (2017-06-11 20:43) 

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