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三年生編 第54話(10) [小説]

「でもさ」

「だからって、僕が重武装して戦うなんてことは出来ないよ。
僕が今回手伝えることは二つしかないんだ」

「ふむ。それは、なんだ?」

「弓削さんとお兄さんを完全に切り離すこと。そして、弓削
さんのケアプランを一刻も早く始動させること」

「ちょっと待って。お兄さんを弓削さんから切り離さないと
ならないわけは?」

母さんが、すかさずチェックを入れた。

「決まってるじゃん。お兄さん一人に、今回の騒動の責任を
取ってもらうためさ。物騒な連中の標的になるのは一人でい
い」

「……」

父さんが、ぼそっと僕を責めた。

「それは……ずいぶん酷だな」

「もしお兄さんに同情の余地があれば、僕は絶対こんなこと
言わないよ。曲がりなりにもしゃらのお兄さんなんだし。で
もね、お兄さん、ここに逃げて来るまでの間に弓削さんを抱
いて妊娠させてるの。弓削さんは、今日その堕胎手術受ける
のに病院に行ってるんだ」

ばっ!

伯母さんが血相を変えて立ち上がった。

「く、くずがあっ!!」

「でしょ? その事実を知ったしゃらの家族が全員撃沈して
たんだ。それで、今朝僕がぶっ飛んでったんだよ。フォロー
すんのに」

「そうだったのか……」

母さんは、激怒した伯母さんとは逆に、ぼろぼろと涙を零し
た。

「御園さんのお母さん……お辛いでしょうね」

「うん。それでなくても体調が良くないのにさ……」

お兄さんが生きて帰ってくることを信じて待っていたしゃら
とご両親にとっては、とんでもない悪夢だろう。

「田中や犯人グループの敵意をしゃらたちから遠ざけるなら、
お兄さんとの接点を完全に切るしかないの」

「確かにそうだ」

父さんが、深い深い溜息をついた。

「そしてね」

「ああ」

「弓削さんのケアがきちんと動き出せば、そのことを収監さ
れてる田中に報告出来る」

ぱん!

伯母さんが手を叩き合わせた。

「そうか! すごいね、いつきくん! その通りよ」

「でしょ?」

「それで、御園さんとご両親のリスクも下げられるし、お兄
さんへのリスクも下がるってことね?」

「お兄さんへのリスクは、ゼロにならない。でも、ゼロにな
らないことを重石にしないと、更生のチャンスがない。五条
さんは、そう考えてるの」

「ふむ……」

ぐいっと腕を組んだ伯母さんが、考えモードに入った。

「とりあえず、お兄さんからのアプローチは徹底して拒絶す
る。それは今すぐ出来るし、難しくない。しゃらのお父さん
がもう直接引導を渡してるし、追加で何かすることはないの。
実施済みなんだ」

「そうすると、弓削さんのケアをどうするかということだな」

「そう。そこがね……」

僕は、はあああっとでっかい溜息を連発した。

「とんでもなく難しいんだ。だから、みんなの知恵を貸して
欲しいの」

「どうして? 五条さんも森本さんも動いてるんでしょ?」

母さんが、無邪気に疑問を放った。

「その二人が匙を投げそうだからさ」

「えええっ!?」

母さんだけじゃない。
みんな、一斉にのけぞって驚いた。

「ど、どういうことっ!?」

「あまりに悪条件が重なり過ぎてるの。並べるね」

「両親がもういない孤児。しかも、他に身寄りのない私生児」

「無戸籍の赤ちゃんがいる。しかも、弓削さんには赤ちゃん
を手放すつもりがない」

悠然としてた伯母さんですら絶句した。

「無……戸籍」

「犯人グループが、足が付きそうなことをするわけないじゃ
ん」

「……」

「そしてね、ほとんど学校に行けてない弓削さんの学力は、
小学校低学年レベル」

「その上、深刻な性格障害を患ってる。物事への関心が極端
に低くて、感情が出ない。そして、命令には一切ノーと言わ
ない。でも、命じられないと何も出来ない」

「容姿が整っているから、嫉妬や欲望の対象になりやすい」

し……ん。

「ねえ、みんなならどうする? どうすればいいと思う?」

誰も、何も言わなかった。
いや、言えなかったっていうのが本音だと思う。

 


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風来鶏

No rain,No rainbow 、夜明けの来ない夜はない、止まない雨はない、何か一筋の灯りが見つかれば…(^^;;
by 風来鶏 (2017-04-22 10:13) 

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