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三年生編 第54話(9) [小説]

「そして、僕と弓削さんの間に何も接点がなければ、本当に
他人事だったんだ」

「あ……」

母さんが、口に手を当てた。

「弓削さんとしゃらの家族の間に、しゃらのお兄さんを介し
て接点が出来てしまった。しゃらの家族が弓削さんと繋がっ
てしまった。その時点で、もう僕は他人ですって言えないの。
もう僕のことなの」

にっ。
伯母さんが、よしっていう感じで笑った。
さすがに根性が据わってるよなあ……。

「問題は、どうしてお兄さんが弓削さんに絡んでしまったか、
さ。田中が、見るからにぐだぐだのお兄さんを信用して弓削
さんを預けるわけないじゃん」

「何か訳があるわけ?」

伯母さんがダイレクトに突っ込んできた。

「そう。そして、それがものすごくヤバいことなの」

しんと静まり返ったリビングで、僕はみんなの顔を一人ずつ
覗き込みながら話を続けた。

「去年、都内の宝石店に大掛かりな窃盗団が押し入って、億
単位の被害が出た事件があったの」

「うん」

「時間をかけて周到に準備してあったみたいで、証拠を残さ
ない鮮やかな手口だった。警察は、犯人の目星が付かなかっ
たんだって。それが、ひょんなことから一網打尽になったん
だ」

「ふむ。どこからほつれたんだ?」

「それが、田中って男だったの」

「え!?」

みんなが身を乗り出す。

「ど、どういうこと?」

「犯人グループは、汚れ仕事をこなせる田中を手放すつもり
はなかったの。弓削さんと赤ちゃんを人質にしたまま、まだ
こき使うつもりだった」

「うん」

「約束が違うって激怒した田中が、力尽くで弓削さんを奪い
返したんだ」

勘のいい伯母さんが、その顛末にすぐ気付いた。

「もしかして……」

「そう。田中は首謀者二人を殴り殺したの」

「……」

し……ん。

ごくりとつばを飲み込む音が響いた。

「事件になった時点で、窃盗グループが表に出た。田中も、
惨殺現場から逃げた残党も、結局全員警察に捕まったんだ」

「……」

じっと考え込んでいた伯母さんが、首を傾げた。

「でも、それじゃ御園さんのお兄さんとは繋がらないよ?」

「窃盗グループの仲間割れの事件があってから、田中が殺人
犯として捕まるまで、少し時間があったの」

「あっ!」

伯母さんがぱんと膝を叩いた。

「そうか! その間に気の弱そうな男を引きずり込んだって
……そういうことか」

「そう。お兄さんは、まんまと田中にはめられたの。田中が
弓削さんと赤ちゃん連れて逃げ切れるわけないもん。誰かに
面倒を見させるしかない」

「……」

「でもね、弓削さんには何の義理も関係もないお兄さんが、
警察に捕まって身動き出来なくなった田中の命令を聞く必要
なんかないよね?」

「そうだよな」

「本当は、弓削さんも赤ちゃんもその時点でアウトだったん
だ」

「そうならなかったのか?」

「もちろん。田中は自分が逮捕された後もお兄さんに言うこ
とを聞かせるために、強烈な重石をお兄さんに乗っけたんだ」

伯母さんが、ぎっと口を結んだ。

「ああ、そうか。おまえが娘を放り出したら、脱獄しておま
えを必ずぶっ殺してやる。そういう脅しを入れたんでしょ?」

「そうだと思う。でも、それだけじゃない」

「え?」

「田中は、窃盗グループの裏切り者なの。田中の舎弟になっ
たお兄さんは、残党から追われる立場なんだ」

顔色悪いどころの話じゃない。
伯母さん以外全員、冷や汗を流し始めた。

「申し訳ないけど、お兄さんはほんとに……疫病神だよ。ヤ
クザよりもっとたちの悪い連中の敵意を、弓削さんと一緒に
こっちに持ってきてしまったの」

「……」

僕は、そこで一度説明をストップした。

「ここまで……いい?」

いいも悪いもないよね。

「僕が知らんぷりすれば、うちには跳ねないよ。だけどさ、
商売の立て直しが最終段階に差し掛かってるしゃらの家族
が、お兄さんのとばっちりで全滅するのだけは絶対に防ぎた
い!」

「男だねえ」

伯母さんが、うんうんと頷く。

「見上げた根性だ。そうでなきゃ!」

でも、母さんと実生は真っ青。
父さんも絶句してる。

 



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