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三年生編 第54話(7) [小説]

しゃらが俯いて、悔しそうに唇を噛み締めた。

僕は、そういう言い方はしたくなかった。
でも、身内だからっていう甘さは今のうちに完全にぶっ壊し
て置かないと、この後保たない。

「そういう人の再犯を防ぐには、規則や法律がどうのって言っ
ても効き目がないの。倫理観が壊れてるんだから。そしたら
恐怖で押さえ付けるしかない」

「恐怖……って?」

「捕まった田中っていう人は、もう刑務所から出てこれない
よ。それは池端さんから説明を受けてる」

「うん」

「でも、自分で直接出来なくても復讐を誰かに頼めるんだ」

ざあっと。しゃらの顔から血の気が引いた。

「こ……こわ……い」

「それに、田中と仲間割れした他の犯人たちは、仕返しした
くても収監された田中にはもう手が出せない。そうしたら、
田中の舎弟のお兄さんに仕返ししようって企むかもしれない
じゃん。人質だった弓削さん連れてるんだしさ」

「う……うう」

言ってる僕も冷や汗が出てくる。
これまでのごたごたとは、全然インパクトが違うんだ。

「そういう恐怖をお兄さんにがっつり植え付けておかない限
り、お兄さんは全てのことから無責任に逃げ続ける。五条さ
んがお兄さんを制御するために使える手札は、それしかない
の」

「う……ん」

「しかもね。それがお兄さんだけのことで済むんなら、まだ
いいの。でも……」

ぶるぶるぶるっと。
しゃらが縮み上がった。

「しゃらたちのところに跳ねる恐れもあるんだ」

「それで……か」

「うん。中途半端にお兄さんに手を貸したり、かくまったり
したらダメ。寄りかかってくるのを毅然としてはね除けない
と、どんなとばっちりを食らうか分かんない。きっと、そう
いう警告だよ」

ことがお兄さんのことだけで済まない恐れがある。
だからこそ、五条さんがきつい警告をわざわざしに来たんだ。
いい悪いの感情論じゃなく、すでに自衛しないとならない段
階に突っ込んじゃってる。

「ふう……」

なんだかなあ……。
お兄さん、見事な疫病神だよね。

「あのさ、いっき」

「うん?」

「どうにか……ならないの?」

「リスクを下げるには……だろ?」

「うん」

最初にここに来た時とは、全く別の心配もしなければならな
い。しゃらの問い掛けは切羽詰まっていた。

「それが、僕らがこれから取り組むことさ。ろくでなしのお
兄さんが弓削さんの弱みに付け込んで食い者にした。その事
実だけしかなかったら、事実を知った田中がどういう行動に
出るか分からない」

「……うん」

「だから、弓削さんがちゃんとケアを受けて、安心して暮ら
せるようになってるよって、田中にそう報告出来るようにし
とかないとならないの」

「あ! そうかっ!」

ぽんと立ち上がったしゃらが、両手を胸の前に突き出して、
ぐっと握った。

「でしょ?」

「うん!」

「弓削さんがかわいそうだからってだけじゃない。しゃらた
ちがお兄さんの不始末のとばっちりを食わないようにするた
めにも、お兄さんのことより弓削さんのケアを急いで考えな
いとならないの」

「そうだ!」

「それを、しゃらからご両親に伝えて」

「うん! 分かった!」

悲しい。腹立たしい。情けない。
そんな感情のところで立ち止まってるよりも、これから来る
かもしれない危機に備えておかないと、苦労して取り戻して
きた生活が一瞬で壊れてしまう。

しゃらも、今はっきりとその危機を認識したんだろう。

「さて。出来ることをしようよ」

「そだね」

しゃらの手を握ろうと思って右手を出したら、その腕をぐいっ
と抱き込まれた。

「ふふ」

「どした?」

「いや……やっぱ、いっきと一緒でよかったなあって」

「お互い様さ」

僕は拝殿の方を振り返って、ちょっとだけ手を振った。

くすくすくすっ。
小さな笑い声が聞こえた。

そして……気配はすぐに消えた。

「またね。ようこ」

 



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