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三年生編 第54話(5) [小説]

五条さんからの情報収集が終わって、肩を落としているしゃ
らのところに戻った。

「ふう……事情は分かった。でも、これはしゃらたちの問題
じゃないよ。切り離さなきゃ。あとは、お兄さんがどうする
か、さ」

「そう……なの?」

「間違いなくそうでしょ。しゃらやご両親がお兄さんに余計
なちょっかいを出して、お兄さんがそれに反発してとかなら
別だけどさ。長い間没交渉だった人の責任をいきなり取れっ
て言われても、そんなの無理だよ」

「……うん」

「昨日、帰り際に森本先生といろんな話をしたでしょ?」

「うん」

「その中で先生が、五条さんは運が良かったって話をしてた
じゃん」

「うん。そうだったね。受けた好意より恨みが上回ってしまっ
たら、まだ泥沼だったって」

「お兄さん。家を出てから、誰からも好意を受けたことない
んちゃうかなあ」

「……」

「このクズ、役立たず、根性なし、ヘタレ野郎、使えねえや
つ。ずーっとそう言われ続けたら、本当にそうなっちゃうよ。
元々はそうでなくてもね」

「あ……」

「お兄さんも、弓削さんとまるっきり同じだってことさ。タ
イミングがちょっと違うだけで」

「……」

「なんかね」

「うん」

「お兄さんて、まるで中学時代の僕を見てるみたいなんだよ
ね」

「えーっ!?」

しゃらが、ものすごーくびっくりした顔になった。

「ははは。僕だけじゃない。実生もそうだよ。僕らの生き方
は、ここに来るまではずっと逃避型だったんだ」

「逃避型……って、そんな風に見えない……けど」

「そりゃそうさ」

僕は、眼下に広がる街並みをぐるっと指差した。

「親父の転勤はもうない。ここが最後だったんだ。ここでだ
めならもう逃げ場がなかった。だから……必死だったんだ。
僕も、実生もね」

「そっか……」

「徹底的に意地を張って、最後まで自分を貫いたしゃらとは
違う。僕は、ものっそよわよわだったんだよ。お兄さんと何
も変わらない」

「……」

「だから、僕はお兄さんを一方的に責められないよ」

「……うん」

しばらく足元をじっと見つめていたしゃらは、切羽詰まった
顔で僕に質問を投げかけた。

「ねえ、いっき」

「うん?」

「もし。もし、さ。いっきがここに来てもうまく行かなかっ
たら……どうしてたの?」

「ひっきーになってたと思うよ」

「あ……」

「その危険性は、僕にも実生にもあった。僕らがひっきーに
なっちゃったら、うちは間違いなく家庭崩壊さ。他人事じゃ
なかったんだ」

「……」

「実際、大怪我した後は、怪我がある程度回復しても、僕は
学校に行かなかった。行けなかったんじゃない、行かなかっ
たんだ。実生も、何度も高熱を出して学校を休んでる。仮病
じゃないけど、体が学校を拒否しちゃってたんだ」

「そう……かあ」

「親父が転職でなく転勤だったら。二、三年でリセットがか
かるってのが当たり前になってしまったら。今みたいな僕は
たぶんいないよ。人と適当に合わせて、へらへらして、都合
が悪くなったらすぐ逃げる。そういう性格に……なってたと
思う」

「それって……」

「お兄さんとそっくりでしょ?」

「うん。そっか……」

五条さんのぶちかました爆弾のショックでパニくってた頭
が、だんだん冷えてきたんだろう。
しゃらが少し落ち着きを取り戻した。

「五条さんが、しゃらたちにお兄さんのことを言いに来たの
は、五条さんが怒ってるからじゃないね」

「違う……の?」

「違う。警察では、お兄さんが弓削さんにしでかしたことが
分かった時点で、お兄さんの扱いを参考人から容疑者に切り
替えちゃってるんでしょ。今は事情聴取じゃなくて、取り調
べになってる」

「うん」

「その結果がどう出ようが、お兄さんは弓削さんにとって、
もう善意の第三者じゃないんだよ」

「……」

「その事実から目を逸らさないで欲しい。お兄さんに中途半
端な情けをかけると、全員が共倒れになる。ちゃんと覚悟し
て。五条さんはそれを言いに来ただけと思う」