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三年生編 第52話(6) [小説]

がたん!
しゃらが、がっと目を見開いてベッドから立ち上がった。

「確かに!」

「だろ? 頼むよ。そういう異常事態なんだってことに気が
付いてくれよ。お兄さんのことや家の引越しで気持ちが揺れ
てるのは分かるけどさ……」

どすん。
放心したように、しゃらがベッドに腰を落とした。

「五条さんは、関わる子供達のプライバシーに関してはすっ
ごい慎重なんだよ。口が堅い」

「そうなの?」

「そう。例えば長岡さん」

「うん」

「長岡さんの時には、僕らはもうすみちゃんから何があった
のかを聞いてたんだ。五条さんは、長岡さんの背景を僕らに
隠す必要がなかった」

「そうか……」

「だから、長岡さんの情報は『僕らには』全部オープンにし
てる。でも僕らが何も知らなかったら、いくら長岡さんが
しゃらの加害者だって言っても、事情を僕らには全出ししな
かったと思う」

しゃらが首を傾げた。
そうかなあって疑う感じで。

「中村さんや指月おばあちゃんを見れば分かるじゃん。長岡
さんの過去の詳しいことは何も知らないと思うよ。それは本
人が直接言うか、五条さんが説明しない限り、誰にも漏れな
い」

「あ! そうかあ……」

「更生で難しいのは、本人が前向きになったのに、晒された
過去が足を引きずること。五条さんがプライバシーの公開に
慎重なのは単に法律上の問題だけじゃなくて、そっちが大き
いんだと思う」

「確かに……そうだね」

「でしょ? だから、恩納先輩やゆいちゃんのケースでは、
五条さんは何があったのかを僕に一言も言ってないの」

恩納先輩の時は森本先生の説明、ゆいちゃんの時は本人の告
白で事情を知った。
五条さんからは、一切情報が出てこなかったんだ。

「えっ!? そうだったの!?」

「そう。五条さんの情報管理は徹底してるの。ケアする子の
性格や背景を全部調べ上げて、だからどうするっていう綿密
な計画を立てる。誰にどこまで情報をオープンにするかも含
めてね」

「すごいなー……」

「すごいよ。覚悟が違う。体当たりで五条さんや中沢先生を
ケアした大野先生のやり方じゃない。プロからアドバイスを
もらいながら、慎重にやってる。アドバイザーは森本先生で
しょ」

「そっか。恩納先輩の時は、それで森本先生が……」

「そう。恩納先輩のケースでは、五条さんが森本先生のアド
バイスを受けながら長期間密着ケアした。先輩が純粋な被害
者だったからね」

「うん」

「てことは、先輩の性格をきちんと把握するのに、それだけ
時間がかかったっていうことだと思う」

「……」

「最初は、意志のない人形みたいだって言ってただろ?」

「そうだったね」

「先輩の心の底に押し込められていたナマを引っ張り出すの
に、それだけ時間がかかったんだ」

しゃらが腕組みをして、考えモードに入った。
もっと早くからそうしてくれよ。ったく。ぶちぶち……。

「でも今回は、弓削さんの赤ちゃんの処遇が絡むから時間が
ない。時間をかけて弓削さんの性格を探ってる余裕がないん
だ」

「でもさあ」

「うん?」

「それでも、どんな子かはある程度分かるよね?」

「だからだよ!」

「え?」

「五条さんや池端さんがどんなに踏み込んでも、その子のい
い面しか見えない。被害者としての悲壮感や憎悪の感情が見
えてこない。それが、どう考えてもおかしい。それしかない
と思う」

「!!!」

「僕の予想だよ。でも、たぶん外れてないと思う」

「じゃあ……」

「見かけはすっごいいい子なんでしょ。悲惨な目に遭ったな
んて想像出来ないほどね」

「ぶりっ子?」

「分かんない。それは、これから話しながら判断するしかな
い。そんな単純な話ではないと思うけど」

「……」

「五条さんが匙投げちゃうくらいだからさ」

「そうか」

「で」

「うん」

「たぶん、僕がキレると思う」

「ええーっ!?」

しゃらがのけぞって驚いた。

「それは、アタマに来てじゃないよ。どうしてもそういう演
技が要るんだ」

「……」

「その調整役を池端さんには頼めないの。池端さんはオトナ
だから」

「じゃあ……わたしに?」

「だからしゃらを呼んだんだって! くだらん嫉妬でへそ曲
げてる場合じゃないんだよ!」

「う……」

「お祖母さんが亡くなった時のしゃらの状況と同じくらい、
今の弓削さんの状況はヤバいんだよ。五条さんは、自分の出
産に集中出来ないくらい切羽詰ってるんだ。そういう緊急事
態なんだってことをきちんと察して!」

「わ、分かった」

 


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