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三年生編 第2話(6) [小説]

「ただいまー」

「おかえりー」

中庭を見回ってから家に帰ったんだけど、実生は制服を着た
ままソファーで潰れてた。

「おいおい、初日からトイレの住人になったんじゃないだろ
うなあ」

「なんとかこらえた……下痢止めバンザイ」

ったく、相変わらずプレッシャーに弱いこって。

「ってか、校長先生も生徒会も、なんなの? はんぱないプ
レッシャーじゃん」

「わははははっ!」

思い切り笑い飛ばす。

「いつまで中坊のつもりでいんだよ」

「う……」

「高校生になったら、子ども扱いはしてくんないよ。未成年
としての扱いはあってもね」

「……」

「正面から宣言してくれる分、まだ楽さ。裏を読まなくても
済むでしょ?」

「そうだけどさー……」

「最初っからたるたるだと、今年は先生たちが堪え切れない。
だからしっかりネジを巻いた。それだけだよ。これまでと極
端に違うことはないよ」

「だといいんだけど」

実生は不安なんだろなあ。
僕が一年の時ののんびりを見てるから、そう出来るかと思っ
たのにってね。

でも……。

「まあ、中身はそうでもないってことはすぐに分かるよ。校
長やじんのはあくまでも極論さ」

「ふうん」

「ただ」

「え?」

「……」

言おうかどうか、少し迷った。
でも、覚悟は要ると思う。

「今年の一年生は、例年とちょっと空気が違うと思う。そっ
ちに慣れる方が大変かもね」

「……う」

実生も、なんとなく勘付いているんだろう。

「最初は同じ中学出の子でグループが出来て、それが徐々に
解れて新しい友だちが出来て、クラスとしても形が出来てっ
てパターンだと思う」

「うん……」

「でも、それがちょっと遅れるかもね」

それ以上は言わなかった。

小中の時とは違う。
兄貴として実生をかばうのは、実生のためにならない。
ぽんいち合格の時に母さんが実生をどやしたように、これか
らは自分で判断し、自力で解決しないとならない。

我慢する。自分を削って周りに合わせてしまう。
僕も持っていた悪い癖をそろそろ本気で直して行かないと、
居場所を見失う恐れがあるんだ。

二年になってからのかっちんの状態。
あれは……実生には耐えがたいと思う。

自分を安易に削らないで、きちんと主張し、人の主張も冷静
に聞く。
これまで実生が苦手にしていた個性の強い子とも友だちにな
れるように、自分の体幹をしっかり鍛えていく。
そういう努力が要るだろう。

そのとっ初めから、余計な口出しをするわけにはいかない。
僕はさりげなく話を変えた。

「で、クラスと担任は?」

「1Dで、ええと……早稲田先生っていう女の人」

「ああ、早稲田先生か。当たりがいいな」

「そうなの?」

「茶華道部の顧問の先生で、落ち着いた優しい人だよ」

実生が、それを聞いてほっとした表情を見せた。

そうか。
僕は一年の担任が誰になったのか、全容を知らないけど、沢
渡校長は混乱回避のためにベテランの先生を一年の担任に張
り付けたんじゃないかな。

三年の担任は逆だ。
校長の指示を徹底させやすいように、あえて経験の浅い若い
先生を当ててるんじゃないかと思う。
瞬ちゃんは、きっと例外なんだろう

「あれ? いっちゃん帰ってきてたの?」

玄関が騒がしくなったと思ったら、母さんがスーツ姿のまま
買い物袋をいっぱいぶら下げてリビングに入ってきた。

「入学式の日は早上がりさ」

「そうだっけ?」

「記念撮影やらなんやらで、敷地内にお客さんがうろうろす
るから授業になんないよ」

「あ、確かにね」

「写真は撮ってきたの?」

「もちろん! 茶木さんのお母様がいらしてたから、お互い
に撮り合って」

「僕ん時は、さっさと帰ったくせにぃ」

「野郎の写真なんか、あとで見直すことないからね」

これだよ……。
呆れ顔の僕の横で、実生がげらげら笑っていた。

母さんは買い物袋の中身をてきぱきと冷蔵庫に収め、最後に
6号くらいの少し大きめの鉢植えを持ってリビングに来た。

「またなんか買ったの?」

「またってなによ。これは初めてでしょ」

「なに?」

「ヒメエニシダ。鉢植えじゃなくて、地植えにするつもりで、
少し大きめのを買ってきたの」

「へー」

まだ咲き始めで、つぼみが多い状態だけど、すうっと伸びた
枝から黄色いアーチがいくつも飛び出してる。
アーチ……かあ。

入学早々に、かっちんとなっつっていう大事な友だちがすぐ
に出来た僕。
僕は、ユキヤナギの白いアーチが友だちとの架け橋に見えた
ことをよく覚えてる。

ヒメエニシダの花も、そういうアーチに見えなくもない。
だけどユキヤナギと違って、ヒメエニシダは黄色い花だ。
まだ何も染まっていない白い花じゃなく、自己主張と警戒を
象徴する黄色い花。

もちろん黄色はビタミンカラーで元気が出る。力の源になる。
だけど、その力は無節操に跳ね出すとどういう影響が出るか
分からない。

僕らがどんなに懸念していても。
校長のプランは動き出したし、実生の高校生活も始まった。
僕は、動きが実を結ぶことを祈るしかない。

「母さん、それどこに植えるの?」

「それなのよねえ。花は春先だけだし、その後はわさわさ茂っ
ちゃうらしくて、目立つところには置けないわ」

「刈り込みがいるってわけね」

「そう。めんどくさ」

「それ分かってて買ってくるかあ?」

ごん!
返事の代わりにげんこが降ってきた。

いてて……。



himeni.jpg
今日の花:ヒメエニシダCytisus scoparius

 


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