So-net無料ブログ作成
検索選択

一年生編 第150話(4) [小説]

榎木さんは、今度は正座してる僕の方を向いた。
形相は変わってない。

「工藤さん、わたしに叩かれた理由が分かった?」

「僕が……佐々木さんにボランティアを持ちかけたことです
か?」

「いや、それは純粋に工藤さんの善意から出たもの。余計な
ことだとは思うけど、責められない」

「そんなことじゃない。わたしがさっき別れ際に言ったこと
を、よーく考えてごらん」

ええと、菅野先生に中途半端にいじるなって言ったのに、僕
が同じことをしてる、言行不一致って言われた……よな。

う、言行……不一致。
わ、分かった……。
うつむいてしまう。

「工藤さん、あんたは今回のボランティアを組織した。率先
して参加者を引っ張らないといけない立場でしょ? なんで、
それを放り出して阿部さんに付いてきた?」

「馬鹿ものっ!」

「もしあんたがバイトでやってたら、どんなに阿部さんのこ
とが気になっても、仕事を優先したはずだ。それが、ボラン
ティアになった途端に、仕事の優先度を下げた」

「無給だから。ボランティアだから。ちょっとくらいいいだ
ろう。そういう甘えた考えを、言い出しっぺのあんたが垂れ
流してどうすんだっ!」

「自分の立場も、他のボランティアの人たちへの配慮も放り
出して。それがリーダーのすることかっ?! 恥を知れーっ!!」

返す言葉がない……。

榎木さんが、みんなの方を向いた。

「ねえ、みんな。仕事するってのは、こういうことなの。ど
んなに単純に見えることでも、ちゃんとルールがある。誰か
がそれを軽視すると、全体が傾いてく」

「どんな仕事も、それは人と人とをつなぐもの。そこに驕り
や怠けやごまかしが入れば、自分だけじゃなくて周囲も汚し
ていってしまう。そういうことに鈍感にならないでね」

「わたしは今佐々木さんと工藤さんをどやしたけど、彼らは
ちゃんとそれを修正出来る。出来るからこそ、これだけの人
が来てくれるの」

「どやされることを恐れちゃだめ。どやされないことを恐れ
なさいね。失敗やヘマは指摘されないと分からない。指摘さ
れることを嫌がったら、永遠に自分の欠点は見えない、治ら
ない。それを、しっかり覚えてください」

「さあ! 午後の仕事に行きましょう!」

ぱんぱんと手を叩いた、その音に弾かれるように、一斉にみ
んなが立ち上がって後片付けをした。


           −=*=−


午後もきつい作業だったけど、誰もそれに音を上げたり、文
句を言ったりしなかった。

3時に一度、休憩が入る。
例によって、早枝のおばあちゃんがおまんじゅうを蒸かして
持ってきてくれる。

熱々がおいしい。
冷たい麦茶を飲んで、ちょっとリラックス。

元気のない僕を心配したのか、かっちんが声を掛けてきた。

「なあ、いっき?」

「ん?」

「榎木さんて言うのは、いつもあんなに厳しいのか?」

「いや、あそこまで激烈なのは初めて。でも……僕らに、こ
の程度でいいって考えて欲しくなかったんだと思う」

「なるほどな……」

「バイトに慣れると、最初きちんと意識出来ていたことを忘
れちゃうことがある。僕は尾花沢さんのとこで初めてバイト
した時に、真剣に仕事に向き合えって叩き込まれてたはずな
のに……」

しゅーん……。

「まあ、勉強になったんだからいいじゃん」

「そうだね」

5時になって、作業を切り上げることにした。
まだしょげた感じの佐々木さんが、みんなにお礼を言う。

「今日は作業を手伝っていただいて、本当にありがとうござ
いました」

「さっき榎木さんにしばかれたことを僕自身の課題にして、
また機会があればお手伝いいただきたいと思います」

「今日は、お疲れさまでした」

来た時と同じように、近所の農家の方がバス停まで僕らを
送ってくれた。
5時15分発のバスに全員で乗って、市街に戻る。

坂口のバス停で坂口、森の台組が下車。

残りのメンバーに手を振って、僕らはほっと息をついた。
しゃらが僕の頬に手を当てて聞いた。

「ねえ、いっき。ほっぺ痛かった?」

「ん? 痛くはないよ。熱かった」

「え? 熱いって?」

「あれは榎木さんの激励でしょ? もっとしっかりしなさ
いっていう。憎しみとか侮辱じゃないもの」

素美さんがゆずぽんを気遣う。

「佐々木さん、大丈夫でしょうか?」

かっちんも心配そう。

「激励にしては、かーなりハードだったもんなあ」

「でも……」

なっつが目をぐるっと回す。

「佐々木さんて、反発して力出すタイプでしょ。逆に言えば、
小言くらいじゃ効果がないってこと。恥かかして、罵倒して、
どついて。それくらいしないと、肝心なことが飲み込めないっ
てことなんじゃない?」

りんが感心する。

「なっつって、鋭いなあ」

「ん? うちの弟がそうだもん」

どてっ。

「そういや、親から鉄拳制裁くらってなさそうなのは、しゃ
らと素美さんくらいか」

しゃらが飛び上がってる。

「えええっ?! いっきも親から殴られてるの?」

「母さん、手ぇ早いよ」

りん、納得。

「あ、確かにそんな感じする」

しゃらが告白。

「わたしは、小さい頃は結構お母さんに叩かれてたよ?」

「あ、そうなんか」

素美さんは、ちょっとげんなりした様子。

「わたしは記憶にないです。だから、さっき工藤さんが叩か
れた時は、ちょっと気分が……」

「ああ、あんなのはかわいいもんです。ヤンキーに囲まれて
ぼこられたら、あんなもんじゃないですよ?」

「ひええ」

かっちんが、ぽんと言った。

「うちじゃ、毎日だけどなあ」

「それはそれで異常だあっ!」

わはははは。


           −=*=−


慣れて、緊張感をなくして、鈍感になって。
榎木さんは、そういう僕の図々しさを見逃さなかった。

それで……。
地獄の釜の蓋が開いた。

榎木さんや早枝さんとの付き合いの長いゆずぽんは、その鈍
感さ具合が僕よりずっと大きかったんだろう。
だから榎木さんの鉄槌も強烈だった。

叩かれた痛みなんか、一瞬で忘れる。
それよりも。

叩き付けられた言葉の痛みが。
ずっと残る。

それが僕にとって痛い、どこまでも痛い事実であるからこそ。




kiran.jpg
今日の花:キランソウAjuga decumbens


別名が、ジゴクノカマノフタです。(^^)


nice!(63)  コメント(4) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 63

コメント 4

まる

 こんばんは。
 ご無沙汰して、申し訳ありませんでした。
渇を入れられるってことは見込みのある証拠、
何も言われなくなったら終わり。なんて思っています。
渇を入れる方もパワーがいることなので、
物事に真剣に向き合っているのだと思います。
by まる (2012-03-02 00:20) 

さきしなのてるりん

たたくという行為は、愛のむちとかいう言葉で結構肯定されます。
私の父は兵役についていた時、馬を飼育していましたが大声で、戒めることはあっても、たたかなかったと誇らしげでした。おかげで、私は、父にたたかれたことはありません。ただ雷おやじでした。割れ金のような声で怒鳴るときは、体がすくみ、それはそれで、パワハラだったと思います。いつも訪問ありがとうございます。自分の拙文を脇において一言。今日のアップ分の会話部分で、ずっと続いているところは推敲され、少し表現を加えらえたほうがよいかと思いますが。毎度うるさく言います。期待しています。
by さきしなのてるりん (2012-03-02 08:30) 

水丸 岳

>まるさん

コメントありがとうございます。(^^)

榎木さんというのは、この話の中で一番自他に対し
て厳しい人です。
感情に任せて動く人ではないので、活入れはきちん
と考慮の上で行われてます。もちろん、オトナに対
して言葉以外のものを使うリスク。それも覚悟して
やってるってことですね。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-03-03 09:42) 

水丸 岳

>さきしなのてるりんさん

コメントありがとうございます。(^^)

暴力をどう位置付けるか。
わたしは、この話の中では肯定も否定もいたしません。

それは、いっきというキャラクターの中で消化される
べきもの。
イジメという形で理不尽な暴力を受け続けて来たいっ
きが、自分の身に加えられた暴力をどう受け止めるか。
思考や行動にどう影響するか。

それは、自分につけられた心の傷とどう向き合うかと
いう、この話の大きなテーマになっています。
ポジティブなテーマとしての『自立』の対極ですね。(^^)

会話部分へのご指摘、ありがとうございます。(^^)
この前いただいたご意見をもとに、発話者を特定でき
る形で手直しを行ってます。
なにせ量が膨大なので、個々の会話部分を精査して文章
を足していくのは大変で。(^^;;
とりあえず、仮置きという形にしてあるものが多いです。

やっぱりモブシーンの発話者切り分けが大変。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-03-03 09:55) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。