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第146話(3) [小説]

ぺこっと頭を下げた池端さんが、申し訳なさそうな顔をする。

「これから数日は、工藤さんの家も御園さんの家も記者が張
り付いて、身動き出来ないと思います。その間だけでも、ど
こかに避難されていた方がいいかも知れません」

げええ。

僕としゃらは顔を見合わせる。
どないしょ。

池端さんが小さなモニターを持ってきた。そこにしゃらのう
ちが映ってる。

うわ。
芋洗い状態の記者。お父さんが、腹に据えかねて張ったんだ
ろう。取材一切お断りの張り紙。

続いて僕の家が映った。ごった返す記者。
こっちもゲートは閉ざされてて、同じように取材ご遠慮くだ
さいの張り紙が出てる。

「どうする?」

「……」

家にはもう今回の事件の一報は入れてある。
強行して帰ってもなんとかなるかも知れない。
でも……。

僕らもかなり追い詰められていた。
自分の今の状況と、これからを考えるのが辛いくらい。

ふと。
伯母さんのことが頭に浮かんだ。
頼ってみようか。

携帯を開く。

ぴっぴ。

「あ、巴さんですか? 工藤です。いつきの方です」

「あら、大変だったわね。婦警さんは助かったの?」

「はい、一命は取り留めました」

「それは良かったわ」

「それで……」

「ああ、マスコミでしょ? 心配しなくていいわよ。二人と
も真っ直ぐ帰っておいで。何の心配も要らないから」

はあ?

「早く帰って体休めた方がいいよ。あなたたちが倒れたら、
婦警さんは怪我し損だからね」

「はい。ありがとうございます」

ぴ。

「いっき、どこにかけたの?」

「伯母さんとこ」

「って、巴さん?」

「そう。マスコミなんて心配しないでいいから帰って来いって」

「ええっ?」

池端さんもびっくりしてる。

「どういうことでしょう?」

「さあ、分かりませんけど……」

池端さんが警察署の正面玄関を見に行った。
さっきまでうろうろしていた記者が、一人もいなくなっていた。

「どういう魔法をかけたんだ、そのおばさんという人は?」

「さあ、僕には分かりません。でも、とりあえず帰ります」

ぐったし。

しゃらと二人でタクシーで帰る。

しゃらの家の前。
さっき池端さんがモニターで見せてくれた時にはごった返し
てた記者が、人っ子一人いない。

狐につままれたようなしゃら。

「お疲れー」

「うん、また明日ね」

よれよれ。

うちの周辺も、しんと静まり返っていた。

「ただいまー」

「ああ、お帰り、大変だったね」

よろよろ、どすん。

「勘弁して欲しい……」

頭を抱える。

「五条さんの容態は?」

「とりあえず生命の危機は脱したけど、しばらく絶対安静
だって。出血がひどかったから」

「ともあれ助かって一安心ね」

「うん。ふう」

顔を上げたら、伯母さんが心配そうに僕を見てた。

「大丈夫かい?」

「はい、何とか」

それにしても。

「伯母さん、あんなにいっぱいいた記者を、どうやって追い
散らしたの?」

「ああ、あのクソハエどもね。大げさな記事やニュースにな
る前なら簡単よ。余計なこと書きやがったら、業界に声掛け
て、あんたんとこから広告全部引き上げるって言っただけ」

げ。

「つまらんゴシップネタにたかるんなら、もうちょっとまし
なもん漁りなさいってことよ」

まずは、威力絶大の伯母さんがいて一安心。

と、そこに大野先生からの着信。

「あ、工藤か。大野です。災難だったな」

「ぐったりです」

「お疲れのところ済まんが、今週いっぱいは登校するな。御
園にもそう連絡がいくはずだ。生徒がかなり動揺してる」

「はい……」

「どうも今回の加害者は、須川にそそのかされた節がある。
須川にも殺人教唆の調べが入るだろう。あいつも、たぶん受
診させられることになると思う」

「あっち系ですか?」

「そうだ」

先生が溜息をつく。

「ふう。ある一定の比率で病気は起こる。それが組み合わさ
ると、こういうことにもなりうるってことだ。不幸だが、そ
れが現実だってことだな。俺と校長でフォローする。それま
では自重していてくれ」

「……分かりました」


           −=*=−


自分の部屋に戻って、携帯を開く。
安否を気遣うメールがいっぱい届いてる。
でも、今はそれに返信できない。

目を瞑ると、路面に散った血が浮かんで見える。
やだな。
しばらくうなされそうだ。

しゃらんちの玄関口で見たアネモネ。
あの赤い色は、生命の色っていうより禍々しいものに見えた。
そんなの、当たんなくていいのに。

僕は、片桐先輩の苦悩をちょっと知ったような気がした。

精神的な疲れのせいか、なんとなく吐き気がする。
食欲がない。

リビングから、母さんが夕飯を呼びかける声がする。
行かなきゃ。
とりあえず、箸だけでもつけなきゃ。

のろのろとリビングに降りて、席に着こうと思ったら家電が
鳴った。

「あ、僕が出るわ。五条さん関連かもしれないし」

受話器を取る。

「はい、工藤です」

「……いっき」

「あ、あっきーじゃん。久しぶり。どした?」

「じいちゃんが……死んだ」




anem.jpg
今日の花:アネモネAnemone coronaria
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コメント 16

まる

 こんばんは。
 伯母さん、1枚も2枚も上手でしたね。^^。
by まる (2012-02-20 00:54) 

ももんが

なんだかおもしろそうですね(^o^)
時間のある時に、最初から読んでいきます。
by ももんが (2012-02-20 09:01) 

Rita

こんにちは^^
アネモネの赤がとてもきれいに出ていますね。
かわいらしいです~☆彡
by Rita (2012-02-20 14:59) 

kiyo

今回は、手に汗握る展開に、驚きの連続でした。
うーん、痛そう、苦しそう。
それは、見ていたいっきも、しゃらも同じ気がして、辛い。

原因が、あっち系の女子の可能性もあるとは、捻りが凄いです。
by kiyo (2012-02-20 15:48) 

kyon

nice&ご訪問ありがとうございました。
小説ですか!面白そうですね^^
by kyon (2012-02-20 23:43) 

koume

また楽しみにまってますね^^
by koume (2012-02-21 15:37) 

チョコシナモン

|。・ω・|ノ コンバンワ☆
この間はキノコの名前を教えて頂きありがとうございました。
by チョコシナモン (2012-02-21 17:58) 

ラブスコール

アネモネに、なにかを感じたいっき。。。
その繋がりがまたおもしろいですね〜
by ラブスコール (2012-02-21 19:21) 

水丸 岳

>まるさん

コメントありがとうございます。(^^)

強力すぎて、使い方が難しいです。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:27) 

水丸 岳

>ももんがさん

お越しいただき、ありがとうございます。(^^)
お手すきの時にでも覗いてみてください。(^^)/
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:29) 

水丸 岳

>Ritaさん

コメントありがとうございます。(^^)

アネモネは各色あるんですが、赤が一番アネモネらし
い感じがしますね。(^^)
ベランダで育てたことがあるんですが、なぜか赤いア
ネモネだけヒヨドリの餌食になってました。くすん。(T^T)
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:32) 

水丸 岳

>kiyoさん

コメントありがとうございます。(^^)

この話は基本的なトーンは明るいんですが、陰影を
はっきり付けるためにこういうエピソードが挟まって
しまいます。(^^;;
もちろん、それぞれにちゃんと意味があります。(^^)

by 水丸 岳 (2012-02-21 21:35) 

水丸 岳

>kyonさん

ご来訪ありがとうございます。(^^)
どうかお暇の時にでも、お目通しいただければ幸い
です。

また伺いますねー。(^^)/
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:38) 

水丸 岳

>koumeさん

ご来訪いただきありがとうございます。(^^)

また気軽に覗いてくださいまし。(^^)/
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:43) 

水丸 岳

>チョコシナモンさん

いえいえ、お役に立てれば幸いです。(^^)
で、あのキノコ。開く前はなんと……。

……食べられます。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-02-21 21:48) 

水丸 岳

>ラブスコールさん

コメントありがとうございます。(^^)

いっきの勘の良さは、これまでいじめを回避したり、
友達との仲を調整したりした中で醸成していったも
のでしょうね。

それはいっきの周囲の人を救う手がかりになるんで
すが、いっき本人には必ずしも喜ばしいことじゃ
ないというのがジレンマになってます。(^^;;

by 水丸 岳 (2012-02-21 22:10) 

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