「そういういっちゃんはどうだったの?」
「僕は、プロジェクトのみんなにチョコだめ宣言したから、
チョコはほとんどないよ。あとはサンキュー物資がいくつか」
父さんが変な顔をした。
「サンキュー物資? なんじゃそりゃ?」
「お歳暮みたいなもんじゃない?」
母さんが苦笑してる。
「片桐先輩から洋酒ミニボトル詰め合わせ。高校生に酒送っ
てどうすんだよ。中沢先生んとこに置いてきたけどさ」
「恩納先輩からはスルメが来た」
爆笑。
「御子柴先輩からは、僕名義じゃなくて、プロジェクト宛に
プリザーブドフラワーのブーケが届いてる」
りんが身を乗り出した。
「あ、嬉しいね」
「うん。あとで、メンバーから先輩宛にメッセージ送ろう
よって話してたとこ」
「藤野さんからはラチェットドライバー」
「んが……」
「さとちゃんからパンティ」
一同横転。
呆れる、りん。
「な、なんじゃそりゃ」
「しゃらともっとがんばれってさ」
爆笑。
「ちっかからはのど飴」
父さんがほっとしてる。
「お。やっとまともになったな」
「ボイトレフレンドって感じぃ?」
リョウさんが僕を指差して聞く。
「ほんまもんのチョコはなかったん?」
「三つ。そのどれもがヤバヤバ」
「はえ?」
「一つは1Dの須川さんて知らない人なんだけど、妄想爆発
系の人らしい。野郎の脅迫状がセットになってた」
りんが苦笑する。
「ああ、ぴしこね。有名人だ。一か月は身ぃ隠せよ。接触は
避けた方がいいよん」
「うっちーにもそう言われた。かなわんわ。それと……」
僕はリンツのチョコを出す。
素美さんが驚いてる。
「うわ、すごーい。リンツじゃないですか」
「食べられないのが悔しい」
りんが眉をひそめる。
「誰から?」
「発煙騒動の犯人から。女性だったよ」
「……」
「助けてくれて、ありがとうってさ」
「そっか」
「最後は……」
ハートチョコを出す。
「あら。見るからに義理だね」
「くれたのがクラスメートやプロジェクトメンバーなら、何
の問題もなしなんだけどさ」
母さんがチョコをくるくるひっくり返しながら、聞く。
「問題あるの?」
「差出人不詳なんだよ」
「何もメッセージなかったの?」
「いや、あるけど。実在しないものから連名で、ありがと
うって……」
りんが首を傾げた。
「はえ? 実在しない?」
「鳳凰と初代校長」
一同ぶっこける。
巻物ラブレターをぽんと放り出したりんが、容赦なく突っ込
んでくる。
「しっかし、見事に色ものばっかよの」
「言わんといて。まあ、僕はしゃらからのがあればあとはい
いや」
「いっちゃんからは何か贈ったの?」
「うん。銀糸細工のついたコンパクトミラー。メッセージも
入れてもらって」
「やるわねえ。喜んだ?」
「すっごく喜んでくれた。悩んで、選んだかいがあったな」
素美さんが不思議そうに僕を見る。
「え、えと。それってホワイトデーのイベントじゃ……」
「あら。バレンタインデーは、元々は双方向なの。女性から
男性への告白とか、チョコとかは日本オリジナル。クリスマ
スとバレンタインは、西洋ではデパートの稼ぎ時ね。クリス
マスがどっちかと言えば子供向けとすれば、バレンタインは
大人向けって感じかな」
「わ、そうなんですか」
「こうやって、おいしいものもごちそうしてもらえたし。い
いバレンタインデーでした」
にやにや笑いながらりんが絡んで来る。
「しゃらからは何もらったの?」
「それは最後のお楽しみ。まだ開けてない」
「ちぇ。いじろうと思ったのに」
わはははは。
−=*=−
部屋に戻って、ショッパーの中を見る。
パールピンクのリボンがかかった箱。
それとサンダーソニアの小さな花束が一つ。
箱を開ける。
中からは、型抜きされたカラフルなクッキーが出て来た。
わ! おもしろーい!
ジグソーパズルになってる。
箱から出して、組み立てる。
出て来た絵はチューリップだ。
僕らが出会った時に、しゃらが見てたのは赤いチューリップ
だったね。
僕はそれを鮮明に覚えてる。
メッセージカードを読む。
『いっきへ』
『チョコだめだって聞いて、慌てて作り直しました。こんな
んでごめんね。わたしたちの心のピースを、二人で組み上げ
ていけるように祈って』
『うぃず らぶ。ばい しゃら』
僕は、組み上げたクッキーの絵とメッセージカードを並べ
て、デジカメで写真を撮った。
すぐにしゃらに電話する。
「あ、しゃら? いっきです。クッキーありがとう。すっご
く凝ってるじゃん」
「味の方は好みかどうか分かんないけど。喜んでもらえたら
嬉しい」
「うん、大事に食べるよ。ありがとねー。大好きっ!」
あ、切れた。
照れてるな。
ふふ。
僕はベッドに仰向けになって考える。
たくさんの想いが交差して、そのいくつかは実を結び、いく
つかは萎れる。
バレンタインだけが、告白をする日じゃない。
だけどこの日は、いつもより少しだけ自分に素直になって、
勇気を出せる日なんだろう。
僕は思いを巡らす。
五条さんとタカ。中沢先生とかんちゃん。橘兄妹。レンさん
と糸井先生。
それぞれにとって、どんなバレンタインだったんだろう?
プロジェクトのメンバーにとっても、いろいろな想いを持っ
て臨んだこの日だったはずだ。
僕は祈る。
僕は願う。
いつか。
いつか、全ての人が幸福を探り当てますように。
りんりんりん。
サンダーソニアのオレンジ色の鈴が、密やかに鳴る。
想いを乗せて。

今日の花:サンダーソニア(Sandersonia aurantiaca)
こんばんは。
素敵なバレンタインデーになったのですね。
よかったです。
by まる (2012-02-16 01:03)
今回も、ステキなお話でした。
一つ一つが宝石のようなエピソードですね。
しゃらにも、いっきにもステキなヴァレンタインになったと思います。
by kiyo (2012-02-16 11:10)
ご訪問ありがとうございました。
素敵なお話ですね^^
by 水無月 (2012-02-16 12:59)
>まるさん
コメントありがとうございます。(^^)
一応華やかなイベントなので、それなりに。(^m^)
いいことばかりではないんですけどね。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-02-16 23:44)
>kiyoさん
コメントありがとうございます。(^^)
並べてしまえばごしゃごしゃになりますが、本当は
一つ一つにきちんと意味があるんかなーと。
ちょっと、思ったりします。(^^)
by 水丸 岳 (2012-02-17 00:00)
>水無月さん
コメントありがとうございます。(^^)
またお伺いいたしますねー。(^^)/
by 水丸 岳 (2012-02-17 01:53)
サンダーソニア!!!大好きなんです。
黒い背景って綺麗ですね。
あまりこの子だけを主に生けるって感覚がなかったので、すごく新鮮でした。素敵ですね!
by そら (2012-02-19 11:21)
>そらさん
コメントありがとうございます。(^^)
単独で見ると意外に地味な花なんですが、この
造形が大好きです。(^m^)
色も、オレンジ色系統の花の中では優しさが
感じられるので、いいですよね。(^^)
by 水丸 岳 (2012-02-19 13:52)