第145話(5) [小説]
二つめ。
お、さとちゃんじゃん。義理なら昼休みで良かったのに。
中身は……パンティ?!
勘弁してくれーっ!!
『ひひひ。いっき。もうちょっとしっかり押さんと、しゃら
持ってかれるで。めっちゃモテとるでの』
ぐわ。
いたー。
『わたしはバレンタインに勝負する勇気がなくて、前倒しし
て玉砕しますた。これからやけ酒食らいます。ちくそー』
『あ、パンツは未使用ですが、被らないように』
……。
ふう。
三つめ。
わ! リンツのチョコだ。これってすっごく高いと思うんだ
けど。誰だろ?
メッセージカードを開ける。
『工藤樹生様』
『直接手渡しする勇気が出なかったので、こういう形にさせ
てもらいました。お許しください』
えらく腰が低いなあ。
『あなたが、潰れそうだったわたしに気付いてくれたことを、
大野先生から聞きました。大野先生からは、一度の失敗で自
分を全否定するなと言われました。独り相撲を取るのは止め
ることにします。それを伝えたくて筆を執りました』
『ありがとう』
『笹山美津絵(ささやま みつえ)』
発煙騒動のあれは……女性だったのか。
ふう。
僕は目を瞑る。
チョコをもらえる、もらえないで一喜一憂するだけのバレン
タインなら、どんなに良かっただろうと思う。
僕は、今日たくさんこぼされただろう溜息を包み紙の上に感
じて、ぐったりと脱力した。
しゃらのは、夕食済んでから最後に開けよっと。
−=*=−
リビングに降りたら、なぜかりんと素美さんが食卓に付いてる。
「くら、またたかりに来たのかあ?」
りんが、にへっと笑って答える。
「いやあ、いっきには普段お世話になってるから、バレンタ
インメニューを提供しに来たのよん」
お、それはすごい。
「でも、その中身をわたしに考えさせるってところが、だる
だるね」
「おばさーん、それバラしちゃだめやんかあ!」
やっぱね。そんなこったろうと思ったよ。
でも、そういう風に考えてくれるのはうれすぃ。
「あれ? 伯母さんは?」
「また、呼び出し。姉さんも、死ぬまでゆっくり出来ないん
じゃないの?」
本当に、気の毒だ。
「ちわー!」
お。誰か来た。
玄関に出ると、リョウさんが立ってた。
「あれ? どしたんですか?」
「今日のバレンタインメニューのケーキは、あたしに作れっ
て言われたもんでさ」
食べられるものなんだろうか?
僕の不安そうな顔を察したのか、リョウさんが慌てて弁解する。
「寿庵で、中村さん指導のもと、長岡と阿部とあたしと三人
で作ったから、大丈夫だよ」
「うわあ。中村さんもレパートリー広いなあ」
「いや、レシピは長岡が書いたらしい。あいつは本当にすげえ」
うーぶ。
やるなあ……。
とことん女性比率の高い状態で、夕食が始まる。
「りんぽは誰かにチョコあげたん?」
「んにゃ。わたし食べる人」
これだよ。
「ほんとに浮いた話が出ねえよなー、おまいわ」
「放っとけ」
「素美さんはどうですか?」
もじもじ。
お? なんらかのアクションありか?
「ええと。巴さんとうちの両親とりんちゃん」
がくし。
「それに、佐々木さんに」
おっ? おおおっ?!
「お世話になったので」
ま、そうだろな。
でも、素美さんにしては進歩かも。
「リョウさんは?」
「あん?」
がつがつと肉をがっついてたリョウさんが、顔を上げる。
「チョコはもらってばっかで、あげたこたないからなあ」
やっぱね。
あまりにも予想通りで、おもしろくもなんともない。
「今年はどうだったんすか?」
「うーん、四十個くらいかな。卒業生は多くなるって聞いた
けど、確かに去年より多いわ」
なんだか……なあ。
「まあゴナンじゃ、チョコ持って登校すんのは、女生徒の肝
試しみたいなもんだからさ」
「ええっ?!」
「見栄張ってダチに自慢すんのに、チョコかつ上げするオト
コどもがいんだよ」
どごっ!
「情けないっすね」
「まあな。でも、あたしにとってはそのチョコは貴重だ」
ん? リョウさんでも、そういう乙女心があるのか?
「メシ作るのがめんどくさい時に、そいつでつなげっからな」
ずべ。
非常食、すか。
「実生は?」
「ん? 義理チョコだけだよ。先生と男子部員全員」
りんが大げさに驚く。
「うわ。実生ちゃんもマメだねえ」
違うな。生きる知恵だ。
実生にとっては、自分の気配りをアピールできる大事な機会
なんだよね。
たかがチョコ、されどチョコ、か。






