ありゃ。
そう言えば、しゃらからなんのアプローチもなかったな。
チョコだめのショックがでかかったか?
渡り廊下のところで、バレンタインポットを見る。
見事に丸坊主になっていた。
大成功!
まだ校内のあちこちで、悲喜こもごものやり取りが続いてる
んだろうなー。
酒を持って帰るわけにはいかないので、職員室に寄る。
「中沢先生ー。いますかー」
「おー」
気の抜けた返事が聞こえた。
「ありゃ、久しぶりのぐだぐだですね」
「余計なお世話だ。ちょいと試作のチョコを食い過ぎてね」
「うわ。かんちゃんへ告るんですか?」
ばきっ!
いてて。
いきなりど突かんといて。
「千咲に頼まれたんだよ。あのやろ、見栄張りやがって」
うん。全部見えた。
「五条さんも、どんなんでもいいから自分で作ればいいのに。
どうせタカなんて、味も見ないでばりばり食べて終わりなん
だから」
「まあね。でも、あいつんとこは停滞してるから突破口が欲
しいんだろ」
なるほど。
「あ、先生、これが片桐先輩のところから来たんで、還元し
ます。さすがに僕がこれ持って帰るわけにいかないんで」
「あいつも、何考えてるか分からんなあ」
「まあ、それが先輩っすから」
先生はかんちゃんには渡さないのかなーと、ちょっと考えた
けど。去年のクリスマスの時のこともあるし、無理に突っ込
まんどこう。
職員室を出て生徒玄関に回る。
靴箱を開けたら、そこに三つ。
チョコらしきもの。
今度は、物騒な紙片は入ってなかった。
さすがに、その場で中身を確かめる元気はない。
ビニール袋にぽんぽんと突っ込んで、靴を履き替える。
なんか、精神的にどっとこさ疲れたわ。
玄関出たところで、しゃらがしょぼんと立ってた。
「あれ? どした?」
「うん……さっき、見ちゃった」
げ。
「小野寺さんの、あれ?」
「うん」
「うー。しょうがないよ。僕にはああいう風にしか言えない
もん」
「……」
しゃらは、校門の方を見やりながら呟いた。
「バレンタインは悲しいね。実らなかった想いが、いっぱい
地面に散らばってる」
「うん。でも、想いは出さないと実らないから」
僕はカバンから、赤い包装の箱を取り出した。
白い細いリボンが、ちょっと凝った感じでかかってる。
「これは僕からしゃらへ。今日渡せて良かった。せっかくバ
レンタインデーなんだからさ」
「えええっ?」
驚くしゃら。
「男からってホワイトデーじゃないの?」
「それこそ、お菓子業界の陰謀だよ。バレンタインデーは、
愛の告白をするだけじゃなくて、普段お世話になってる人へ
の深い愛情と感謝を表す日でもあるんだ。男、女は本来関係
ないの」
予想してなかったプレゼントに、しゃらがハイになる。
「うっわーっ! 嬉しいっ! 開けてもいい?」
「いいよー」
出てきたプレゼントを見て、しゃらが固まる。
「こ、これ、高かったんじゃないの?」
「そんなことはないけど。気に入ってくれれば嬉しい」
しゃらは、手元のコンパクトをじっと見ていた。
銀糸細工が鮮やかなコンパクトミラー。
縁の部分に、メッセージが彫り込んである。
『My true and honest love』
『for Shara from Ikki』
「銀は魔除け。鏡は自分を映す。いつまでもそのままのしゃ
らでいてくれると嬉しい。そういう想いを込めて」
ぱふっ。
しゃらが僕に正面から抱きつく。
「嬉しいっ! 本当に嬉しいっ! 前言撤回。やっぱバレン
タイン最高っ!」
おいおい。
しゃらが手元の小さいショッパーを差し出す。
「わたしから。恥ずかしいから、家に帰ってから開けてね」
「わーい!」
やっぱり、本当に欲しい人からのものが一番楽しみだし、嬉
しい。
二人でちゃりを押しながら、あーでもない、こーでもないと
バレンタインデー談義をしながら帰った。
−=*=−
「ただいまあ」
「あ、いっちゃん、お帰り。戦果はどうだった?」
「後で披露するよ。なんかとんでもないもんが多くて。げっ
そり」
「……想像が付くわね」
自分の部屋で、靴箱に入っていた未開封の三つを確認。
一つは、ちっかからだった。
入っていたのはのど飴。笑える。
でも、メッセージは笑えなかった。
『いっきへ』
『どうして、しゃらより先に出会えなかったんだろうと、ず
いぶん神様に愚痴を言いました。でも、わたしはしゃらを通
して初めていっきのことを知りました』
『わたしが目を閉ざしてなければ、もっと早くにいっきと知
り合えたかもしれない。わたしは、それを教えてもらっただ
けで充分です』
『たくさんのありがとうを込めて』
『ちっか』
……。
今回の嬉し・恥ずかしヴァレンタインの話は、とても良かったです。
小野寺さんの言わずにはいられなかった思いもステキだし、
しゃらが、いっきに抱きつくシーンは、目に浮かんできました。
青春って、こうじゃなくちゃね。と思いました。
でも、悲しい思いも、ヒトを強くさせますね。
きっと。
by kiyo (2012-02-15 10:57)
いっきったら、素敵じゃないですかぁ^^
小野寺さんに言った言葉も
このコンパクトに込めた思いも。。。*^^*
by ラブスコール (2012-02-15 13:17)
>kiyoさん
コメントありがとうございます。(^^)
小野寺さんの想いは、本当はずっと前からいっきに向
けられていたもの。
本作はいっき視点での記述なので、鈍ないっきには
見えてなかったってことですね。(^^;;
ちょっと悲しいんですが、そこを乗り越えないと先に
進めないのは、会長の言う通りでして。はい。
しゃらは、自分がいっきを独占していていいんだろう
かっていう、なんとなく鬱屈した感情を持ってます。
いっき側からの働きかけがないと、すぐにぐらつき
だす。今回は、いっきがうまくフォローしました。(^^)
by 水丸 岳 (2012-02-15 19:54)
>ラブスコールさん
コメントありがとうございます。(^^)
一応ラテン系のクオーターということで、そう言った
血が入っているのかと。(^m^)
母親がストレートな人ですから、いっきもそうした
気性を受け継いでいると思われます。(^^)
ただ……かーなり鈍ですが。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-02-15 20:16)