第145話(3) [小説]
僕は返事せずに、考え込む。
鳳凰と初代校長の銅像。
それを両方知っているのは、片桐先輩だけだ。
でも、片桐先輩のカードの筆跡とは明らかに違う。
あのドライな眠り姫の先輩が、こんな手の込んだ嫌がらせを
するとは到底思えない。
プロジェクトメンバーには、僕がチョコだめってことを知ら
せてある。
プロジェクトの関係者以外で、鳳凰、初代校長と僕との関係
を知ってる人がいる?
全く想像がつかない。
僕は無言で、そのどこにでもありそうなハートチョコをじっ
と睨みつけていた。
さとちゃんが呆れ顔で僕のもらいものを見回す。
「うーん、いろいろ訳ありばっかの靴箱チョコだったね」
「めでたさも中くらいなり、だなあ」
親方のセリフが口をついて出て来ちゃった。
はあ……。
そして、最後にビニール袋に詰め込まれていたたくさんの紙
片。それを一枚広げてみて。
凍る。
『死ね!』
慌てて、他の紙片も広げる。
『死んでしまえ!』
『げす野郎!』
『おまえなんかクズだ!』
『生きてる資格なんかない!』
『くたばれ!』
『ぶっ殺す!』
『ぶっ殺してやる!』
くすくす。しのやんが笑う。
笑えるのか?
「やれやれ。いっきもモテるのはいいけど、こんなんばっか
じゃ大変だね」
「はあ?」
こわごわって感じで紙片を見てたばんこが、振り返る。
「だ、大丈夫なの?」
「いっきの前で言えないから、こんな稚拙な反撃しかできな
いんだよ。放っときゃいい」
「どゆこと?」
「靴箱にチョコを入れてた1Dの須川さん。その人に片思い
の男の子がいるんでしょ。嫉妬だよ。どうしたらいいか分か
んないから、ノートに殴り書きして、警告文をいっきの靴箱
に突っ込んだ。そんだけ」
あ、なある。
「どうせいっきは関わらないんだろうから、勝手に鎮火する
でしょ。放っとけ放っとけ」
しのやんは、この前のゴナンの一件以来、さばけてすっかり
図太くなったような気がする。
大したもんだなー。
僕らが四人でわいわい話してる間中、なぜか小野寺さんが
こっちをちらちら見ていた。
なんじゃろ?
−=*=−
ロングホームルームでは、ウォークライの最終確認と、クラ
ス解散会の日程調整が話し合われた。
公式発表はないけど、大野先生の転勤はもう公然の事実に
なってる。市工に戻る形になるらしい。
寂しいけど、仕方がない。
バレンタインも朝の部、昼の部が終わって、いよいよ残すと
ころわずか。
パターンを見てると、それぞれみんな考えてプランを練って
るんだなって、よく分かる。
朝渡すのは、こっそりが可能だってことと、出し抜きが出来
るってメリットがある。
キーワードは靴箱と早朝。
昼渡すのは、誇示と照れ隠し。どさくさに紛れてってのが出
来るのと、競争覚悟で自分を堂々とアピールできる。
キーワードは教室前と突撃。
そして放課後は、時間の制約を受けずに、しっかりと本人の
前で渡して、メッセージを伝えられる。
まさに本命への運命のアプローチだ。キーワードは決心。
教室の掃除が終わって、机を戻してる間。
僕はそんなことをぼやっと考えていた。
「ふう。やれやれ」
日直のチェックが終わって。
自分の席に戻って、カバンを掴んだ。
みんなはさっさと決戦の場に出かけたらしい。
教室の中には僕一人。
あ、靴箱のも持って帰らないとな。
ビニール袋を掴んで顔を上げたら、横に小野寺さんがいた。
「どした?」
「うん、ちょっと」
顔を伏せた小野寺さんが、少しためらうように声を出した。
「あのね。わたし、工藤くんが好きです」
どええええええーーーーーっ!
のけぞった。
「ちょ、ちょっと。僕が彼女持ちだってこと知ってるでしょ
うが」
「うん、知ってる。知ってるけど……我慢出来なかったの」
「も、もしかして会長に相談って……」
「そう。それ」
あ、頭いたー。
「会長さんに言われた。想いを止めることは出来ない。あな
たには辛い結末が待ってると思うけど、それを我慢するより
は伝えた方がいいって。そうしないと、次に進めないよって」
……。
ふう。
「そっか。会長も酷なことをするなあ。僕に幕を引けってか
よー」
小野寺さんがうつむく。
「ごめんね。僕にはしゃらがいる。僕としゃらは、好き嫌い
よりもっと深いところでつながってる。そして、まだお互い
にどうしたらいいか分かんなくて、もがいてる。だから、よ
そ見できないんだ。ごめんね」
泣きながらうなずいた小野寺さんが、教室を走り去った。
ふう。
どすんと椅子に腰を下ろす。
心に色が付く。
それはいい色ばかりじゃあ、ない。
だけど、その色があるから僕らは生きてると感じられる。
小野寺さんも……。
そう思ってくれると嬉しい。






