第145話(1) [小説]
2月14日(木曜日)
ゲートのところまで出て空を見上げる。
今日はきれいに晴れたなあ。それに暖かい。
バレンタインデー日和になったね。
女の子は、昨日から授業どころじゃないだろう。
スーパーやお菓子屋さんは、どこへ行っても女性ばっかで大
混雑。
母さんがお菓子屋さんの陰謀って言ってたけど、あながちウ
ソってわけでもなさそう。
それくらい、この日に売り上げが上がるんだろうなあ。
ちゃりを漕ぎながら考える。
今までは、バレンタインが自分にとってどんな日かなんて、
考えたことがなかった。
何もしなくても来てしまう、転校という名の別れ。
仲のいい友達が出来ても、それは転校で打ち止め。
もしチョコをもらったとしても、それが自分と友達の友情を
深くしたら、きっと別れの傷も大きくなったんだろう。
だから。
僕は家族以外の誰にも、プレゼントってのを贈ったことはない。
いや、プレゼントだけじゃない。
想いを……告げたことがなかったんだ。
しゃらに初めて想いを告げられ、想いを告げた。
そして、プレゼントをもらい、渡した。
僕にとっても、今日のこの日は特別。
特別なんだよね。
−=*=−
ちゃりを自転車置き場に置いて、生徒玄関に回る。
本人に直接渡す勇気のない子は、早起きして靴箱に入れるっ
て子もいるんだろうなあ。
僕は自分の靴箱を目の前にして、ちょっと笑顔を浮かべた。
……その後の大混乱なんか、思いもせずに。
靴箱を開ける。
中にはなんか知らん、いろんなものがごっちゃりと詰まって
いた。
ええと。僕の靴箱は、ゴミ箱じゃありませんが。
背後から声が掛かった。
「うーす、いっき。靴箱ん前で腕組みして、どした?」
「ああ、かっちん。はよ」
僕は靴箱を指差す。
「これは、どういうことかと思ってさ」
「はん?」
冷静なかっちん。
「まあ、とりあえず、中身を教室持ってってから考えれば?
もうすぐ予鈴なるぞ?」
「んだな」
「ああ、ビニール袋あるから、やるよ」
「おー? かっちん準備いいな」
「まあ、ささやかな願望だ。この三分の一でもいいからチョ
コが入らねえかなーって」
「実際は?」
「聞くなよ。いっつもなっつの義理チョコ一個きりだよ。あ
いつの場合、見返り期待で反動でかいんで、おれは受け取り
たくないんだけどよ」
「ぎゃははは」
かっちんからもらったビニール袋の中に、靴箱の中のものを
ごさっと入れて、教室へ。
「おっはー」
なっつが僕の持ってたビニール袋に目をやる。
「おはよー、いっき。朝っぱらから清掃活動?」
「ちゃうけどさ。僕の靴箱をゴミ箱と間違えてるんちゃうか?
テラ、むかつくぅ」
「へー」
でも、笑わなかったなっつ。
「それ、早く仕分けた方がいいと思うよ」
ほよ?
まあ、確かにそうだ。
大野先生が、僕らを見回しながらゆっくり入ってきた。
「席に着けー。バレンタインで浮かれてるみたいだけど、も
うすぐ試験だからなー。それ忘れんなよー」
「げー」
−=*=−
昼休み。
お弁当をかき込んで、例のビニール袋の中を見る。
手前に入っていたものが最初に袋に入ったから、それは全て
紙切れだ。
上の方に五、六個の箱が見える。形もサイズもいろいろ。
つまり、最初に靴箱の中にそれらが入れられて、それを隠す
ように紙切れが詰め込まれた、と。
そういう感じかなー?
まあ、まず箱の方を確認しよう。
ひぃふぅ……六個だ。
この平たい箱は何だ?
一応リボンはかかってる。
なんか、ちゃぽんちゃぽん言ってるけど。
開けてみる。
洋酒の小瓶三点セット。
がくっ!
メッセージ見なくても、誰からのか分かるな。
ばんこが嗅ぎ付けた。さとちゃんも飛んで来た。
当然しのやんも来る。
ばんこが小瓶をちゃぽちゃぽ振る。
「ねえ、このヤバそうなブツは誰からの?」
「勘弁してくれー。片桐先輩の仕返しだろ」
「どゆこと?」
「のーこめんと」
「ええー?」
「説明したって、ネタにはならん」
メッセージあり。
『工藤くん、いつぞやは素晴らしい経験をありがとう。
ほんのお裾分けです』
『片桐みえり』
あの時、相当森本先生に絞られたんだろうなあ。
後で、中沢先生にでも引き取ってもらおう。
ったく。
二つめ。
白い小さな箱。
これもレースのリボンがかかってて、しゃれてる。
軽いなあ。
中から出てきたのは、ケースに入った、プリザーブドフラ
ワーの小さなブーケ。
「あ、御子柴先輩からだ。メッセージが付いてる」
『プロジェクトがんばってね。わたしに色褪せない思い出を
残してくれたことに、いっぱいの感謝を込めて』
『工藤樹生さんと、そのお友達へ 御子柴優理(ゆうり)』
みんなでそれを見て、ほっと息をつく。
しのやんが微笑する。
「うん。プロジェクトやってて、一番良かったなーと思う瞬
間だね」
「先輩も受験で忙しいのに、持ってきてくれたんだなあ。あ
とでみんなでメッセージを送ろうよ」
「そだね」






