第143話(4) [小説]
後野さんが、ビニール袋からレタスを何玉か取り出した。
「僕らがクラブで育てたレタスですー。無菌栽培してますか
ら洗わずにそのままばりばり食べられますー。何もつけずに
食べてみてくださいねー」
みんなで葉を剥がして口に放り込む。
ぱくっ。
しゃらが絶句した。
「わ! 甘ーい。これが本当にレタス? 信じられない!」
片桐先輩も、手に持ったレタスをじっと見てる。
「苦みがほとんどないね。わたしはレタス嫌いなんだけど、
これなら食える。うーん……すごいなー」
そして予想はしてたけど、恩納先輩が非常識なリクエスト。
「ねえ、もっとないのー?」
おいおい。
かっちんが腕組みしてうなった。
「うーん。テクノロジーってすげえなあ」
「今度は機会を見て、僕らが見学したいね」
「そうだな。その企画も立てようぜ」
「んだんだ」
アグリ部のお二人は嬉しそうだ。
そろそろお開き。
市工の宇津木先生が、代表して僕らにお礼を言った。
「今日はみなさんの活動を見学させていただき、本当にあり
がとうございました」
「私は部の連中に常々言ってます。テクノロジーの出口を考
えろ、それが何のためかをいつも忘れずに考えろ、と。人と
人をつなぐことを目的にがんばっておられるみなさんの活動
は、彼らにとても参考になったと思います」
「これを機に、また交流を続けたいと思いますので、よろし
くお願いいたします」
藤原さんと後野さんがぺこりと頭を下げた。
−=*=−
リドル。
僕としゃら、かっちん、なっつ、じんの五人で、延長戦。
しゃらが笑顔で作業を振り返る。
「楽しかったねー。市工の人たちも感じよかったし」
「うん。市商やメリアの学祭行った時も思ったんだけど、み
んなそれぞれカラーがあって、おもしろいなあと思った」
「おれらの高校には、おれらの高校なりのカラーがあるって
こったな」
「そうだね。その良さは外から見るとよく分かるってことだ
よね」
じんは、そう言って、少し寂しそうな顔をした。
「短い間のプロジェクトメンバーだったけど、僕はしっかり
手伝えたかな?」
なっつがすかさずフォローする。
「じんがいたからここまで出来たんだよ。それに、これから
もがんばってくれなきゃ」
「そうそう。もともとプロジェクトは有志の集まりなんだ。
すごく厳しい規則や縛りがあるわけじゃない。じんの提言は
いつでも前向きに聞くし、僕らはじんが出て行くとは考えて
ない。このプロジェクトが続く限り、じんはメンバーだよ」
その時のじんの嬉しそうな顔は、絶対に忘れられない。
ただ……じんが抜けた後の体制を早く固めておかないとなあ。
「さあ。最初の関門は新しい校長先生だなあ。どんな人が来
るのかなあ」
じんが、ちょっと声を潜める。
「情報がある。広げないでね。特になっつ」
なっつが首をすくめる。
「次の校長は、ぽんにの教頭先生らしい。ぽんにに行ってる
友達に聞いたけど、それほど癖の強い人じゃないって。ただ
し……」
みんなの顔が、テーブルの中央に集まる。
「ぽんいちは伝統校だけど、最近地盤沈下がひどい。ぽんに
に学力で逆転されてから、進学率も有名大学への合格者数も
下がり続けてる。郊外に新しく出来た田貫国際や田貫緑陽(りょ
くよう)、田貫明成(めいせい)にも抜かれそうなんだってさ」
「ぽんいちのOBがそれを気にして、学力向上にまじめに取
り組めってハッパをかけたらしい。今度の教員人事異動では、
相当やり手の先生が送り込まれるだろうって聞いてる」
みんな、顔を見合わせて溜息をつく。
「おれらは、タフにならんといかんてこったな」
「げー」
げんなりしたみんなの中で、しゃらだけは表情を変えなかった。
「がんばらないとね。プラスに考えないと。学校がわたした
ちのことを考えてそうしてくれるのなら、わたしたちはその
チャンスを逃がさないようにしないと。単に反発するんじゃ
なく。見かけに騙されないで」
「うん、確かにそうだ。ますます中庭の役割が重要になりそ
うだね」
「うん。そう思う」
じんはそう言って、爪の中に土の入った自分の指をじっと見
つめた。
−=*=−
自分の部屋で、植え込みの済んだ中庭の画像と、作業したメ
ンバー勢揃いで撮った記念写真を見る。
それを見つめて、改めて思うことがある。
僕らはいかに自由に恵まれてきたか。
僕らは、本当に自主独立を勝ち取ってきただろうか?
今日、作業を手伝ってくれた校長先生のおおらかな姿勢が、
危うい僕らをこれまで支えてくれてただけだ。
それは当然のことじゃなくて、単なる幸運に過ぎない。
じんがあえて生徒会に出る一番の理由は……。
そのことに対する危惧だと思う。
僕らが享受してきた自由。
それは仮初めのものに過ぎない。
木崎先輩が警告したように、僕らがきちんと自分の足下を見
つめていないと、それはあっと言う間に消え去るんだろう。
それを。
先生や学校のせいにするのは卑怯だ。
僕らが当たり前だと思っている自由の意味。
これから僕らは、その意味をもう一度一から考え直す必要が
ある。
だから、これから来るであろうどんな事態に対しても。
僕らは僕らのなすべきことをしよう。
出来ることをしよう。
困難があれば、乗り越える努力をしよう。
その結果が……。
僕らにとっての自由なんだろう。
勝ち取った自由になるんだろう。
それを……忘れないように。肝に銘じよう。
中庭に置かれた、キバナアマの明るい黄色い花。
僕は、あの花は誰にでも元気をあげられると思う。
でも。
あれを見てもなんとも思わない人もいるだろう。
僕らはそれを責めることは出来ない。
出来るのは。
それを見て元気になった僕らの姿を。
示すことだよね。

今日の花:キバナアマ(Reinwardtia indica)
「僕らがクラブで育てたレタスですー。無菌栽培してますか
ら洗わずにそのままばりばり食べられますー。何もつけずに
食べてみてくださいねー」
みんなで葉を剥がして口に放り込む。
ぱくっ。
しゃらが絶句した。
「わ! 甘ーい。これが本当にレタス? 信じられない!」
片桐先輩も、手に持ったレタスをじっと見てる。
「苦みがほとんどないね。わたしはレタス嫌いなんだけど、
これなら食える。うーん……すごいなー」
そして予想はしてたけど、恩納先輩が非常識なリクエスト。
「ねえ、もっとないのー?」
おいおい。
かっちんが腕組みしてうなった。
「うーん。テクノロジーってすげえなあ」
「今度は機会を見て、僕らが見学したいね」
「そうだな。その企画も立てようぜ」
「んだんだ」
アグリ部のお二人は嬉しそうだ。
そろそろお開き。
市工の宇津木先生が、代表して僕らにお礼を言った。
「今日はみなさんの活動を見学させていただき、本当にあり
がとうございました」
「私は部の連中に常々言ってます。テクノロジーの出口を考
えろ、それが何のためかをいつも忘れずに考えろ、と。人と
人をつなぐことを目的にがんばっておられるみなさんの活動
は、彼らにとても参考になったと思います」
「これを機に、また交流を続けたいと思いますので、よろし
くお願いいたします」
藤原さんと後野さんがぺこりと頭を下げた。
−=*=−
リドル。
僕としゃら、かっちん、なっつ、じんの五人で、延長戦。
しゃらが笑顔で作業を振り返る。
「楽しかったねー。市工の人たちも感じよかったし」
「うん。市商やメリアの学祭行った時も思ったんだけど、み
んなそれぞれカラーがあって、おもしろいなあと思った」
「おれらの高校には、おれらの高校なりのカラーがあるって
こったな」
「そうだね。その良さは外から見るとよく分かるってことだ
よね」
じんは、そう言って、少し寂しそうな顔をした。
「短い間のプロジェクトメンバーだったけど、僕はしっかり
手伝えたかな?」
なっつがすかさずフォローする。
「じんがいたからここまで出来たんだよ。それに、これから
もがんばってくれなきゃ」
「そうそう。もともとプロジェクトは有志の集まりなんだ。
すごく厳しい規則や縛りがあるわけじゃない。じんの提言は
いつでも前向きに聞くし、僕らはじんが出て行くとは考えて
ない。このプロジェクトが続く限り、じんはメンバーだよ」
その時のじんの嬉しそうな顔は、絶対に忘れられない。
ただ……じんが抜けた後の体制を早く固めておかないとなあ。
「さあ。最初の関門は新しい校長先生だなあ。どんな人が来
るのかなあ」
じんが、ちょっと声を潜める。
「情報がある。広げないでね。特になっつ」
なっつが首をすくめる。
「次の校長は、ぽんにの教頭先生らしい。ぽんにに行ってる
友達に聞いたけど、それほど癖の強い人じゃないって。ただ
し……」
みんなの顔が、テーブルの中央に集まる。
「ぽんいちは伝統校だけど、最近地盤沈下がひどい。ぽんに
に学力で逆転されてから、進学率も有名大学への合格者数も
下がり続けてる。郊外に新しく出来た田貫国際や田貫緑陽(りょ
くよう)、田貫明成(めいせい)にも抜かれそうなんだってさ」
「ぽんいちのOBがそれを気にして、学力向上にまじめに取
り組めってハッパをかけたらしい。今度の教員人事異動では、
相当やり手の先生が送り込まれるだろうって聞いてる」
みんな、顔を見合わせて溜息をつく。
「おれらは、タフにならんといかんてこったな」
「げー」
げんなりしたみんなの中で、しゃらだけは表情を変えなかった。
「がんばらないとね。プラスに考えないと。学校がわたした
ちのことを考えてそうしてくれるのなら、わたしたちはその
チャンスを逃がさないようにしないと。単に反発するんじゃ
なく。見かけに騙されないで」
「うん、確かにそうだ。ますます中庭の役割が重要になりそ
うだね」
「うん。そう思う」
じんはそう言って、爪の中に土の入った自分の指をじっと見
つめた。
−=*=−
自分の部屋で、植え込みの済んだ中庭の画像と、作業したメ
ンバー勢揃いで撮った記念写真を見る。
それを見つめて、改めて思うことがある。
僕らはいかに自由に恵まれてきたか。
僕らは、本当に自主独立を勝ち取ってきただろうか?
今日、作業を手伝ってくれた校長先生のおおらかな姿勢が、
危うい僕らをこれまで支えてくれてただけだ。
それは当然のことじゃなくて、単なる幸運に過ぎない。
じんがあえて生徒会に出る一番の理由は……。
そのことに対する危惧だと思う。
僕らが享受してきた自由。
それは仮初めのものに過ぎない。
木崎先輩が警告したように、僕らがきちんと自分の足下を見
つめていないと、それはあっと言う間に消え去るんだろう。
それを。
先生や学校のせいにするのは卑怯だ。
僕らが当たり前だと思っている自由の意味。
これから僕らは、その意味をもう一度一から考え直す必要が
ある。
だから、これから来るであろうどんな事態に対しても。
僕らは僕らのなすべきことをしよう。
出来ることをしよう。
困難があれば、乗り越える努力をしよう。
その結果が……。
僕らにとっての自由なんだろう。
勝ち取った自由になるんだろう。
それを……忘れないように。肝に銘じよう。
中庭に置かれた、キバナアマの明るい黄色い花。
僕は、あの花は誰にでも元気をあげられると思う。
でも。
あれを見てもなんとも思わない人もいるだろう。
僕らはそれを責めることは出来ない。
出来るのは。
それを見て元気になった僕らの姿を。
示すことだよね。

今日の花:キバナアマ(Reinwardtia indica)







こんばんは。
新学期から、また新しい展開が
始まる予感。
楽しみにしています。
by まる (2012-02-11 00:29)
なんか凄く感動した。
しゃらの言葉からも
このいっきの後半の思いからも
いろいろ感じて、今、じ〜んとしてます。。。
by ラブスコール (2012-02-11 05:05)
テンポのある若々しい文体はとってもいいですね。
そのうえで、
素人なのにいうのはなんですが、
ちょっとだけ気になったことを言いますね。
セリフの前に喋った人の頭文字を入れているのと、
ト書きのような表現があること。
脚本ではないと思うので、
セリフをしゃべった人の表情を
書き込む(ところどころには入っていますが)
ほうがいいように思います。
知ったようなこと言ってごめんなさい。
素人の読み手の感覚です。
聞き流してください。
はじめてお伺いしたのに失礼しました。
by さきしなのてるりん (2012-02-11 17:22)
>まるさん
コメントありがとうございます。(^^)
二年生編は、一年生編とはだいぶ趣が変わると思い
ます。一年生の三学期は、それを予感させる内容に
なってます。(^^)
by 水丸 岳 (2012-02-11 18:52)
>さきしなのてるりんさん
コメントありがとうございます。(^^)
いや、どなたかから必ず突っ込まれるだろうなあと思っ
ていた点なので、とてもありがたいご意見です。(^^)
この小説。ちょっとスタートが変則でして。
もともとはサウンドノベルのシナリオとして書き始めた
経緯があります。
テキストボックスに文章を流し込んで、発話者は絵なり
アイコンで別途示せる、そういうスタイルに合わせて書
き始めました。
で、そういうのをさっくり棚上げして小説の形で載せ始
めたので、人物とセリフのリンクがかなり手抜きになっ
ています。
まだサウンドノベル化を完全に諦めたわけではないので、
そのあたりの表現をどうするかちょっと迷ってまして。(^^;;
現在書き進めている二年生編では、できるだけ小説スタ
イルでの表記にしてますが、モブシーンだけはどうにも
ならないので。うーむ。悩みます。(^^;;
書き進めながら、ぼつぼつ手直しって感じですね。(^^;;
本館に載せてる短編・中編は、全て通常の表記になって
います。もしよろしければ、そちらもご覧になってみて
ください。(^^)/
by 水丸 岳 (2012-02-11 19:16)
>ラブスコールさん
コメントありがとうございます。(^^)
じんはフィクサー的な役回りなんですが、非常に芯が
しっかりしています。
会長をして、『高校生離れしてる』と言わしめるほど。
いっきは、そういうじんの志の高さにしっかり感化
されています。
それは、これからプロジェクトの運営を考える上で、
いっきの覚悟を促す形になっています。
ただし。
そんなに簡単なことではないんですけどね。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-02-11 19:43)